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猿場つかさ
2017年2月14日 23:56
男が路地裏で歌っているのを注意されてから1週間が経った。その間、男は何度かあの路地裏を昼間に通ることがあったけれど、やっぱり人気がないし、人が住んでいるような気配もないのに気がついた。バンドをやっている彼は背中にギターを背負い、家で思い浮かんだフレーズを頭のなかで反復しながら行きつけのスタジオへと向かっていた。 その日、スタジオで新曲のアレンジを決めようとバンドのメンバーでアイデアを持ち寄った後
2017年1月22日 22:49
「最近さ、この変に不審者が出るって話とかって、ない?」「特に聞かないけど、どうかしたの?」「いや、一昨日さ、家の外の路地で大声でネコの歌を歌ってるやつがいたみたいでさ。こっちは明後日の模試の準備をしているのに、うるさくて全然集中できないから怒鳴ったら静かになったんだよ」「なんだそりゃ、ネコの歌?」「ねこふんじゃった、とかじゃなくて、その歌ってるやつが適当に考えた歌詞みたいなんだよな
2017年1月19日 11:56
冷たいアスファルト、裸足の足に冷気がそのまま伝わる。どこかの大通りを通り抜けたふわっとした風が、ビルの隙間に圧縮されて放たれ、彼の身体を強く押した。見上げるとそこには教科書通りの三日月が照っていて、暗がりにぼうっと光る街灯に負けないくらいの輝きを放っていた。靴を履かず、靴下も履かずに立っている彼はどう見ても不審だったが、幸い彼を見つけて警察を呼ぼうとする善良な歩行者はこの辺りにはいないようだった。