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相棒と出会うまでの間とこれから

その日の朝、私はこれから共にする相棒を迎えるべく、とある目的地を目指して一本のバスに乗っていた。

普段は通勤目的を除いて路線バスを利用することはあまりない。休みの日となればなおさらだ。そしてこの日を迎えるまでの間、私は親のクルマを借りて出かけることがほとんどだった。

だがそれも前の日をもって最後となった。親のクルマも乗り心地であったり走破性においては悪くはなかったと思う。

親の所有しているものだからといっても、いずれ自立していくうえで、いつまでもお世話になりっぱなしになるわけにはいかなかったのである。

社会人になり、自分でお金を稼ぐようになってから運転免許証を取得すると、自身の目標は必然的に「車を買うこと」の方に目を向くようになっていった。

そこからは頭金を稼ぐべく仕事に励み、一方で支出を抑えたりするなどと工面する日々に向き合いながら、年の瀬が迫ってきている頃になってようやく相棒を出迎える準備が整ったのだった。

そして親のクルマを乗り終えた後で私はそれを前に、およそ一年間お世話になったことへの感謝を込めて一礼し、夜の駐車場を後にした。

 

翌日、目的地ディーラーに到着するまでの間ひとりバスに揺られながら、私の心には様々な感情が入り交じっていた。

一つは、これからどんなところに向かっていこう、そして誰を乗せて走っていこうという期待と。もう一つは、行く先々で事故に見舞われたりぶつけられたりしないか、そして何よりローンを組んでいるためにちゃんと完済できるかなどという不安が…。

市街地に張り巡らされた信号のある交差点をどんどん通り過ぎていくたびに、妙な緊張感が走っている。

思えば最初のクルマ選びから書面にサインするまでの間、よくもまあある意味で冒険したものであった。なにしろ試乗車に全く乗らないで、予め用意されたカタログの冊子に載っている写真だけを頼りに諸々決めてしまったのだから。

もし実車が自分が想像していたのと相反するものだったらどうしようと、不安材料なるものは頭の片隅にほんの少しだけ残っていた。けれど後悔は一切ない。根拠は特にないかもしれないが、どんな形であれあの時選んだことが間違いじゃないと信じているから。

最寄りの停留所でバスを降りて、看板の見える位置まで歩いてたどり着くと、展示車が勢揃いしている場所より奥にある目的地ディーラーの駐車場には、空きスペースが目立っている中で一際輝く銀色を纏った1台のクルマが待っていた。

…その瞬間、子供の頃から抱いていた憧れが、長い年月を経てついに時を超えたのであった。

 

相棒の名前…もといサブネームは、G4。

 

あの日初めて乗り出してから10年以上、これまで歩んできた私の至るシーンで常に彼と共にあった。そしてこれからも未知なる何かが待ち受けている中、ずっと続いてゆくのだろう。

一つの節目を迎えた今日、朝焼けを背に静寂が漂う中で一本のマフラーから吹き出す排気音とともに、人生における大いなる旅グランドツーリングが今日も始まろうとしていた。



最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!