労働力不足の時代には、最低賃金の引き上げも選択肢

市場メカニズムに反して弱者保護を図るとかえって弱者が困る、という事例は、経済学の教科書に多数載っています。文字通りの意味で「情けは弱者のためならず」ですね(笑)。一般論としては、「最低賃金の引き上げが失業を増やす」というのも真理でしょう。

しかし、「最低賃金を30%引き上げたら失業が2%増える」という場合に最低賃金を引き上げるべきか否かと問われれば、引き上げも選択肢でしょう。最低賃金を何%引き上げたら失業が何%増えるのか、というのは労働力の需要曲線と供給曲線の形状によりますから、何とも言えませんが。

問題は、今が労働力不足の時代だという事です。労働力不足時代に市場メカニズムが完璧に働けば、賃金が上昇して労働力需給が均衡するはずなのですが、市場メカニズムが完璧ではないので、均衡水準より低い賃金のままであるわけです。それならば、政策的に賃金を引き上げて均衡水準の賃金を実現すべきだ、という事も言えそうです。

最低賃金の引き上げは、「同一労働同一賃金」という政策目標にも資するものですし、民間企業に対して「今後は安い労働力は使えないのだから、省力化投資に励みなさい」というメッセージを送ることで、日本経済全体の効率性を高める効果もあるでしょう。

「今は好景気だから労働力不足だが、次の不況期には失業が深刻になるのだから、やはり最低賃金は引き上げるべきでない」という考え方もあるでしょうが、日本は少子高齢化により中長期的に労働力不足が深刻化していく国ですから、中長期的に労働力不足に対応して行く事が必要でしょう。

バブル崩壊後の長期停滞で、「失業対策が最重要だ」という考え方が多くの日本人に染み着きました。私も、最近までは、そう考えていました。しかし、時代は転換点を迎えているのですから、発想を大胆に切り替える必要があるのです。今後は、労働力は不足するもの、という大前提で物事を考えていくべきでしょう。

P.S.

私は、2007年に「少子高齢化で労働力不足時代が来る」という考えを記しました。今でも理屈が間違っていたとは思っていませんが、運悪く、翌年のリーマン・ショックで労働力の大余剰が再来してしまいました。その意味では、個人的には再挑戦なのですが、今度こそ第二リーマン・ショックに邪魔されない事を祈るばかりです(笑)。

https://comemo.io/entries/786

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