みなみつきひ

小説、エッセイを書いています。黒猫、インド、まわり道。よく迷子。

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最近の記事

伊豆文学賞の授賞式、はじめての熱海

このたび大変ありがたいことに、 第27回伊豆文学賞、掌編部門にて優秀賞に選んでいただきました。 審査員の先生方、ご準備いただいた関係者の方々に深く御礼申し上げます。 というわけで、授賞式に出席するため、はじめての熱海に行かせていただきました。 熱海駅から会場の起雲閣まで歩いて向かいます。 側溝から湯気が噴きでていて、まさしく温泉街という趣。 坂が多いので、スニーカーで正解でした。 集合の前に昼食をすませておこうと、近くの公園でお弁当のフタをひらいたら、突然、手に持って

    • 母のコロッケ便

      子どもの小学校で、インフルエンザB型が大流行している。 息子も先週もれなく発熱したが、結果は陰性だったので、抗インフル薬はもらえなかった。それでも子どもの免疫はたくましく、おとなしく寝ていたら三日で熱が下がり回復。結局、学級閉鎖もあって、先週はまるまる自宅にいたものの、今週は元気よく登校している。 息子の復活を喜んだのもつかの間、次はお前だと言わんばかりに、私の体にウイルスが乗りこんできた。まあ、でも、息子の様子を見ていたら、そこまででもないだろう。コロナやインフルAより

      • ヨガの服に着がえたら、お風呂そうじがはかどった

        格好からスイッチを入れる、ということは往々にしてあるけれど、いつも狙ったスイッチが押せるとはかぎらない。 つい先日のこと。 雨が降っていたので、ランニングには出かけなかった。代わりになにか体を動かさなければと(コロナ時代に初めて挑戦し、胸骨をいため挫折して以来)ひさびさに、ヨガ用のTシャツとタイツに着がえた。 気合い十分。汗をかく気満々。 お、待てよ。その前にお風呂を沸かしておいたら、汗をかいてもすぐに入れて最高じゃないか。妙案とばかりに浴室へ向かう。 数ある家事のなか

        • 法然院にて谷崎潤一郎の墓に手を合わせ、新年がはじまる

          今年こそ一年の目標を掲げようと思っていた矢先、つぎつぎと大変なことが起こって、しばらく言葉を失っていた。 被災地と、遠い場所で新年を迎えた。揺れさえ感じなかったことに罪悪感を感じた。ずいぶん前だが、イカ焼きやおやきを片手に歩いた輪島の朝市のあったかい風景を思いかえしては、胸が押しつぶされるように苦しくなった。 思いがまったくまとまらなかった。 言葉が見つからず、自然の強烈なエネルギ―と無慈悲さとを、嘆きくりかえすことしかできなかった。 *** 年明け早々、京都に行く機

        伊豆文学賞の授賞式、はじめての熱海

        マガジン

        • 旅の記憶
          5本
        • 子どもとの日々
          5本

        記事

          イチゴジャムと、たまごペースト

          月曜日の朝、わたしはとても慌てていた。 ベランダの非常口点検から逃れるために。初対面の点検者が自宅に上がりこみ、居間を通ってベランダを点検するという、半年に一度おとずれる恐怖の訪問日がやってきたのだ。 月曜日の朝の居間は、決まって、おそろしい。 週末の子どもたちは盛大に散らかし、床の洗濯物は畳まれる暇がなく、洗われるべき茶碗には手さえ付けられていない。   以前、その点検の知らせをすっかり忘れて、インターホンに出たことがあった。流れるがままにドアを開け、おじさんたちが上が

          イチゴジャムと、たまごペースト

          石って、蹴っていいんだっけ?

          世の中にはけっこう矛盾していることが多くて驚いたりもするけれど、残念ながら自分自身の矛盾にも、もやもやすることがよくある。 子どもたちに、歯みがきは洗面所でしなさいと注意しながら、自分は本を読みながら歯をみがいていたり、寝ころんで本を読んではいけないと言いながら、自分では寝ころんで読むのが好きだったり。 親という役割に徹するべく、あなたの視力を守るためだとか言いながら、私の目はもうひどい近眼だし、こんなふうになってほしくないからだと伝えても、説得力は皆無である。 ***

          石って、蹴っていいんだっけ?

          キャンプのバトンを

          子どもの頃、旅行といえばキャンプだった。 両親と兄ふたりの5人家族だったから、旅館やホテルに連泊するとけっこうな金額になってしまう。経済的に余裕はないけど旅行好きだった母の苦肉の策が、夏のキャンプ旅行だった。 3泊4日。ぐるぐる巻きにした布団や羽釜、食器などを、セダンのトランクぎゅうぎゅうに詰めて出発する。九州の南から阿蘇ルート、大分ルート、佐賀や長崎ルート、山口ルート、大分からフェリーに乗って四国をぐるりと回ったこともあった。 いつも初めてのキャンプ場だったから、様子が

          キャンプのバトンを

          【短編小説】反転

           人生は、だれかに見られる日と、見られない日とでできている。  そんなあたり前のことを、こふみはいつから考えるようになったのだろう。今日はパートがあるから、最低限のメイクが必要だし、穴の空いた靴下も履かない。多少の毛羽立ちは許されるにしても、毛玉まみれのセーターは着ていかないようにしている。  週に四日のパートは、健全な心と体を守るためのぎりぎりの日数で、これ以上多くてもしんどいし、少なくても暮らしが立ちゆかなくなる。何より今日は鎌田さんに会える日で、正確に言えば見ることの

          【短編小説】反転

          ついつい、日記

          ご無沙汰しております。 思えば、このような日記を書くのは初めてのような気がするのですが、ついつい嬉しくて書いてしまっております。 222回コバルト短編小説新人賞の最終に、今回残していただけました。 コバ短は2度目の投稿だったのですが、こうして拾い上げていただいて、なんか、もう感無量で。何より、こんなに丁寧な選評をいただいたことがなかったので、最初見たときは心拍数バク上がりで、み、水を、くれ、水を、状態でした。 指摘いただいたことは自分でも引っかかっていたところばかりだっ

          ついつい、日記

          【短編小説】見えない骨 

           美月ののどにかますの骨が刺さってから、もう一週間が経っている。  あいかわらず唾を飲みこむだけでチクリと痛いし、違和感がある。 「いいかげん、病院行ってきたら」  電話での母からの一言に、うーんとか、まあとか、気の乗らない返事を続けていたら、母は早々にあきらめたようだった。母特有のため息が聞こえる。有音の息のあと、無音の息。 「だって、たかが魚の骨だよ。これで病院行きなんて、時間とお金がもったいない。魚の骨にやられたなんて人類の敗北だわ」  母にはつい、勝ち気さが倍

          【短編小説】見えない骨 

          きらいがゆらぐ

          最近、毎週のようにコーンご飯を炊いている。 緑色の皮をばりっと剥いてひげをむしると、光沢のある黄色い粒が恥ずかしげに顔をだす。 すがすがしい原色。 これぞ、夏の色。 実を包丁でけずり取り、吸水したお米にくわえて一緒に炊く。そこへ忘れずに入れるのが、芯だ。 実を削り取られたあとの、やや哀れな姿になった芯が、じつにいいだしを出してくれるのだが、私はいつも、どこか済まない気持ちでそれをそっと釜の中央に置いた。 子どもの頃、おやつでよく茹でたとうもろこしを食べた。農家の祖父が

          きらいがゆらぐ

          バニラプリンと、女子のズボン

          赤や白のツツジが咲きほこる道を歩いていると、前方から三人の中学生がやってきた。一人は男の子、あとの二人は女の子。三人とも制服を着ている。でも、三人とも違っている。 もういちど、よく見る。 左の男の子は学ラン。右の女の子はプリーツのスカート。真ん中の女の子はズボンを履いていた。ブレザーのデザインは、スカートの女の子のものと同じだけれど、下はすっきりとしたズボンだった。 最近たまに目にする光景。 ああ、いいな。心からそう思う。 *** 私が中学生の頃、ウミ(仮名)という

          バニラプリンと、女子のズボン

          好きなひとと似てるひととの、春の別れ

          永遠にこない別れなどないのだから、一日一日が別れに向かって進んでいくのは当然のことなのに、どうしてすぐぼんやりとして、そのことを忘れてしまうのだろう。 ちょうど一年ほど前、記事に書いた美容師さんが、来月シンガポールへ旅立つ。 外国で働いてみるのが長年の夢だったそうで、疫病の影響でここ二年ほど延期にしていたけれど、このまま年齢を重ねると挑戦ができなくなってしまうからと、今月末での退職を決意したとのことだった。 先月それを聞いた時、天からゴルフボールが落ちてきたみたいな衝撃

          好きなひとと似てるひととの、春の別れ

          黒糖パンか、米粉パンか

          あたまで食べてるなあ、と思うことがよくある。 賞味期限が少し切れているだけで大丈夫かと不安になったり、あのシェフのレシピだからこんなにもおいしいのだと感動したり。『○○に効く』なんて言われたら、好きでもないのにいつもより多めに食べてしまう。  八歳の息子も、よくあたまで食べている。苦手な野菜に出くわすと、栄養学の本をとりだしてきて、その野菜の栄養素や効能を、自分で声に出して読みあげる。そして彼は、うむ、と唸って、ぱくぱくと食べてしまうからおもしろい。 *** 最近、学

          黒糖パンか、米粉パンか

          しばえびの天ぷら

          何げない日々のなかで、ふとうろたえる瞬間がある。 よく行くスーパーの鮮魚コーナーには、新鮮な魚介類が並んでいる。漁場が近いということもあり、朝水揚げされたばかりの地物などもおかれていて、日によって顔ぶれが違うので見るだけでもとても面白い。 今だったら、ホウボウやクロムツ、サザエなど。“旬”のものは、眺めるだけでも何かしらエネルギーをもらえるような気がするから不思議だ。 ただ、地物というのは調理法に迷ったりして、いざ買うとなるとためらうこともしばしば。 わたしにとって、

          しばえびの天ぷら

          息子が絵本をむしゃむしゃ食べた

          だれかに本をすすめるのが、もっと上手だったらなと思う時がある。 この本、よかった? と気軽に聞かれたときでさえ、勝手にドギマギしてしまって、どんな反応がベストなのかよく分からない。 そもそも、と考える。 この人はどういった嗜好なのだろうか。 どんな性格の人なのだろうか。 私は、この人のことをどれだけ知っているのだろうか。 余計なことばかり、頭をもたげる。 くわえて、私がすすめた本によって、私自身の思考回路や性格、好みまでもがバレてしまうような気がして心配になる。いや、

          息子が絵本をむしゃむしゃ食べた