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「人事に正解は無い」という言葉に逃げない

これは、CLUB-CHROアカデミー「CANTERA」の講義を行う上で、私自身が意識している言葉の一つである。読者で「人事に正解は無い」という言葉を耳にする事があるのでは無いだろうか。私が考えるのは全く逆で、答えはあると考えている。何故なら採用や人事施策の成功は、事業の成功であり、それ以外の何物でもないと考えているからだ。だとすれば、必ず各社毎に異なる人事の正解が存在し、その責任を人事は全うしなければならない。人事に正解は無いと口にすれば、人事としての無能さと無責任さを暴露する事になる。またその正解から逃げていては、全ての目標が目的化され、大事な目的を見失うと捉えているからだ。

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CHRO=ポジションでなく機能

「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われる4つの経営資源の一角を占める「ヒト(人)」。これは4つの中で最も不確実性が高いといえよう。プラスに動くかマイナスに動くか、想定できないものを秘めているからだ。気づきやモチベーション次第で飛躍的に「成長する」あるいは「化ける」こともあれば、その逆もありうる。

CHRO(最高人事責任者)は、その不確実性に対して再現性を迫る役割と言い換えることもできる。しっかりと意図をもって働きかければ、人・組織のポテンシャルは無限に広がる。そのために、これから人事施策を整えていくとしたら何が必要なのか。一つ重要なのは、CHROに限らず、人事部門が経営の視座を持つことだ。また、CHROはポジションではなく機能であると考えている。そういう意味で、会社によって人事部長=CHROの場合もあるし、専属の管理部門を必要とする前の、PMF(Product Market Fit)が完了する前は、副社長や事業部長クラスが、CHROを兼任する場合が望ましい時もあるだろう。

人事を主語にして考えていては、諸施策を見誤ることになりかねない。人事はあくまでもビジョンの実現、それに紐づく経営戦略や事業の推進に際して「人」という経営資源がプラスとなるように働きかけなければならない。逆に、どんな素晴らしいビジョンや戦略も実行されなければ絵に描いた餅であり、その実行・体現行動の主体は結局のところ「人」に帰結するといえる。つまり経営と人事は不可分なのである。

多くの経営者が師と仰ぐゼネラル・エレクトリック社の元CEO、ジャック・ウェルチ氏は「人が第一、戦略は二の次と心得ること。仕事でもっとも重要なことは適材適所の人事であって、優れた人材を得なければどんな戦略も実現できない」と語ったという。

またあるいは、筆者が時代認識を持つ人事責任者の方とお会いすると、非常に視座の高さを感じる。たとえば、親しくさせて頂いているサイバーエージェントグループ企業で取締役人事を務める膽畑匡志氏に「今後必要となる組織戦略」について伺った際には、自社という視点も超えて、世の中の価値観変化をどう捉え、社会や自社がどうあるべきかという話に及んだ。

10年前、20年前と比べて価値観も変わってきているが、その潮流を捉えて考え、発信しないと、見当違いのものになりかねない。経営者は人事を語り、人事は経営を語るとでも言おうか。このように、経営の視座で物事を考えると、必然的に外部環境への感度と、中長期的な自社の状況を考えざるを得なくなる。すなわち「今がどのような環境にあるのか」「他社に比較して自社がどういう状況、ポジショニングにあるのか」が、見えてくるのではないだろうか。

必要とされる視座や思考

一方で、人事は自社組織の内実についての視座や思考も持ち合わせていなければならない。目指す状態を「ありたい姿」と置き、「現状」が正しく把握できた際に、そこにギャップと方向性が生じる。これを「問題」と定義できるが、逆に「ありたい姿」や「現状」が曖昧であれば、「問題」や取り組むべき課題も曖昧となってしまう。

つまり、組織(すなわち人材)自体が自分たちの「ありたい姿」や「現状」を認識してなければ、方向性も問題も曖昧になってしまうし、人事が丁寧に社内発信できていなかったり、現場を把握できていないままに人事の諸施策を進めたりするとおかしなことになってしまう。それを防ぐためにも、特に「現場1人1人のリアル」については、具体的な言動やその背景を人事が肌感覚で持っておきたい。

まとめると、CHROの持つべき視点は、冒頭で述べた「外部・内部」×「俯瞰・現状」のマトリクスで表現できる。外部×俯瞰の「社会環境認識」、外部×現状の「自社の状況」、内部×俯瞰の「ありたい姿」、内部×現状の「現場のリアル」の4象限である。“真に強い”経営を推進する経営者は、同じくこの4点を抑えたうえで経営戦略・事業推進を語り、その実現に際する人の重要性を語っている。

私が、かつて在籍したソフトバンクグループでは、新卒採用の一貫で、学生向けに代表の孫正義氏が語る「ライブ」を行っているが、当時、孫正義氏は「投資や提携交渉よりも、1年で1番重要なプレゼンテーション」と語ってくれたことが思い起こされる。「人」は最も経営にとって大きなインパクトを与える可能性を持っている。その「リソース」に責任を負うCHROだからこそ、外部と内部、経営の視座と現場の視座を行き来し、考えられるバランスが必要になる。

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