「天才とホームレス」 第11話 『対等とはと大人』
膨大な量の無駄な文字列を書き上げた後、
「対等になるために、、、」
と、つぶやいて僕は気付いた。
僕もてっぺいも対等でいたかったのだ。
僕らの仲間を客にしたくなかった。
お金を取るとはそういうことだと。
しかしそれは本当に対等か?
ママが言った通り、狩猟を教えたら、解体を教えたりすることは本来、人件費がかかることだ。
僕らはタダでやってもらったけど、一日だけだし、おっちゃんが売った恩からやってもらったと考えればタダじゃない。
そうか、お金ってお金だけの話じゃないんだ、、、。
それなら、ちゃんと「教えてもらう代」「場所や器具の使用代」を払う方が対等ではないだろうか。
それなら牧場側もお金が入ってきて良いのではないか。
いや、それだけだとまだそこまでメリットはないか、、、。
日差しが朝日から、しっかり日中のものに変わってきた。
目の奥が痛い。
いつまでも起きていられるような、でも一瞬で眠れてしまいそうな、そんな感覚。
金儲けのことを考えれば考えるほど、際限がないような気がして気が滅入った。
どれだけのお金が入ってくればいいのか、そこがわからないのだ。
意地悪になればいくらでもお金は得られそうで、でもそれだと長くは続かなそうで、どこを目指せばいいのかわからなくなる。
頭の中がぐるぐるして止まらなくなって、
そのまま夢の中に入っていった。
夢の中でも考えていて、おんなじ道を繰り返し行く。
そのうちなにを考えていたのかもわからなくなって、
とにかく考えなきゃという思いだけ残る。
起きたら昼過ぎだった。
昼ごはんを食べに下に降りたら、ママは特に何も言わずにチャーハンを温めてくれた。
ご飯を食べたら元気が出た。
元気が出たから牧場に行くことにした。
歩いていると、頭がスッキリしていることに気づく。
やっぱり人間、寝ないといけないんだな。
と、当たり前のことに気づく。
春の日差しが心地よい。
牧場に着いた。
緊張はない。
もう失うものは何もないのだ。
解体部屋を覗く。
社長がいる。
よく働いている。
「こんにちは!」
と、声をかけると、にっこりと笑ってこっちに来てくれた。
「よく来てくれたねぇ! さぁ、話そう!」
なんか心が救われた。
僕らの負けは、失敗は、何度だってしてもいいんだってことを、
声で教えてくれたんだ。
それから社長と社長室に行って、
初めて具体的な話をした。
プレゼン資料なんかよりよっぽど、僕らの思いを伝えることができた。
「本当にいいね!」
最後に満面の笑みで褒めてくれた。
「さすがおっちゃんの弟子だ〜」
一番嬉しい言葉だ。
「今日、ゆきやくんが言ってくれた方向で、僕はいいと思うよ。
客を増やすんじゃなく、仲間を増やすってプレゼンで言ってくれたとき、
実はめちゃくちゃ感動したんだ。それだ!ってね。
それがどうビジネスになるのか。楽しみにしてるよ!
また話そうね!」
そう言って猪肉と共に見送ってくれた。
帰りに河川敷に寄った。
もう空は暗い。
案の定、てっぺいはまだいた。
1日会わなかっただけなのに、ずいぶん久しぶりに感じる。
「なぁ、今日、うちに泊まりに来ないか?」
てっぺいは驚いた顔。そりゃそうだ。
「え、ええよ。一回、家帰って行くわ」
よし。さすが、話が早い。
それから帰ってそのことをママに伝えた。
ママは「急に困るわ〜」とか言いながら嬉しそうだった。
7時をすぎた頃、
手ぶらのてっぺいが、僕の家に来た。
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