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書評『天才はあきらめた』全文

2年前の本日、大先輩である山里亮太さんが「天才はあきらめた」を発売されました。こちらは前作「天才になりたい」を加筆・修正された文庫本です。その時、僕はテレビブロスさんに書評を寄稿させてもらいました。ずっとタイミングがなくて出せてませんでしたが、せっかくですのでこの機会に、その全文を載せたいと思います。思い入れが強すぎて少し気恥ずかしいですが、本書を読まれた方も、これから手に触れる方も、よかったら一読していただけたら幸いです。


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テレビブロス「ブロスの本棚」寄稿文

書評 天才はあきらめた/山里亮太


大学生の頃、大好きな芸人さんが本を出した。タイトルは『天才になりたい』。天才が出てきたと思ってテレビにかじり付いていたのに、なりたいとか言って、「またまたー」なんて思いながら気楽に読んだその本に、心を打ち抜かれた。その本には、天才だと思っていたその人の苦悩が、全裸なんかよりもよっぽど赤裸々に書かれていたのである。お笑いをはじめ、テレビの世界に出ていくまでの数ある局面で、どう考え、どう行動し、どう反省してきたか……普段見ている「陽」の姿からは想像もつかないような「陰」の部分がぶちまけられており、衝撃を受けた。そしてその本は、思ってもみないほど大切な一冊になった。僕自身がお笑いの世界に飛び込んでしまったからである。

大学を卒業し、「ラーメン屋にでもなるか」と思って、毎日デカいしゃもじみたいなやつで豚足を砕いていた日々から急ハンドルをきり、芸人を志し始め、養成所にも行かずフリーライブに出てはその結果に一喜一憂し、下戸だから酒で発散することもできず、サウナに逃げ込んではひたすらネタを考えていた芸歴1年目。その時から、いつもカバンには『天才になりたい』が入っていた。悩んだタイミングで読み返し、線を引き、ノートに書き写し、書き写したノートの文字にまた線を引き……その本はいつだってよき理解者であり、正解を持っている相談相手だった。心から「この本のおかげで……」という場面を何度も経験してきた。かつて劇団ひとりさんが「自己啓発本は心の処方箋だ」とボケで言っていたが、自分にとっては本当にそういう存在だった。

本書は、その『天才になりたい』の加筆・修正版であり、本筋は変わっていない。芸人じゃなくても、何か問題が生じた際の自分との向き合い方や対処法が分かりやすく、そしてあの山里亮太が書いたんだと思うことで、より説得力を増して伝えてくれる。大きく変わった点で言えば、12年の年月を経て、タイトルが変わった。『天才になりたい』から『天才はあきらめた』に。そうか、あきらめたんだ、山里さん……とは、僕はちっとも思わない。この人は、あきらめたフリをして、隙があったらなろうとしている。その隙を待っているんだと思う。それまでは努力を惜しまない。シリーズ終盤のロッキーみたいなやり口で、相手が油断するのを待ち、そのチャンスを赤メガネ越しにじっと見張っている。しかも相手は「天才」である。12年前から山里さんは、ずっと「天才」を相手に戦い続けている。その時点ですでに、天才じゃなくても常人ではない。

2018年2月、間近でその姿をみる機会があった。本書にも出てくる南海キャンディーズ初単独ライブ「他力本願」にて、お二人と一緒にコントをさせてもらった時のこと。なれないコントに「ナレーション多めにして、オレのセリフ減らせないかなぁ……」なんて言っていた山里さんは、僕の書いた台本のセリフの倍以上をしゃべり、そしてウケていた。めちゃくちゃ怖かった。本番が終わってからも、「あそこの言い方はああした方がよかったよね?」とすぐさま反省を口にし、次の本番で見事克服。楽屋で高そうな差し入れゼリーを食べながら、ああ、あの本に偽りはないんだということを悟った。

かつて、「天才になりたい」が売れてないことをテレビでイジられ、ネタにされていた山里さん。しかし今、本書は全国の本屋に平積みされ、重版が止まらない人気本となっている。もしかしたら山里さんは、この時を待っていたのかもしれない。前作を揶揄してきた人達に対する、12年のフリを効かせた大いなる逆襲。見返しに次ぐ見返し。そらみたことかの大合唱。もしもこの現象までを想定していたのだとしたら、もうすでに山里さんは天才なんじゃないかと、僕は思います。
〔文・塚本直毅(ラブレターズ)〕


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