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【TSUGIHO】 第1号-初恋-

2023年1月の今、「初恋」といえばNetflixのドラマ「First Love 初恋」が真っ先に挙がるであろう。言わずと知れた宇多田ヒカルの名曲に着想を得て作られたこのドラマ。宇多田のデビューに衝撃を受けた世代であれば自分自身と重なるシーンが少なくともあるはずで、晴道が也英を初めて目にした場面などは、小生の過去の経験とも被る。ちなみにこのど直球恋愛ドラマで小生の心が一番揺れたのは、也英と旺太郎がエビを食べた炉端焼きの名店「ウタリ」である。もう何年も暖簾をくぐることが出来ていないが、ここはほんとうに素晴らしいので一度は訪れて欲しい。

さりとて、このドラマが出るまでの初恋と言えば、誰が何と言おうと村下孝蔵の「初恋」ではないだろうか。なに?時代が飛びすぎ?そうです、名曲は時代を越えるのです。と誰かが言っておりました。

村下は曲の中で「好きだよと言えずに初恋は」と唄う。つまり、手が届かない片想いのことを指している。そんな純情な感情など忘れてしまった小生。いつものパターンであればここで「1/3の」を頭につけて90年代後半のJ-POPを想起するのであるがここはググッと我慢して先に進める。

初恋という言葉が「初」という字を冠しているということは、それが一度だけでなく二度三度と発生しうる事象であることを示している。初回、初期、初雪、初詣。いずれにもあてはまる。

人間の記憶はあいまいで、都合よく過去を捻じ曲げることがある。すると、振り返ってみた時にどれが「初」なのかはっきりとわからず、ましてや「恋」に至ってはこれといった定義がない。

小学校の時に手をつないだこと。中学校の時に一緒に帰った時のこと。高校生の時に告白してフラれたこと。果たしてどれが初なのか恋なのか。

人との会話で初恋の話になることはままある。そんな時に人はどの思い出を初恋として語るのか、もしかしたら無意識のうちにどれを取り出そうか選んでいるのではないだろうか。

小学校の頃のことを言うとそうじゃないって言われるから中学生の頃のことを話そうとか、高校生の頃のことを話すとカッコ悪いから、小学生の頃のことを初恋ということにしておこうとか。すなわち、その人の初恋は匙加減ひとつで何とでもなってしまうのである。

そうであったとしても、人の初恋の話は誰が何と言おうと読みたい。見たい聞きたい歌いタイ!

第1号のTSUGIHOは「初恋」をテーマとして各作家に執筆を依頼しました。

あらゆるポッドキャスト番組を聴き、驚くほど丁寧に感想をツイートすることでお馴染みのシカ兄ことchicagocoffeeeさんは、小説「せなかあわせ」をTSUGIHOで連載してくれます。今回のお話は学生の淡い恋心が細やかに綴られており、その描写から情景が目に浮かびます。このあとどんな展開を見せていくのでしょうか。

詩的で深みのあるツイートが人気のノカヤクさんはエッセイ「夕凪は燃えさしのニコチアナ」を寄稿してくれます。今回のお話は思い出すことの意味をゆっくりと考えさせてくれます。

今一番、もとい、ずっと勢いのあるポッドキャスターであるセキヤさんは各回のテーマにちなんだフォトエッセイ「静謐な雑記」を。今回のエッセイは距離感を軸にした内容で、自分はどうだったかなと振り返る機会になるでしょう。

シャークくんによる特集記事では、さまざまなコンテンツの表現を考察することで「初恋」を問い直しています。

そして、たつまが都市プランナーの小川直史氏に対談形式で伺ったお話を掲載しています。街づくりというワードや都市と文化について、実体験に基づいた貴重で興味深い内容になっています。

想像通りに想像以上な仕上がりとなった創刊号。それぞれの解釈は、近づいたり遠のいたり、すれ違ったり重なったり、個性豊かな面々が紡ぐ初恋を堪能してください。

◆《前書き》
書き手:OC-3
Twitter @oshiteoku
“長文お便りライター。おしさんと読みます。おもしろいことをするために恥ずかしながら帰って参りました。”

《反=恋愛》

恋愛、というものを描いた作品はどれぐらいあるのだろうか。
人が恋に落ちる過程、恋を保つこと、別れること、その一瞬の情動を捉えようとするものは多様な形で、世界に溢れている。
ここに恋愛自体を問うもの(恋愛論)、当人同士は恋愛関係でないとしても、受け手としては恋愛だと読めるもの、いわゆる「推し活」の対象とされるような”疑似恋愛”がコンテンツの土台に入り込んでいるもの等を含めれば、その数はさらに膨れ上がる。
本当に、それら全てが恋であるだろうか。愛であるだろうか。
そしてその「恋愛」になることについて、無条件に私たちはYES!と言っていいのだろうか。あるいは、必要なのだろうか。

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