「天才とホームレス」 第7話 『閃きと閃き』
河川敷に着くと、目一杯に紙を広げて、
てっぺいが何かを描いていた。
牧場で描いていた地図に熱心に書き込んでいるようだった。
それが読めない文字なのか、絵なのか、僕にはわからない。
でもとにかく思いつくままに書き殴っている。
出てくるアイデアに手が止まらないという感じだ。
おっちゃんは微笑みながら、その横を通って家に入っていった。
僕はてっぺいをずっと見ていた。
一時間が経つ。
てっぺいはまだ書いている。
僕はまだ見ている。
その時、ピタリと手が止まって、
「おお!ゆきや!おったんか!
いいの思いついたで!」
と言った。
そこからめちゃくちゃ喋りだした。
止まらない。
でも、ぜんぜんわからない、、、
書いている時と同じで、思いついたアイデアをポンポンと話すからだ。
ぜんぜんまとまっていない。
そこからかろうじてキーワードを拾って予想すると、
「街の子どもたちを働かせるってことか、、、?」
僕がそう呟くとてっぺいはさらに目を輝かせて、
「あ! それや!! それが言いたかってん!!」
と、叫んだ。
耳がキーンとした。
「要はな、昨日と今日でおれらがしたことを、みんなまずやったらええと思うねん」
なるほど。
「確かにこんな経験はみんなしたことがないだろうな。
でも、、、」
「いや、わかる。ここまでは凡庸や!」
いや、言ってないけど、、、
興奮が止まらない様子のてっぺい。大きな声だ。
「その体験をビジネスにする。
つまり、一緒に狩りして、解体して、とか、
牛の解体、乳搾りしてチーズに、とかの体験を売る。
これも考えたけどな。なんかおもろくないねん!
たしかにその肉をまた売れるから一挙両得というか、儲かりそう、
やけど! なんか違う気がするねや!」
ほう、その方向は実は僕も考えていた。違うのか。
「大事なのはさ、友達になることやろ?」
おお、そうだ。おっちゃんの教えだ。
「前提として、おれがやりたいのはな、
このビジネスの客を増やしたいんじゃなくて、仲間を増やすことやねや」
「仲間を増やす?それのどこがビジネスなんだ?」
「あのな、えーと、お金は最終的についてきたらええと思ってて、、、
えーと、あ!ちゃうねん、まずは前提としてな、えーと、
人を誘うのは、仲間としてやねん。
そんでゴールはあの牧場のちっさい版をどんどん増やすことやねん!」
意味がわからない。でも少し見えてきた。
てっぺいはめちゃくちゃ説明が下手だ。
頭の中のごちゃごちゃを、そのまま出すからダメなんだよ。
「えんぴつけずり」ビジネスで、弟子をたくさん作っていた時、
そのやり方を教えるときは、ただ見せるだけでよかった。
口で説明するとなると誰もついていけなかっただろう。
「・・・あ!
おまえもしかして、
ロードマップを作りたいんじゃないか?」
「え? なにそれ?」
「あ、あのー、、、
おまえの昔の話を聞いた時におまえが書いたみたいなやつ」
「お? あ! あーー!! それやー!!!
それで説明すればええねや!」
「いや、おまえがやりたいのって一つのアイデアじゃなくて、
一つ一つのアイデアを繋げることがしたいんじゃないのかってこと」
「あーーーーー!!!」
と、叫ぶと、再び新しい紙を取り出して、書き殴り始めた。
何度も書き直して20分ぐらいが経ったとき、
てっぺいは顔を上げてニヤリと笑って、
「ゆきや、おまえ天才やな」
と、言った。
出来上がったロードマップを見て
「いや、天才はおまえだ」
と、僕が言った。
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