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小説 創世記 11章c

11章c

本当に美しいと思う女の子に一雄は出会った。

名前をヒメと言った。
彼女は面白い絵を描いた。
牧場によく足を運び、心を込めて家畜たちの世話をし、たくさんの絵を描いた。
その絵を描いている姿を一雄遠くから見ていた。

そのうちに一緒に絵を描くようになった。
一雄は見たまま忠実に、ヒメは現実とは違うカラフルな絵を描いた。
二人は互いを深く知っていき、心惹かれていった。

ヒメの両親は鯨を獲る漁師だった。
牧場と共に、捕鯨は戦後にたくさんの人々の腹を満たしていた。
しかし、命懸けのその仕事に、ヒメは心を搾られるような思いで、よく牧場に来て祈っていた。

そんな中、戦後しばらくした頃に、国際捕鯨取締条約が締結される。
捕鯨は取り締まられることとなった。
そのためヒメの両親は新たな産業を探すために、漁師仲間に送り出されて、北上することとなった。

一雄はそこでヒメと結婚することを決めた。

そのことをヒメに告げるとヒメは喜んだ。
急いで両親に告げ、両親も一雄をよく知っていたので喜んだ。
そして二人はまた、牧場で盛大な結婚式を挙げた。
今度はノアが司式をした。

「一雄、あなたはこの地を離れていきなさい。
 神様が示す地へ行きなさい。
 あなたは祝福された人です。
 あなたは大きな家族を作るでしょう。
 そしてあなたは祝福となるでしょう。

 神は言われる!
 『わたしは、あなたを祝福する者を祝福し、
  あなたを呪う者を呪う!
  地のすべての人々は、あなたによって祝福される!」

大胆に宣言するノアの上から、一雄は声を聞いた。
「行け、わたしの愛する子。わたしはあなたを喜ぶ」

翌週、一雄とイブキ、ヒメの家族は、
船に乗って出発した。
ノアは泣いていた。
たくさんの人が見送りに来てくれた。
たくさんの人が泣いていた。

空襲後、家族を失い、何も持たずにただ導かれるまま歩き出したことを思い出した。
今日、こんなにも大きな家族がいる。こんなにも愛されている。
そしてそこから旅立つのだ。

海の上では、船の操作を覚え、魚の捕り方、食べ方を覚えた。
そして家族は山間部の小さな村に住んだ。

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