羨ましい家が出来るまで 【タカの家_その2】
羨ましい家が完成した。自分で設計したから当然と思われるかもしれないが、そういうことではない。デザイン的に自分の理想通りに出来たとか、すごいお金をかけた豪邸だからとか、そういう次元の話ではない。
その住宅は兵庫県多可町にある。周りにはのどかな田んぼの風景が広がる。瓦葺き屋根に杉板貼りの外壁、昔ながらの趣のある住宅が立ち並び、現代の生活とうまく向き合いながら丁寧に残されている。そんな一角に建つ立派な日本家屋だった。
リフォームの相談が来たのは、ちょうど1年前のGW。当時大阪に住んでいた、高橋くん(施主)は、わざわざ浜松にある僕の自邸まで遊びに来てくれた。
その時の話や設計依頼をしてくれた時の素敵な話は、以前に書いているので、そちらを是非読んでもらいたい。
以降、タイトなスケジュールの中、紆余曲折を経て、先日無事に完成した。
今回の改装は、母家に加え、増築が繰り返された離れを、高橋くん家族3人(夫婦+子)が暮らす家として、家の記憶を丁寧に残しつつ、現代の暮らしに合わせて改装する計画である。
離れも合わせたら、面積的にも家族3人で暮らすには十分すぎる大きさだった。予算の兼ね合いもあり、母家を中心に改装する計画となった。母家は昔ながらの日本家屋特有の間取りで、南側に手入れの行き届いた前庭に、縁側と客間+仏間が繋がっている。光があまり入らない北側に、居間や生活空間が配置されて、「中庭(裏庭)」と繋がっている。
当初は裏庭であったであろう場所が、時の経過と共に増築が繰り返され、今では建物に取り囲まれ、どことなく息苦しそうな「中庭」に変わっていた。
初めて訪れた時、この「中庭」に可能性を感じ、新しい家では、「中庭」が生活の中心になるような計画にしようと思った。裏テーマは「中庭の解放」だ。
前庭に面する南側の縁側や客間/仏間は、これからも地域のお祭りや、親族が集まったりする時に使うだろう。何より家族の思い出がいっぱい詰まっている場所だったので、そのまま残すことになった。
変わりに「中庭」に面していた、暗く狭かった北側の和室+廊下の部分を改装し、リビング・ダイニングにすることにした。各部屋を繋げ、天井を取り払い、広々とした空間へと変えた。明るさを確保するためにも、安定した採光が期待できる高窓も設置し、光が空間に全体に広がるように、R形状の天井にした。
キッチンは東側から「中庭」を眺めるように配置した。
工事も順調に進み、最後の確認に現地に訪れた。クリーニングも終わり、養生もすべて外され、改装部分と既存部分、そして「中庭」が繋がった空間がようやく現れた。
自分で設計しておいてなんだが、本当に気持ちが良かった。新しく作り込まれた空間と昔からそこにある空間がシームレスに繋がっていた。和室とリビング。リビングと中庭。和室の襖を全て開け、前庭 − 和室 − リビング − 中庭のすべてが繋がった空間はなんとも形容しがたい心地良さがそこにはあった。
確認作業が一通り完了し、リビングに腰を降ろし、中庭を眺めていると、気がつくと「いいですねー。いいですねー。」ばかり連呼してしまっていた。
これまでも住宅に限らず、様々な空間をデザインし、完成した瞬間に立ち会ってきたが、これまでにない感覚だった。それはなぜだろう？
それは思い通りのデザインになっとか、空間構成が良いとか、建築的にああだこうだとか、綺麗なディテールに収まったとか、そういうことではない別の何かだった。
元からあった場所、新しく生まれ変わった場所、これから色々な思い出が作られていく「中庭」。そしてそれらが繋がっていく家。
この家でこれから育まれるであろう、豊かな生活が一瞬で想像できて、すごく羨ましくなった。
高橋くんのこの家に対する想いや、親族を含めた家族との向き合い方、家族との記憶を継承し、新しく紡ぐ家。そういった姿勢が詰まった家が出来上がだった。家そのものだけでなく、この家での“暮らし”そのものが羨ましくなる、そんな家だった。
最後の現地確認を終え、帰路に着くのがすごく寂しく感じつつも、
設計を依頼してもらった時のもうひとつの約束を思い出し、その寂しさを取り払ってくれた。
「完成後には毎年遊びに来ること。」
この家は高橋くん家族のものではあるが、僕たち家族にとっても毎年遊びに行かせてもらえる、これから多くの思い出が生まれる家になると思うと最高に嬉しい。
建築家としても、豊かな暮らしを大切にしたい一人の人間としても貴重な経験をさせてもらったお仕事だった。
高橋くん、ありがとうございました。
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