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『公園物語』 その1 「草刈り侍」

移住した僕は、公園の草刈りから始めた。

真夏の団地の近くの公園は、雑草が生えまくっていて、誰も中で遊びたがらないことが容易に想像できた。
ただでさえ陸の孤島と呼ばれるほどの田舎町で、子どもが年々少なくなってきているのに、公園がこの状態ではどうしようもない。
行政に頼む、街の組合みたいなものに頼む、などなど考えてみたがどうにもめんどくさくなって、とりあえず自分でやろうということになったのだ。
毎日1本ずつ草を抜いていくだけでもいいだろう。そんな気持ちで始めた。

ザク、ザク、ザク、ザク
草を鎌で刈る音が心地よい。
とにかく草がボーボーになっていて、子どもがよりつかなそうなところ、また行ったら危なそうなところの草を刈っていく。
6歳児の高さぐらいのものがみっちり生えているのだ。
一ヶ月後には業者が入って草を刈るのかもしれない、刈ってもすぐに伸びて元に戻るのかもしれない、これは無駄なことかもしれない、そんなことを思いながら、とにかく草を刈った。

30分ほども続けた頃、完全に楽しくなってきた。
一度ダレる時間を経て、草刈りーずハイになっているのだ。
頭の中では小さなサイズにされた武士が、どんどん周りの草を刀で斬りつけていっているようなイメージが完全に出来上がっていた。

四方八方を草という敵に囲まれた僕は、日本刀で切りまくる。
ザシュ、ガサ、バシュ
どんどん倒れていく敵。
広くなる視界。
ザシュ、ザシャ、バサ、ガシュ
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ
どれぐらいの時間が経ったろう、無我夢中で斬りつけて、辺りは敵の死体だらけだ。
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ
とにかく斬り続けていく。
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ
そして振り返ると、もう倒すべき敵はいなくなっていた。
夕陽が綺麗だ。

みたいなストーリーを勝手に頭の中に流して、
どんどん刈っていった。

結局この日一日で、公園の大部分の背の高い草を一人で刈った。
誰に知られることもなく。
誰も公園の横を通らないのだ。子どもも一人もいない。
ただ腰が死んだ。
実際は僕は小さくないし、筋肉質の武士でもない。
30の少し太った男だ。

これになんの意味があるのかわからない。
しかし、仕事を辞めた僕は、意味のあることをやめてみて、意味のないことに意味があることを見出したかった。
だからちょうどよかった。

「効率」から解き放たれて、
僕は幸せになるんだ。


続き。


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