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ギルティクラウン Everlasting Every Days 1話(二次創作)

203X年。日本国、東京。

いのりの誕生日パーティから抜け出し、僕は海辺のベンチに腰かけていた。

海辺からの心地よい風が、少年の髪を静かに揺らす。
少年の周りには防風林の役目を担う森が広がっているらしく、草木が重なり合う静かな音色が耳に入ってくる。


もしあの時の自分がこの景色を観たらどんなに驚き、感嘆し、悲しみ、涙するのだろうか。


あの頃には存在もつかなかった、この景色。

GHQさえも存在しない、清楚な姿を取り戻した、この国を。

自分の歩む道の、「正しさ」と「愚かさ」を。


無くしてしまった人を。

そして、


(自分の犯してしまった最後の「罪」を。)

(僕は……、想えるだろうか。)


風に凪いだ茶色いであろう髪に軽く義手の右手で触れる。

義手特有の冷んやりとした感覚が額を通じて伝わると、少し顔を俯向けながら、その右手を下に下ろし、ズボンのポケットにそのまま手を突っ込む。


刹那、機械と機械が擦れるような何とも言えない摩擦音が右手を通じて、キキーという耳につく奇妙な音が全身に響く。


しかし、そんな些事はとうに慣れてしまった。
傍らにポツンと置いてある白杖とともに、そして、一人の少女がいなくなってしまった間に。

「懐かしい、な…」

あの右手の感触、今でもはっきり覚えている。
「心〈ヴォイド〉」という名の青い光に触れた、あの感覚を。自分の右手が相手の気持ちに暖められているような、人のやさしさに包まれる感覚を。

集はポケットの中にある白色のコードレスイヤホンを右手で探りながら取り、ゆっくりと右耳に付ける。


何気ない動作で耳に掛かっている髪を後ろの方に持っていき、

あらかじめワイヤレスイヤホンに記憶させている、とある歌い手の声色に耳を済ませた。


「……………………」

心が安らぐ。

時々時間を見つけては、この海辺のベンチに腰掛けながら、こうやって彼女の歌声に耳を傾けていた。

でも、彼女はもう戻っては来ない。

いつでも僕のことを想ってくれていたいのりは、もう僕のことを温めることはない。心が人の心に残るなんて、まやかしに過ぎない。だって、ひどく寂しくなって、こうして彼女の声を聴きにこのベンチにくるんだから。

だから、僕はもう一度祈ってしまうんだ。

いのりと、もう一度会いたいと。




「ピーッ」

歌い手の声色に耳を済ませていると、突如として右耳のイヤホンから奇妙な電子音が流れ出し、静かな歌声がかき消される。

「うっ…。……何だろ。調子悪いのかな、このイヤホン…」

このイヤホンのタイプは、右耳のみに着装するものであり、左耳のイヤホンとの併用が出来ず、片方のイヤホンに異常がでても、もう片方のやつで聴こう。とはいかないタイプだ。


そのため集は仕方なく、義手の右手で右耳のイヤホンを外し、端に出っ張る電源スイッチを押し、ONからOFFに変更する。


義手の手探りでスボンのポケットを見つけ、それを適当にその中に。
顔を海辺があるであろう場所に向け、大きく深呼吸する。

視界にはなにも映らない。

しかし、そのことに関して後悔など毛頭していないし、それよりか感謝さえしている。
あの時、最期に彼女が残してくれた「罪」を自分が背負うことが出来た。ウイルスにより体がキャンサー化され、視界が真っ暗になってもなお、自分を想い、守り、信じてくれていて、自分に言葉を伝えてくれ、自分の傍に居てくれ、そして今でも居続けてくれている。


そんなことを考えていると、海辺から吹きつける心地よい海風や、草木が揺らめく音を感じるだけで、自然と頭の中にその風景が具現化される。

「さてと…。行こうか…、母さんのとこに」

集はベンチにかけているであろう愛用の白杖を義手の右手で取り、それに重心を乗せてすっとベンチから立ち上がる。


家までゆっくり行こうか。
何せ、時間なら幾らでもある。
忙しないあの時とは、違うんだから。

集は白杖で海辺に設置されている柵まで一、二歩で歩くと、杖を持っていない左の手で、太陽に照らされた黒光りする柵を支えに、次なる一歩を踏み出した。


PS.最終回の続きからです!少しの後悔がある集の話を書きたいと思います!宜しくお願い致します!




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