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『公園物語』 その2

天邪鬼で多動症で注意散漫の僕は、
おそらく苦労した人生だった。

なにかしなければいけないことがあるときは、
なるべく自分を騙して、これは別に大事じゃないと思った方がやれるのだ。

なるべく「べき思考」のプレッシャーを減らさなければ、僕は苦しくなってしまう。

小学校の時はずっと授業中に小さい声で歌ってたし、
中学の数学のケアレスミスは止まらなかったし、
高校で受験勉強中、両足で貧乏ゆすりをして、指ドラムをして、自習室で「ユスラー」と呼ばれて嫌われてた。らしい。

課題があっても、課題じゃないことをしようとした時に、気づいたら課題をやってたこともある。
もちろん漫画を普通に読んでたこともある。
大学のテスト前にテスト勉強が嫌すぎて「マインスイーパー」で徹夜した時、朝方にセブイレにいって食べた100円の坦々麺カップラーメンとツナマヨのおにぎりがクソ美味かった。

そんな自分との付き合い方も、30にもなると上手くなってくる。
婚姻届の自分の名前を書いてる途中に生年月日を書き始め、それが終わったら住所に行き、また名前に戻ってきた話を妻は永遠にしてくるが、これが乗りこなしてるということなのだ。
きっと2人の娘にもこの「癖」は受け継がれるだろう。
僕が先に対処法を考えておくから、自由になるために参考にしてくれ。

そんな僕は30になる前に会社を辞めた。
牧師になるためだ。
僕みたいなやつに寛容な、ITの会社だった。
ベンチャーから始まったその会社は、変人に寛容だった。
どれだけ貧乏ゆすりをしても、立ち歩いても、たぶん赦されていた。

そんな会社を辞めて、妻と2人の幼い娘と共に、僕は学生になった。
つまりは3年間の無給生活を手にした。

貯金切り崩しゼロ馬力家族になった我が家、
そんな僕が最初にしたことが公園の草刈りだったのだ。
妻は笑って送り出してくれた。

なぜ草刈りから始めたか
建て前になり得る理由はいくつか挙げられるが、本音はただのインスピレーションだ。
「しよう。したらいい。」と、思ったからだ。
ついでに、娘が公園で遊ぶときに遊びやすくなる、し、ほかの子どもたちも遊びやすくなると思った。
それが建て前の理由だ。
草刈りをしながら思いついた。


何もないところから始まる世界の広がりが見たかった。
初日は何も広がらなかった。
背の高い草がなくなって、少しだけ視界は広がったけど。
広がった視界に砂場の草が入った。
周りの草が生えすぎて、砂場に草が生えていることに気がつかなかったのだ。
砂場に草が生えるなんて、、、

最近、娘が好きなのが砂場だ。
これはいかん。
草を抜くことにした。

鎌を使わず一本一本、手で抜いていくことに。
中途半端に刈っても、砂場では心地よく遊べない。
昨日に引き続き、柔らかい砂から、でかい草がズボッと抜ける感触は、快感に変わっていった。

また頭は空っぽになってくる。
今度は巨人になったイメージが湧いてきた。
巨人が森の木を引っこ抜いては捨てる感じ。

ズボッ、ポイッ
ズボッ、ポイッ
ズボッ、ポイッ
へへへ、止まらん。

しかし、抜いても抜いても砂場の草はなくならなかった。
大きい草がなくなったら、それより小さい草が目立ってくるのだ。
鎌と違って手は時間がかかる。
強くなり始めた日差しが後頭部に当たる。
この姿勢は腰にもくる。
巨人は身体が重いのだ。

そんな頃、目のクリクリとした少年がグローブを持って公園にやって来た。
2日目の夕方になって初めての来園者である。
嬉しい。

そろりそろりと近づいて話しかけた。
怪しかったかもしれない。
しかし、リスクを取らずに友達はできない。
「野球、やってんの?」

少年は驚きつつ、
「あ、はい!」
と、元気に答えた。
「お、おれが相手したろか?」
少年は一人で壁当てをしていたのだ。
いけるか、、、!

「えーっと、、、」
「あ、中学生?野球部?」
「あ、はい!」
「ポジションは?」
「えっとー、ピッチャーです!」
「えー!すごいやん!エースか?!」
「あ、そうです」
「えー!すごー!」
危ねぇ〜。耐えたー。
「あ、じゃあ、おれがボール受けたろか?
 キャッチャー役で。グローブ貸してもろて」
そう、当然、僕にはグローブがなかった。
少年が初め困るのも無理はない。ヒゲ面のおっさんだからではなく。
「あ、じゃあお願いします!」
お!やったー!

30分ぐらい、
少年が投げて、僕が受けるキャッチボールをした。

楽しかった。
この日、世界が広がり始めた。



1話!


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