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夏の終わり、永遠に"普通"になれない私たち

夏の終わりに瞬いたのは、まるで花火のような愛だった。

「初乗りはいくら?」と聞かれた先日。タクシー待ちをしていたわたしに声をかけたのは、青の宝石を胸元につけた、腰の曲がったおばあちゃん。どうやらおしゃべり好きのおばあちゃんらしく、わたしが質問に答えても永遠に話しかけてくる。暑さでイライラする毎日、タクシーも来なくて気分は最悪。めんどくさいな、なんて少し思ってしまう。

おばあちゃんは「あなたのワンピース、素敵ね」と唐突に言う。実はその日、気合いを入れた格好をしていたわたし。お気に入りのワンピースに重ねていたのは、緑のスカート。チラリと見えたらいいな、と思いつつも、誰にも気づいてもらえずにトボトボと帰路についた夜だった。(これは、見せなきゃ…!)と、少しだけ裾をあげて、上品に緑のスカートをお見せする。「わあ、素敵な色!普通じゃなくて、とっても素敵だわ!みんなが選ばない色ってのがいいわね」とおばあちゃんは微笑む。期待以上の反応に、嬉しくなって思わず顔がほころんでいく。でしょ!でしょ!?なんて心の中で飛び跳ねつつ「嬉しい!」と素直に伝える。

続けておばあちゃんは「緑って、つまらない色じゃないでしょ?それを選ぶあなたもきっと、つまらない人じゃないのね、素敵!」と言う。なんだか、その言葉がじーんと響いて、泣きそうになる。

人生っていうのは大概つまらない。毎日同じことの繰り返しだし、嫌な仕事も学校もあって、好きなことだけやってればいい!なんてことはない。社会に適応しなければ上手くやっていけない毎日で、「みんな違ってみんないい」と習ったはずなのに、"普通"を押し付けられる日々。「みんなと同じ」ができないと、結局仲間外れにされてしまう矛盾した世界。

その世界で、わたしは自分が人と違うことに、いつもいつも、苦しんでいる。"普通"ができない自分を何度も呪ったし、"普通"になりたくて泣き明かした夜もあった。そんな心が擦り切れていく毎日に「あなたはつまらない人じゃなくて素敵ね」というまるで砂糖菓子のような言葉。とびっきりのプレゼントをもらった気分になった。

そんな風に光る愛は、日常に実は溢れている。

本を出版したことで、初めて発送作業をした。人にものを送るのがほぼ初めてのわたしは、手こずる毎日。運送会社にキャリーバッグいっぱいの本を詰めて通っている。そこでは、笑顔の素敵な女性がいつも手伝ってくれ「わたしがなんでもサポートしますよ!」とパニックなりかけのわたしに微笑んでくれる。

昨日はコンビニで、レジ袋を買ったのに忘れていたわたし。買ったものを抱えて出ていこうとして「あ、レジ袋…!」と若い女の子の店員さんと二人、ハモって笑いあう。いつもタバコを番号で言ってくれて助かります、と言ってくれる彼女とは、もう勝手にお友だちの気分だ。

そして、なにより嬉しいのは、本を買ってくれたみんなから届く、「届いたよ!」のメッセージ。感想をくれる方もいて、ほんとうにうれしく、ひとり夜中噛み締めている。(感想はほんとうに嬉しいので是非送ってください)

色んな展示会に誘ってくれる大好きなひとたちや、わたしを誰かに繋げてあげよう!と知り合いに紹介してくれる友人たち。

標高約2500メートルから電話をかけてくれた子もいた。高い山から見える景色は美しく、その子の瞳を通して語られる自然は美しい。

いつ電話しても出てくれるあの子や、いつもお土産をくれるあの子。いろんな人のいいねも、DMも、コメントも。なにもかもわたしの心に愛となって注がれている。

ああ、なんて美しい世界なんだろう。

こうして、一つ一つの優しさを思い出して、噛み締めるたびに、「わたしはまだ生きていたい」と素直に思える。

わたしは普通にはなれない。だからあなたに言葉で、わたしから見える世界を伝えたい。

わたしは障害者だし、障害者手帳も年金ももらい、一日で薬を10錠も飲んでる。自傷跡まであるし、あんまり元気じゃない日の方が多いし、何もできなくてずーっと泣いてる日もある。"普通"じゃないことを突きつけられては泣くし、"普通"ができないことにも日々泣いている。もっと優しくしてくれ、世界〜〜〜!と大体叫んでる。

だからね、みんな肩の力を抜いてね。

普通じゃない自分を受け入れられなくて泣いてきた10年は、あなたの痛みを分かるために、きっと過ごしてきた10年だから。

わたしたちは、辛い思いや苦しい思いをしてきたから、今のわたしたちになれている。わたしたちは、みんな、つまらない人間じゃないんだ。あなたのありのまま。それが人と違うから面白いんだよ、素敵なんだよ。

そう教えてくれたおばあちゃんの言葉に勇気をもらって、わたしは本日もメンヘラ代表。

メンクリに通い、薬を飲んで、泣きながら眠る。そんな日々だから、あなたの痛みなんてちっぽけだ!なんて絶対思わないよ。あなたの痛みは、あなたのもの。そして、わたしはその痛みを共に感じたい。

このくだらなくて最悪で、醜い人間社会で。あなたとわたしのつながりは、愛と優しさであるように。そしてこの世界の優しさを、あなたに光として見せられるように。

今日もわたしは、言葉を紡ぐ。

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