3ヶ月で提案件数が15倍になった話
こんにちは。大阪にある中小メーカーで事業承継中の辻本と申します。家業での取り組みを振り返る目的で、noteを始めることにしました。
初投稿は「3ヶ月で提案件数が15倍になった話」を紹介します。
当社では、2020年12月に長年形骸化していた提案制度を見直しました。その結果、年間数件程度だった提案数が3ヶ月間で60件に増え、前期年間件数の15倍となりました。
決して自慢できる数字ではありませんが、当社にとっては大きな一歩です。
というわけで、今回は制度見直しの経緯や具体的に変えた点、個人的な気づきをまとめてみました。
自己紹介
僕は大学を卒業後、金融機関4年、IT企業7年を経て、2019年5月に後継者として家業へ入社しました。
家業は1956年創立のねじメーカーです。主力製品の六角ボルトを中心に、累計30,000種類を超えるねじ製品を手掛けています。
30代半ばで入社したこともあり、現場経験はありません。入社後は経営企画の立ち位置で、複数の社内プロジェクト管理や採用、広報を担当しています。書くと聞こえはいいですが、実際は「やったほうがいいけど先延ばしになってること」を推進する役割です。
そして今回の提案制度も、対応が先延ばしになっていた懸案事項の1つでした。
形骸化していた提案制度
当社の提案制度は、業務の効率化と質の向上、組織の活性化を目的に、1998年より開始しました。優秀な提案に褒賞金を支給する仕組みを取り入れ、開始当初は順調でした。
しかし、年を追うごとに提案件数は減少。特に直近3期は、2017年度が年間1件、2018年度が同8件、2019年度が同4件、とほとんど機能していない状態でした。
問題点は大きく2つありました。
1つ目は、「改善効果が小さな提案は認められない」という暗黙の了解があったことです。
効果の大小は審査基準であって、絶対条件ではありません。しかし、提案制度を明文化した規程がなく、「会社に対して提案する」という心理的ハードルの高さも重なり、社員のなかで誤解が生まれていました。
2つ目は、提案に対するフィードバックがなかったことです。
不採用になった提案は、事務局から提案者へ理由をフィードバックするルールでした。しかし、まったく実施されていないことがわかりました。提案者からすれば、審査されているかすらわからない状態。これではやる気も出ません。
すぐに改善できる問題を長年放置した結果、提案制度は完全に形骸化していました。
7つの改善
これらの問題点を踏まえ、提案制度に対して7つの改善を行いました。
①基本方針の明文化
誤解が生まれやすい4つの項目を明文化しました。基本方針は社内の掲示板やイントラネットのトップページに見える化しています。
②上司による事前承認廃止
これまでは、所属先の上司に提案内容の事前承認をもらってから、事務局へ提出するルールでした。
しかし、上司承認をもらう心理的ハードルの高さや承認待ちによるリードタイム長期化が見受けられたため、このルールを廃止しました。
現在は社内に設置している提案箱やwebフォームから、ダイレクトに事務局へ届く仕組みです。
③アイデア提案の積極募集
過去に提出された提案は、改善実証後の提案が大半を占め、実証前のアイデア提案はごくわずかでした。
しかし、業務改善を取り組むにあたり、事前に費用が発生するケースや、会社や部署の協力がいるケースは必ずあります。つまり、「アイデア提案が少ない=アイデアはあるが自己判断で諦めている」ということでした。
こうした機会損失を防ぎ、社員一人ひとりの貴重なアイデアを集合知で実現するため、アイデア提案を積極募集しました。
④審査頻度の変更
提案に対する会社側の反応をいち早く伝え、提案者のモチベーションを高める狙いで、審査(表彰)頻度を年1回から月1回に変更しました。
同時に審査フローと審査基準も新たに作成。全体共有を行い、審査の透明化を図っています。
⑤提出1件につき褒賞金を支給
これまでも提案内容(評価)に対する褒賞金は支給していました。
しかし、提案作成にはそれなりの時間がかかります。「作成がめんどくさい」という理由で、提出に消極的な社員もいました。
たしかに、デスクワーク中心の社員ならまだしも、現場作業者が隙間時間で提案を言語化するのは大変です(そもそも文章を書くことが慣れていない)。
なので、提案内容の採用・不採用に関わらず、提出1件につき実証済提案500円、アイデア提案300円を新たに支給しました。「会社を良くしたい」という行動(提案)に感謝を示す意味を込めています。
⑥不採用提案の全件フィードバック
不採用提案のフィードバックができていなかった反省を踏まえ、審査結果共有後1週間以内に事務局よりフィードバックを行うルールに変更しました。
またフィードバック時は、不採用理由を伝えるだけでなく、提案提出に対する感謝を必ず伝えるようにしています。提案者に「また次回頑張ろう!」と思ってもらうことがゴールです。
⑦事務局の変更
実を言うと、最も悩んだ点が事務局をどうするかでした。従来通り、所管部署に任せる選択肢もありました。
しかし、最終的には軌道に乗るまで自分が担当することにしました。会社として提案制度に注力する姿勢を示す必要があったからです。
結果的に、社員からの要望や運用しながら気づいた修正点を素早く反映できたので、この判断は正解でした。
3ヶ月取り組んで感じたこと
①問題は「個人」ではなく「仕組み」
提案制度の見直し後、提案件数は大幅に増えました。
しかし、この結果は、制度の見直しによって改善活動が活性化されたわけではなく、普段から取り組んでいた改善活動が「見える化」されただけと思っています。
つまり、問題は「個人」ではなく「仕組み」にありました。
今回の取り組みを通じて、「まずは仕組みを疑うこと」が改めて教訓になりました。
②浸透・定着に近道なし
新しい取組みは、企画・導入より、浸透・定着が100倍大変です。導入当初は目新しさで盛り上がることがあっても、放っておくとたちまち形骸化します。
当社も提案件数のピークは、制度を見直した初月でした。2ヶ月目は前月比マイナスとなり、3ヶ月目はなんとか前月比横ばいを維持できましたが、早くも正念場です。
このため現在は、日々の呼びかけだけでなく、提案件数の週次レポートや過去表彰分の閲覧資料作成、専門誌から抜粋した他社事例共有など、事務局側でやれることを地道に泥臭く取り組んでいます。
今後は各部署からエバンジェリストを募り、より現場に近い社員からの発信強化を予定しています。
「浸透・定着に近道なし」です。
最後に
つらつら書きましたが、当社もまだ道半ばです。
提案件数は売り上げに直結しません。むしろ、短期的な費用対効果だけならマイナスかも知れません。
ただ、提案制度を通じて、部署間の見える化が進んだことや業務改善に対する意識が高まったことで、少しずつ社内の雰囲気が変わってきた手応えはあります。
僕は「小さな改善の積み重ねが、会社の将来にとって大きな資産になる」と信じています。
数年後に「当社=提案制度(改善活動)」となるゴールイメージを持って、今日も提案箱の確認に向かいたいと思います!
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