見出し画像

小説「洋介」 5話

 初めに石が浮いてから3か月。
二回目から2ヶ月。
今日もいつものように、誰もいない河原で練習していた。

もはや石を浮かそうという気持ちは薄れている。
むしろこの静まる時間が好きになっていた。
石を浮かすことは頭の片隅にそっとある、という感じだった。

ちょうど1時間ぐらいたち、周りの色がオレンジを過ぎ、青が少し混じってくるころが好きだ。
心は静かに、温かい気持ちになっていく。

そして段々と、体の力は抜け、"よりかかる"ことができるようになる。
その時、ストン、ストンと力が抜けていき、
石が心の中をスーッと沈んでいくような感覚になるんだ。
ここまではいつも通り。

でも今日は、石が底についた。
カチッと何かのスイッチが押されたような感じがした。

その時、ぶわっと視野が広がった。
あの感覚だ。
周りはとても静かだ。

すると、目の前に、
丸いピンポン玉ほどの大きさの石が浮かんできた。

ワッとこみ上げてこようとしてる喜びと驚きを必死に抑えた。
その感情を採用してしまうと石が落ちてしまうと思ったんだ。

でもその時、突風が起こり、僕の体を揺らした。と、同時に石は落ちた。
風が吹いて、やばい、と思ったんだ。
力んだんだな。
辺りを見回すとすでに薄暗く、月が低く輝いていた。
今度はこんなに時間が経っていたのか。

 家への帰り道。エネルギーがこみ上げてきた。
「ガハハ」と声を出して笑いながら、
 なんとなく走って帰った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?