「レンタル障害者」の炎上について、うつ手帳持ちの私より
私が障害者手帳を取得してから、ちょうど一年が経った。
そんな中、ある人の"レンタル障害者手帳持ち"という、"レンタルなんもしないひと"をもじったツイートがバズった。
レンタル障害者手帳持ちというアイデアは、障害者手帳を持っていれば、手帳を持っている本人と介助者は、美術館や映画が割引になることを売りにしたものだ。
(ちなみに介助者が何名まで割引されるかは、場所によって違う)
このツイートについて、「手帳持ち当事者」として語りたいことがある。
手帳を取るか悩みつづけた数年
まず、私の障害者手帳を取得した経緯について知ってほしい。
私は去年の一月に障害者手帳を取得した。
内容は「うつ病」
私はうつ病を患ってもう10年近く経つ。
学生の頃に発症したこの病気は、この歳になっても私の手を離してくれない。
何度も振り解こうとしたけれど、逃してくれないこの病気。
そんな風に考えていた私が、「逃げる」のではなく「ともに生きる」方向にシフトしようと思ったのが、障害者手帳を取得した理由だ。
私はもともとネガティブなタイプなので、うつ病ととても相性がいい。
(最悪なマリアージュ)
うつを発症したきっかけも、人間関係のこじれだとか自責思考だとか、そういったものからだった。
そして病名がつき、闘病して、その間にはICUやら閉鎖病棟やらに入院もした。
自分の人生の最底辺を味わいながら、死にたい気持ちと親友になりながら、なんとか今日まで生きてきた。
私は障害者手帳を取得できると何年も前から医者に言われながら、ずるずると先延ばしにしていた。
それはやっぱり、「障害者」になるから。
そのラベルが一つ付くことで、周りの人からの視線は違うものになる。
その頃私は、もし結婚するときに相手の親御さんにバレたら断られるかも、とか、周りから差別されるかも、と不安で仕方なかった。
差別を目の当たりにする漫画
「初恋、ざらり」という漫画を知っているだろうか?
ざくざくろさんという漫画家の方が描いている、主人公は障害者の女の子で、職場の健常者の男性との恋愛漫画。
こういった差別を受けたことがない、という障害者の人もいるかもしれないけれど、"障害者である"という事実からは逃れられない。
そして、差別される危険性や可能性は必ずある。
そういった手帳の裏にあるでっかい闇、みたいなものに私は心底怯えていた。
けれど私にも愛するひとができ、ずっと終わらせたかった人生を、初めて生きていきたいと思った。
そして、うつから逃げるのではなくて、ともに生きよう!と決意した。
うつと生き続ける自分を受け入れ、医療やカウンセリングに頼りまくって、生き延びるための選択をしようと思ったのだ。
こんな訳で私は障害者手帳を取得し、障害者0才になった。
そして1歳の誕生日、このツイートが目に入ったのだ。
ツイートに絶望
最初はかなり絶望した。
だって、こんなの「だから障害者は!」と思われてしまうツイートだから。
リプ欄には賛否両論(どちらかというと否)が吹き荒れ、どうやら5chでスレも立ったらしい。
障害者手帳は、普段医療費やカウンセラー費がかかり、通常の仕事をするのが難しく、金銭的に厳しい人のためにある、と私は思っている。
だから、こんな利用するようなことはダメでしょ!?と思ったし、ただでさえ「手帳持ち」などというスラングが流行ってしまっている世の中で、こんなことを言っていたら余計に差別されてしまう!と思った。
実際リプライにも
「手帳持ちとして迷惑だからやめてほしい」
「手帳は健常者のクーポンではない」
などの意見が寄せられていた。
けれど、なんだか力が抜けた
けれど、そこまでたくましいツイ主を見て、なんだか少しだけ力が抜けた気もしたのだ。
もちろん不正利用するのはダメだと思うし、私はこの人のことを応援したくはない。
ただ、私が何年も悩んできた「障害者差別を受ける」なんて悩みなんて飛び越えて、儲けようぜ!!!と、障害者手帳をウリにしようとする人もいるのだな、と思って、ほんの少しだけ笑ってしまった。
差別されることが怖いから手帳を取らない、という選択をしている人は少なくないと思う。
私も実際そうだった。
けれど、必要であれば取ればいいし、手帳を持ってることを隠さなくてもいい。
むしろ、手帳を持っているからデートに誘いやすい!なんて思えるような日常が来ればいいと思う。
もちろん手帳で割引してくれるのは、配慮だし、それについて感謝すべきだ。
けれど、へり下る必要はない。
自分の障害とともに生きていく、そして健常者とともにこの世界を生き抜いていく。
ともに走るために私には補助輪が必要なだけ。
そんなシンプルな考え方でいいと思う。
(だからって割引をエサにお金儲けするのはよくないが)
私たちは「社会のお荷物」なんかじゃない
大方の手帳持ちのひとはきっと、苦しい思いをしている。
私は心がしんどすぎて病院にすら行けない日もあるし、カウンセラーなんて高くて何度も利用できない。
ヘルプマークをつけて街を歩いていたら、殴られそうになったこともある。
しかも24時間テレビには、頑張ってる障害者しか登場しない。
でもだからといって、障害者は聖人ではない。
当たり前のように、善人もいれば悪人もいる。
ツイ主のことを悪人と言っている訳ではなくて、私たちはみんな同じ"人間"で、何も変わりはしないのだ。
そんな当たり前を知ってほしいし、分かってほしい。
そして障がいを持っている人は、手帳持ちだからと言って、申し訳なさそうにする必要はないし、堂々としていていい。
しんどかったら優先席に座っていいし、病院までのタクシーだって手帳の割引を利用してもいい。
「社会のお荷物」なんて言わせちゃいけない。
絶対に私たちは、生きていていい。
ナチスドイツが一番最初に殺したのは、ユダヤ人ではなく、障害者だったことはあまり知られていない。
出生率が下がっていく日本で、優生思想をナチュラルに唱えるひともいる中で。
やまゆり園のような事件を二度と起こしてはいけないのだ。
障害者はかわいそうだとか、天使だとか、そんなことばかりではなく、「ただひとりの人間」として見てほしい。
性欲も物欲も食欲もある、"フツー"の人間なのだ。
妊婦さんに配慮するように、お年寄りに配慮するように、少しだけ配慮してほしい。
ただそれだけの願いを、私は抱いている。
手帳を取ってから、格段に映画館に行きやすくなったし、友だちを美術館に誘えるようにもなった。
けれど「精神障害者のひと初めて見た!」と言われたこともあるし、手帳を持っていることをまだ言えていない家族もいる。
けれど、手帳を持っていることを隠さなくてもいい世の中が来てほしい。
鼻炎になったらティッシュが必要で、骨折したらギプスが必要で、障害者には手帳が必要。
そんな当たり前が浸透することを、願っています。
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