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Wicked Problem(厄介な問題)に立ち向かうための「システム思考」と「デザイン思考」、デザインリーダーの役割について

Hello, 辻原です。
年末年始なので筆が捗りますね。仕事もスタートしていますが、正月休みの脳をリブートさせるのに文章を書くというのはとてもいいエクササイズなようで、もやもやした思考がクリアになっていくのを感じます。

前回書いたnoteに対しありがたくも下記のような引用ポストをいただいたので、今回のnoteでは“今のところ”私が理解しているWicked Problem(厄介な問題)に対する「システム思考」と「デザイン思考」の効用、またデザインリーダーの役割についてまとめていきたいと思います。

このnoteは私が2021年から担当させていただいている、みずほリーサーチアンドテクノロジーズさんの人材育成プログラム「越境リーダーズキャンプ」でのセッション&ワークショップを元に書かれています。

このセッション&ワークショップは24年フルリニューアル予定ですので(本年もお声かけいただければ笑)、興味をお持ちの方がいらっしゃれば、オンラインor動画でプログラムを公開しようと思っています。気になる方は引用ポストなりなんなり適当にリアクションしてもらえたら嬉しいです。

Wicked Problem(厄介な問題)とはなにか

Wicked Problemの代表例として挙げられるのは「貧困」「気候変動」「治安」などですが、社会的な例では母子家庭の貧困、少子高齢化、独身世帯の増加…など様々な課題を取り上げることができます。

Wicked Problemにはいくつかの特徴があります。

1.絶対的な解決策の公式(フレーム)がない
2.問題解決に終わりがない
3.解決策に「正しい悪い」はなく、「良い悪い」があるだけ
4.解決策の妥当性や効果をすぐに確認することはできない
5.すべての解決策が一回限りで、重要な影響を及ぼす
6.従来型の計画に組み込み可能な記述、説明可能な解決策がない
7.本質的にすべての問題がユニーク
8.すべての問題が、別の問題の症状になる
9.個々の見方によって大きく異なり、常に多くの説明があり、その説明の仕方が解決策を決定する
10.計画者には間違う権利がない

https://www.wicked7.org/what-is-a-wicked-problem/

東京住まいの身として気になり続けているのは、新宿のトー横キッズの問題です。最近警察が広場を封鎖しており、この一時的な「その場凌ぎ」の対応が問題を悪化させないか・問題を不可視かさせないか、ということが気になっています。これも日本の都市が抱えるWicked Problemの一つとして丁寧に取り扱ってほしいと考えています。

では、このWicked Problemの解決に向けて「システム思考」「デザイン思考」について理解を深めていきましょう。

システム思考とはなにか

デザイン思考について知っている・耳にしたことがあるという方は多いと思いますが、システム思考については初めて!という方は少なくないのではないでしょうか。まずはシステム思考について理解を深めていきましょう。

システム思考とは、物事の全体像を「システム」として捉え、さまざまな要素とのつながりを把握したうえで、最も効果的な解決法へ向かうアプローチです。

Google 検索における生成 AIより

日本では「風が吹けば桶屋が儲かる」という概念で有名ですが、これは下記のようなシステム思考の因果ループとして表現することができます。

正しくは(+)とか(-)で変動も表現するが省略

システム思考とはこのように要素感の関係性やつながりを捉えるための思考法です。システム思考的なソリューションの代表例として、アメリカのイエローストーン国立公園の事例をあげることができます。

イエローストーン国立公園ではオオカミが絶滅したため、鹿(エルク)を狩る動物がおらず、激増した鹿はほとんどの植物を食べ尽くしてしまい生態系系への悪影響を及ぼしていました。そこで25年前に41頭のオオカミを保護下で再投入。鹿の頭数が減ったことで植物の再生が始まり、6年で木の高さが5倍に。森ができ渡鳥が増え、ビーバーが増え…と環境が改善されてきたよ、という事例です。

このように、「植物の育成状況が悪い」「鹿の頭数が多い」といった表面的な個別課題に「植林」や「捕獲」という個別手法を取るでのはなく「公園全体の生態系の乱れ」としてシステム的に理解することで、「狼の投入」とシンプルかつ根本的な対応が可能になっていることがわかります。

システム思考はこうした複雑な課題に対処するための有効な手段であり、持続可能性の面でも現代的であるということができるのではないでしょうか。

デザイン思考とはなにか

デザイン思考の説明は少し簡略化しますが、AIに尋ねると下記のように説明してくれます。課題発見の起点を「観察」や「共感」といった定性的情報からスタートすること、「試作」と「検証」を繰り返すことがその特徴であるといえます。

デザイン思考(デザインシンキング)とは、人々のニーズを観察して課題を定義し、アイデアを出し、プロトタイプを作成してテストを行いながら試行錯誤を繰り返すことで、新たな製品やサービスを生み出し、課題解決につなげるプロセスです。

Google 検索AI

デザイン思考によって生み出されたプロダクトとして有名な事例に「投票式吸い殻入れ」があります。

https://eleminist.com/article/1967

タバコのポイ捨てが課題になっていたイギリス発のソリューションで、タバコの吸殻を簡単な投票BOXにしたものです。「どちらのサッカーチームを応援してる?」「AppleとAndroidどっちが好き?」といった簡単な質問を投げかけ投票を促します。あえて「捨てる理由を作る」ことでユーザーの行動を喚起しているという点で、人の行動心理をよく理解し実装された好事例であると考えられます。実際にこの吸殻入れの導入によってポイ捨てを46%も減少させることに成功しています。

デザイン思考はこのように課題の対象となる人間を注意深く観察しながら、彼らの行動原理を理解しソリューションを提供し、その課題を解決するものであるといえます。

Wicked Problem(厄介な問題)を読み解くためのシステム思考

ではWicked Problemを解決するための手法として「システム思考」と「デザイン思考」について考えていきましょう。

先程あげたWicked Problemの例の一つ「母子家庭の貧困」についてシステム思考的に解像度を高めてみましょう。この課題について丁寧に説明された記事がありますので、そちらから引用させていただきます。

図解で読み解く方程式 より

この図からわかるように「母子家庭の貧困」という現象は、複雑な社会システムの歪みからでてきたものであるということがわかります。一つの目に見えてわかりやすい「お金がない」という課題にだけ注目し、例えば「補助金」のような一時的な対応で凌いだとしてもその課題は解決できないことがよく理解できるのではないでしょうか。

またさらに、なぜCOVID-19があんなにも社会不安を引き起こし何年にもわたり解決が難しかったのかということも、この複雑に絡み合うWicked cycleを見るとよく理解できると思います。

https://www.wicked7.org/mapping-covid-19-as-a-wicked-problem/

Wicked Problemの特徴とはつまり「複雑なシステムを有していること」であり、相互関連的に派生しあう課題の大きなエコシステムであるということです。Wicked Problemを解決する第一歩はその課題を「悪化させながら自己強化しているシステムを特定する」ことであるといえます。

ここまで社会的な課題の話を多く取り上げてきたので「ビジネスと関係ないじゃん」と思った方も多いかもしれませんが、この考え方はビジネスにも広く応用されており、最も有名なものに「ジェフベゾスのナプキン図」を挙げることができます。

https://diamond-rm.net/management/96523/2/

この図はジェフベゾスがアマゾンを立ち上げる際にナプキンに書いた「アマゾンの成長戦略を示す図」として有名なので、この図の読み解き方については別記事を参照してほしいのですが、この図が示すものは「自社の競争優位性を自己強化するシステム」に他なりません。

「システム」ではなく「ストーリー」と表現されていますが、ビジネスへの有効性については名著として名高い下記の書籍に詳しく説明されています。

日本のような先進国においては「単純な課題」「わかりやすい課題」は多くの場合すでに解決済みであり、日本は「イノベーションが難しい国」であると言われることも多いです。しかし裏を返せばそれは「根深い・解決の難しい課題が残っている」ということでもあるので、こうしたシステム思考は日本のような先進国におけるイノベーションや新規事業創出においても非常に有効であると考えられます。

システムの渦中の「人間を動かすためのデザイン思考」

デザイン思考の有効性については様々言われますが、先にあげた例のように「人間を動かすことができる」という点の有効性ついて疑問を持つ人は少ないのではないでしょうか。

デザイン思考は単体では「単純な課題」「わかりやすい課題」に向いているものであり、複雑な課題解決に向いているものではないので、システム思考と組み合わせて活用することで力を発揮しやすいと辻原は個人的に考えています。

システム思考と組み合わせて活用する方法としては、先にあげた「COVID-19 wicked cycle」の課題解決を行う場合を例に考えるならば「1つの課題を解決する」のではなく「1つのサイクルごと解決する」ことを対象にした課題解決を行うために用いることです。

一つ一つの課題は専門性が高くデザイン思考が役に立たないケースが多いため、その点に注力するのではなくこのサイクルを解決するために「人をどのように動かすべきなのか」を考え高い効果を実現・実装するという目的でデザイン思考を活用するのがよいということです。これはイノベーションや新規事業開発・組織のマネジメントにおいても同じことが言えるはずです。

デザインリーダーの役割とWicked Problem

最後に、本題であるデザインリーダーの役割とWicked Problemへの取り組みについてみていきましょう。『デザインマネジメント論-ビジネスにおけるデザインの意義と役割』から引用します。組織のマネジメントを推進する役割としての「デザイン・リーダーシップ」の役割として6つの要素が挙げられています。

①未来を描くこと
②戦略的意思を表明すること
③デザインへの投資を指揮すること
④コーポレート・レピュテーションを管理すること
⑤イノベーションを生む土壌をつくり・育むこと
⑥デザイン・リーダーシップを訓練すること

『デザインマネジメント論-ビジネスにおけるデザインの意義と役割』から引用

これら要素から読み解けることとししては、デザインリーダーの役割とは「会社や組織というシステムが健全に機能するよう設計・投資・運用を行い、ゴールに向けてリードしながら後進を育成すること」ということです。組織は成長に合わせて課題が増幅し、それらの課題はどんどんWickedになっていきます。前回のnoteでも書いたように課題はどんどん小さく見えづらく複雑化していく。

デザインリーダーは経営者とともに、会社や組織のWicked Problemに立ち向かうことがその役割であり・存在意義であるということもできます。

デザインリーダーを目指すみんなへ

デザインリーダーを目指している人たちがどのくらいの数存在しているかわかりませんが、ぜひ「システム思考」を身につけてください。入門としては下記の書籍が良いと思います。

こうした視点を持ってデザインに取り組むことで、解決する課題の幅が広がるはずです。またさらにシステム思考とデザイン思考の組み合わせによって、多くの課題が解決できる可能性があること・社会をもっとよくできる可能性があることについても知ってください。↓の本もおすすめ。

朝から仕事もせず5000字も書いたのでそろそろ終わります。

「Wicked Problemという閉塞感や絶望感を抱かせる厄介な課題は、デザインによって解決することができる」という希望が多くの人に伝わるといいなと思って書きました。「リーダーとは希望を配る人のことだ」というナポレオンの名言が好きな辻原ですが、現代のリーダーは希望と一緒に武器も配るべきだと思っているので、こうしたナレッジがデザインリーダーを目指す人たちの武器となったら嬉しいなと思います。

では!今日からお仕事がんばります。

Thank you! I love you.

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