夏季冷房25度設定はニューノーマルへ
酷暑記録を更新した2024年夏
今年は「北半球でこれまでで最も暑く」、日本でも「異常気象といって差し支えない」と言われる、暑く厳しく、体調の心配される夏になった。先月末に発表された7月の熱中症による搬送人数は、2008年の調査開始以降で2番目に多く、アフターコロナのこの5年間で言えばうなぎのぼりの頂点だった。
4年前に書いた「アフターコロナの夏は冷房25度から考えよう」では、「室温25度をスタート地点として、自分なりの適温と冷房設定温度を」と提案した。
そう考える理由として以下のような話題にふれた。
実は根拠はなかった「冷房は28度」。クールビズ導入当時の関係者が「何となく28度という目安でスタートした」と明言している。
25度を超えると作業効率が低下し始める。コールセンターでの13か月間に計134日、延べ13,169人分の計測データより、室内温度が25度から26度に上昇したとき2.1%、28度で6%作業効率が低下したと報告されている。
室温を28度から25度に下げると業務効率が向上する。兵庫県姫路市が2019年夏に市役所の冷房25度設定を試行した結果職員の8割以上が業務効率向上と回答、総残業時間が前年比14.3%減、人件費約4000万円減、光熱費はわずか7万円増という数字になったと報じられている。
よく冷房は28度設定などと言われるけど、おそらくその数字がよいとする根拠はない。いくつかの調査が室温が25度から上昇すると生産性が下がることを示している。これは多くの人にとって負担になる室温だからだと考えられそうだ。例年、9月になってからも熱中症による救急搬送は途絶えない。そろそろ冷房を控えても、なんて考えたくなる時期でもあるけど、あなたが「不快」「つらい」と感じる室温であれば、28度などという数字にとらわれず、冷房を付け安全に過ごすことを考えてほしい。
姫路市の冷房25度設定はニューノーマルへ
ところで姫路市は2019年に冷房25度設定の試行をして、その後どうなったのかをずっと気にしていた。
この件、当時は各所で報じられたはずだけど、続報は見つけられないでいる。公開されている姫路市環境アクションには「空調稼働時は、適正冷房・適正暖房を実施し、エネルギー使用の効率化を図る」とだけある。もう5年もたってしまったし、自分で問い合わせてみようと思った。回答は、問合せの翌開庁日にはいただけた。
回答によれば、夏季25度設定の試行実施は2019年~2021年の3年間にわたり実施された。以下の結果だったという。
試行実施期間に実施された職員アンケートにおいて、業務効率やワークライフバランスの向上に対して一定の効果が認められている
2019年~2021年の実施期間中の電気使用量及びガス使用量を2018年の同期間と比較したところ、いずれも顕著な増加は認められなかった
これに基づき、2022年以降は環境政策室から「温室効果ガスの削減を図るため、空調設備の適正な運転管理を実施」「執務室内の温度は概ね夏季25℃、冬季19℃を目安とし、熱中症予防など気候等に留意して無理のない範囲で取り組む」と通知しており、そこから先は現場管理になっているという。
電気使用量及びガス使用量と、業務効率やワークライフバランスと、両者の実測結果に基づいて「夏季25℃」は温室効果ガス削減と熱中症予防を両立する目安として示されている。ときどき見かける「空調設定」ではなく「執務室内の温度」が目安として示されているところも大切な点だろう。そして姫路市では、これは既に試行や実験ではない。2022年以降、夏季の室温25度は通常運用であり、ニューノーマルになっている。
もう一度ノーマルを考えよう
実は姫路市の「冬季19℃」も興味深い。クールビズ活動で夏季28度が示されたのは、一つには建築物環境衛生管理基準と事務所衛生基準規則で、室内の温度を17度以上28度以下と範囲を示していたためだという。つまり姫路市が示した冬季19℃も、試行を踏まえて示された同市の独自の目安ということになる。ちなみにや建築物環境衛生管理基準は2022年4月、事務所衛生基準規則は同12月に、18度以上28度以下と改正されている。
次のように考えたいと思う。姫路市のように、独自のノーマルを示してもいい。建築物環境衛生管理基準と事務所衛生基準規則のようにノーマルを改めてもいい。そうして自分たちがノーマルの根拠にしていた、政府や企業団体の示すノーマルの大本が変わってしまうこともある。クールビズのおひざ元でも、それが起きている。
28度でいけないわけはない。ノーマルを改めなければいけないわけでもない。ただノーマルの塩漬けはいただけない。それほど確固たるものじゃなくて、後生大事に抱え込むものじゃない。霞が関では、見直しの人事院通達を出すと8月8日に発表された。
この会見の質疑応答に、こんなやり取りがある。
民間への呼びかけが既に変わっていたのに、という事だけど、民間の運用が変わっているかと言うと、企業、職場、家庭ごとにまちまちだと思う。それがいまの判断の上でという事なら胸を張れるけど、「昔からやっていたということで今の運用(28度)」の節電を続けて、「驚きました」なんて言われるのもやるせない。健康を守るために、28度にこだわらず、自分たちにとって快適な温度設定を見つけてほしい。