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一緒に絶望しよう

一日のおわり、おやすみなさいをいうひとがいる。それだけで人生はたぶん、いいのだ。それでお釣りがくるくらい、十分なんだとわたしは思う。

だけど、そんな日々の中でくじけてしまう夜は何度も来る。明日の朝を思うたびに、地獄のような気分になっては、誰かの顔を思い浮かべてグッとこらえるそんな夜。例えば、ひとが死ぬ方法はたくさんあって。多分この世に存在するいろんなものは、どうにかすればひとを殺せる。ネクタイも、ビニール紐も、カミソリも、オーブントースターでさえ。死ぬ方法ばかり考えては、脳内でなんども自分を殺す。この思考になるのは久しぶりだなあ、と少し感慨深くなる。そうやって、なんとか、自分を客観視して「まだ死ぬことないじゃん!」とガハハと笑う誰かを脳内に置く。ルフィやナルトみたいな人間が、わたしの頭の中にいるように。超ポジティブ思考で馬鹿みたいに生きることを肯定してくれる誰かが、私にとって必要で。

誰かに頼る、それが一番なのはわかってる。助けを求めれば、世界は意外と優しくて、みんな手を伸ばしてくれる。ただ、それを許せない自分もいる。迷惑じゃないだろうか、心配をかけてしまわないだろうか、常識なんてないくせにそんなところだけ遠慮する自分の弱さに怯える。

「ひとに頼ることは弱いこと」いつからそんな風に考え出したんだろう。「あのひとは強いね」という言葉が、どんなに辛くても笑っているひとにしか当てはまらないと考えるようになったのはなぜなんだろう。

わたしたちの辛さは可視化できない。比べることもできないし、そんなのいらない。あなたにはあなたの辛さがあって、わたしにもわたしの辛さがある。

はっきり言ってしまおう、わたしたちは永遠に分かり合えない。死ぬ時もひとりだし、孤独は誰にも救えない。

でもね、わたしたちは"寄り添いあう"ことはできるんだ。ひとりきり、と、ひとりきり。そのふたりが寄り添って、ふたりきり。そんな風に、ただ誰かの隣にいることはできる。

だからわたしは、あなたにただ言葉を投げかけつづける。

「辛くはないかい?泣いてはいないかい?」

聞き飽きたJ-POPみたいなことしか言えないけど、でもわたしはいつも本当に心からあなたを想ってる。ひとりきりだよ、みんな。だから、わたしがいるんだよ。あなたの隣にいさせてよ、せめて。あなたの孤独を救ってあげることはできなくても、涙だけは拭かせてよ。辛いなら手を握らせてよ。抱きしめさせて、愛してると言わせて。

世界はなにも許してくれない。普通に生きることも、普通に愛しあうことも。だけど、わたしはそんな世界なら飛び出しちゃおうよ!って馬鹿なことを本気で言うから。世間知らずでごめんなさい。だけど、世間知らずのままでいたい。だって、あなたが生きてる以上に素晴らしいことなんてないってこと、否定する誰かがいる世界なら要らないから。

明日モンゴルに行こう、明後日はインドに行こう。馬を走らせて遊牧民と遊んで、疲れたらチャイを飲みに行こう。タージマハルでお昼寝して、その次はオーロラを見に行こう。さて、次はどこへ行こうか?あなたは自由だよ、どこまでも。わたしはそう微笑むから、信じてみてよ。手をとってよ。

暗い部屋、カーテンも閉め切ってタバコの匂いだけがする。憂鬱と手を繋いでただ沈み込むベッドの上。ゴミだらけの部屋で籠城するあなたの心をノックして、わたしとあなた、手を繋いで扉を開ける。走り出した太陽の下、クラクラする陽射しに射抜かれて、暑さで溶けてしまいそう。目も開かないような眩しさの中、恐る恐る開いた瞳に映る景色。彩度の高い青空が、果てなく広がってわたしたちを包み込む。風が吹いて、あなたの髪がなびくとき、夏の夕方に虹がかかる。

世界は意外と悪くないんじゃないかな。意外と怖くないんじゃないかな。

そう思える日まで、わたしはずっとあなたに愛を伝えて、背中に寄り添うよ。背中を押してくれる言葉も時には必要だけど、わたしはただ側にいたいから。部屋から出られなくてもいいんだ、永遠にトンネルの中にいると苦しんでいてもいいんだ。いつかは光が差す、その日まで一緒に絶望しよう。そしてほんの少しの希望を手のひらに握ろう。

永遠に来ないかもしれない"いつか"を信じられるまで、あなたの隣で泣いていよう。

これは絶望と親友のわたしから、あなたに送るネガティブなエールです。

あなたにおやすみなさいと言わせてください。それだけで、今日はもう、十分。

そして、明日の朝はおはようを言い合おうね。

今日も生きててくれて、ほんとうに、ありがとう。

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