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女性の野望は国家転覆?血湧き肉躍る勧誘 -あるマルチ団体との戦い(前編)-

先日、「怪しい勧誘に気をつけよう」というビラを見た。

「必ず儲かるよ」「自己投資しよう!」「自由になれるよ」

うん、確かに怪しい。怪しいのテンプレート。
だけど、どこかパンチに欠ける。
血湧き肉躍る勧誘とは言えない。

え?怪しい勧誘にそんなもの求めてはいけない??

俺はあるのだ。血湧き肉躍る怪しい勧誘に遭遇したことが。
その勧誘はもはや怪しいなんてレベルを通り越して「壮大」だった。

2年ほど前の話だ。
俺はあるマルチ団体と戦った。

これはその時の戦いの全てである。
当時のメモや録音データなどをもとに忠実に再現した。

なお、この記事は「マルチダメ絶対!」「マルチはやばいから気をつけて!」というような啓発的なものではない。
俺はエンターテイメントとしてこの記事を作った。

たとえあなたがマルチ団体に所属していたとしても十分に楽しめると思う。

かなり力を込めて作ったのでお付き合いいただけたら幸いだ。

はじまり

その日、俺は久しぶりに柴田(仮名)の家へ行った。

柴田は仲良くしている大学の友達だ。
彼は実家を離れ一人暮らしをしていて、俺は普段彼の家によく遊びに行っていた。

その日は久しぶりだった。
実に2ヶ月ぶりだろうか。

俺は大学の長期休暇で外国に行っていたので、その間柴田にも会っていなかった。

その日はたまたま彼の家の近くに用事があり、帰り道に寄った。
雲ひとつないよく晴れた日だった。

制服を着た高校生のカップルが手をつないで歩いていた。
彼らはまだどこかぎこちなく、お互い恥ずかしそうにしていた。
顔を赤らめながら仲良くくっついて歩いている2人を見て、俺はなんだか幸せな気持ちになった。

さて、柴田の紹介をしよう。

彼はまだ人生で恋人ができたことがなかった。

また、恋人はいないが女の子とは仲が良い、といった部類の男でもなかった。
恋人ができる気配も一切なかった。

彼は見事なまでに女の子を寄せつけなかったし、寄せつけない雰囲気を身に纏っていた。
その雰囲気のことをここでは「覇気」と呼ばせていただく。

皆さんも、街を歩いていて「あ、あの人覇気強めだね。絶対彼女いないでしょw」などと思ったことが一度はあるはずだ。

だが、彼の覇気は「強め」どころではない。


ONE PIECE 45巻より引用


彼の覇気は間違いなく「最強」クラス。
そう、彼は非モテ界のシャンクスだった。

非モテ界シャンクスの覇気をくぐりぬけた女の子は二十数年間ただの1人もいなかった。
残念ながらここはONE PIECEの世界ではない。彼の覇気をくぐれるほどの強者は少ないのだ。

ONE PIECEのシャンクスというキャラクターは覇気が強すぎて、常人は彼の目の前で立っていることすらできない。最強クラスキャラに与えられる称号「四皇」を持っている。
本家シャンクスの覇気はその対象に制限がないが、非モテ界シャンクスの覇気は女性にのみ有効である。

そのため、俺は柴田に数年以内に恋人ができることは100%ありえないと思っていた。
それどころか、柴田が女の子と2人で遊びに行くということすらもありえないと思っていた。

俺だけではなく、彼を知る人ならみんなそう思っていたし、柴田自身もそう言っていた。

彼女が欲しいけど出来ないという非モテ男子は、とりあえず柴田に会えば気持ちが楽になっていた

彼は非モテ男子の希望の星であり、最後の砦だった。

圧倒的な覇気で女の子を寄せつけず、仲間(非モテ男子)からは慕われ、最後の砦と崇められる彼の姿は、まさに四皇シャンクスそのものだった。

そして、覇気は彼の部屋にも漂っていた。

彼の部屋はお世辞にも綺麗とは言えず、ポテチをボリボリ床にこぼしてもあまり罪悪感が湧いてこない程度には汚かった。

ごきぶりやねずみが彼の部屋に足を踏み入れることはあっても、女の子が足を踏み入れることは万に一つもありえない、ごきぶりホイホイ女の子バイバイ部屋だった。

Amazon|アース製薬 ゴキブリホイホイ より引用

俺はなんだかんだそんな柴田の部屋が好きだったし、自分の自宅と同じように落ち着ける場所の一つだった。

まとめると、彼は非モテ界シャンクスで、ごきぶりホイホイ女の子バイバイ部屋に住んでいた。

彼の紹介はこれくらいにしておこう。
我ながら実に友達思いのすばらしい紹介だったと思う。

その日、俺はそんな彼の家へ行った。

インターホンを押すと、すぐに彼は出てきてくれた。
2ヶ月ぶりに彼と会い、俺は心の中で「相変わらず…スゲェ覇気だ」と呟いた。

靴を脱ぎ、彼の部屋へ上がろうとする。
彼の部屋は、自宅と同じように落ち着ける、ポテチを豪快に食べられる、ごきぶりホイホイ女の子バイバイ部屋、そんな部屋のはずだった。

だが、実に2ヶ月ぶりに足を踏み入れた彼の部屋は驚くべき変貌を遂げていた。

彼の部屋は、女の子ホイホイごきぶりバイバイ部屋と言っても良いくらいに綺麗になっていたのだ。

久しぶりに会った旧友が以前と変わっていて寂しさを感じる、それに似た感情が湧いた。

だが、綺麗になること自体悪いことではない。
きっと自粛期間に大掃除でもしたのだろう。

女の子ホイホイごきぶりバイバイ部屋とはいえ、柴田が女の子をホイホイすることは天と地がひっくり返ってもありえない。
きっとごきぶりをバイバイしたかったのだな、うん、そうに違いない、と自分を納得させた。

もうポテチをボリボリこぼせないごきぶりバイバイ部屋でくつろぎながら、柴田と久しぶりの会話を交わす。

柴田「外国はどうやった?」

俺「楽しかったよ〜」

柴田「そらよかった。」

俺「最近何してるん?」

柴田「課題結構大変やわ」

俺「課題多いよな〜」

柴田「マジでだるいわ」

なんてことはない日常会話をして、話題は部屋が綺麗になったことへと移る。

俺「てか、部屋めっちゃ綺麗になってるやん。驚いたわ」

柴田「あ、そう?笑」

俺「もう気軽に汚せへんなあ笑」

柴田「いやそもそも汚すなよ笑」

俺「なんで突然綺麗にしたん?」

柴田「あ〜、俺今女の子と同棲してるんよ。」

俺「あ〜そうなんか、同棲してるんかぁ…..」


俺「………..」


俺「…….ん?..」


俺「………………..ん???」


柴田「女の子と住んどるから部屋綺麗になったわ笑」


俺は言葉を失った。

これは夢か?現実か?

自分のほっぺをつねって現実かどうか確かめた。
結果は現実だった。

俺の驚きとは対照的に、柴田は日常会話のノリで喋っている。

なんの前置きもなく、さも当たり前かのように同棲発言をした柴田はまるで百戦錬磨のジゴロのようだった。
非モテ界シャンクスと百戦錬磨のジゴロという対極にある存在を彼は一度に抱えていた。

もう一度復習しておくと、柴田はわずか2ヶ月前まで

  • 恋人はおろか、女の子と全く関わりのない人生を歩んでいた。

  • 圧倒的覇気で女の子を寄せつけず、非モテ男子たちの最後の砦で、その姿は四皇シャンクスを彷彿とさせた。

  • ごきぶりホイホイ女の子バイバイ部屋に住んでいた。


非モテ男子の最後の砦はあまりにも呆気なく崩れ落ちた

女の子と一切関わりのない人生を歩んでいた柴田は、今毎日女の子と接している。
それもわずか2ヶ月の間に。

せめて彼にはもう少し「とんでもないことをやってのけた感」を出して話して欲しかった

ONE PIECEファンの方なら、四皇シャンクスが呆気なく倒れたら呆然とするだろう。
俺はこの時狐につままれたような気分だった。

狐につままれながらも、俺は少しずつ状況を消化した。
状況が消化できてくると、俺はこの家に立ち寄る直前に見た高校生カップルの姿を思い出した。

あぁ、今柴田も彼らのように幸せに過ごしているんだろうなあ。
柴田にとって初めての恋人だから、彼らのように初々しく甘酸っぱい日々を過ごしているんだろうなあ。
きっと良い人なんだろうなあ。

柴田が恋人と一緒に同棲して楽しい日々を送っている姿を想像すると、とても嬉しく、おめでたい気持ちになった。

聞きたいことは山ほどあった。

「こんな短い間にすげえな!!おめでたいなあ!どんな人なん??どうやって知り合ったん?どういう経緯??」

俺のたくさんの質問に、柴田は全て答えてくれた。

要点をまとめるとこうだ。

  • 柴田は俺と会っていなかった間にマッチングアプリをひっそりと始めた

  • そのマッチングアプリで仲良くなった京都の女性と初デートに焼肉屋へ行った

  • 初デートの焼肉屋で女性が仕事の関係で大阪に住みたいという話をした

  • 初デートの焼肉屋で柴田は「俺の家に住んでも良いよ」と言った

  • 女性、柴田の家に住み始めた

  • 現在女性が住み始めて約1ヶ月が経過

  • なお2人は恋人関係ではない


「うん、なんか思っていたのと全然違う」


ツッコミどころは山ほどあるが、まず、「恋人じゃないんかい!」

俺は「女の子と同棲」と聞き、勝手に頭の中で同棲相手は「恋人」とイメージしていた。
高校生カップルのように、はにかみながら手をつなぎ、並んで歩いている姿を妄想した。
だが考えてみれば、恋人と同棲している場合、「恋人ができて同棲している」と伝えるはずだ。
そこで違和感に気づくべきだった。

遊び人でもジゴロでもない柴田が、恋人ではない女性とわずか2ヶ月の間に同棲しているというのはかなり不可解な状況である

柴田の口調や発する言葉から女性に対する好意を感じたので、もしかすると今から恋人関係を築いていくのかな?、などと想像した。それにしても不可解ではあるが。

第二のツッコミポイントは、柴田、「家に住んでも良いよ」って言うの早すぎやしないか??
そして、女性、住み始めるの早すぎやしないか??

いくらなんでも初めて会った日に同棲を決めるという事例は聞いたことがない。

ツッコミどころ満載の柴田の話を聞き、俺の中で疑問の方が大きくなってきて、おめでたムードが消えつつあった。

そして、一つ忘れてはいけないのは、柴田は超一流の覇気使いということだ

ONE PIECE 45巻より引用


つまり、柴田と同棲している女性は彼の圧倒的な覇気をくぐり抜けたということになる。

彼の覇気をくぐり抜けた女性は、二十数年間ただの一人も現れなかった。

ここに一つの仮説が生まれる。

猛者シャンクスを倒した女性は圧倒的な猛者だったのではないか

という説だ。


一冊のノート


女性がどんな人か知る手がかりがあるかと思い、俺は綺麗になった柴田の部屋を物色した。

すると一冊のノートがあった。
どうやら同棲相手の女性の私物らしい。

ノートは「どうぞご自由にご覧ください」と言わんばかりに、中が見える形で剥き出しに置かれていた。

他人のノートを勝手に覗くのは気が進まないが、どうぞご自由にご覧ください状態のノートは、覗き込まなくても中が少しだけ見えてしまった。

見えたのはたった1文。されど1文。


仲間を作り、3ヶ月後に月100万、5年後億万長者に

このたった1文で、俺は「おめでたい・嬉しい」モードから「好奇心・心配」モードへと切り替わった。
また、「甘酸っぱい」が、「きな臭い」に変わってしまった。

俺は柴田が同棲している女性はマルチビジネスをしているのではないか?と推測した。

仲間を作るという文言はもちろん、月100万という目標からはお金が全てという価値観が伺えるし、このしょうもない文章をノートに書いちゃうあたりが安っぽい啓発本の教えを実践している感があり、マルチ要素としては満点では無いだろうか。
また、女性が勧誘のために柴田に接近しているとすると、この不可解な同棲状況に説明がつく。

女性がマルチ団体の人間ならば、興醒めだ。
猛者シャンクスを倒した相手が、小金が欲しくて接近してきたしょうもない女性というのは物語としてあまりにむなしい。
猛者シャンクスを倒した女性は圧倒的な猛者だったのではないかという仮説は外れてしまったと感じた。

よく考えると、女性経験が皆無の柴田は絶好のカモだったに違いない。
現に初めて女性と会ったその日に彼は家を差し出してしまった。
たとえ女性がマルチ商法とは関係がなかったとしても、冷静な行動とは言えない。
強すぎる覇気に身を守られていると、いざ覇気を突破してくる敵が現れたときに対処できないのかもしれない。

柴田は女性に利用されているのではないかと心配になった。
そしてもし利用されていたとしても、そのことに柴田は気付いていない。
いつの世も恋は盲目なのである。

俺は女性がどのような人か確かめるために、柴田に一度3人で会いたいと提案した。
柴田は快諾してくれて、2日後に柴田の家で3人で会うことになった。

たこ焼きパーティ


2日後、俺は柴田の部屋で女性の帰りを待っていた。

3人でたこ焼きをする予定になっていたので、たこ焼き器等必要なものを準備していた。

準備していると、たこ焼きなのにタコが無いことに気づく。
柴田は業務スーパーの激安ソーセージを冷蔵庫から取り出し、包丁で一口サイズに切っている。
どうやら激安ソーセージがタコの代わりのようだ。

柴田と女性は頻繁にたこ焼きをしているらしいが、安上がりに済ませるためにタコを使わずにソーセージを使うというのは彼らの間では当然の認識みたいだ。

一つもタコが入ってないなら「たこ焼き」じゃなくて「ソーセージ焼き」じゃねえか、などとしょうもないことを頭の中で考えているうちにその時が来た。


ピンポーーーーン


インターホンの音が部屋にこだまする。
柴田が鍵を開けに行く。

ガチャッ

ドアが開く。

「ただいまーー!!」


女性が帰ってきた。
元気よく発せられた「ただいま」という言葉でこの家が女性の物でもあるということを思い出した

女性の姿を見るのは写真等含めてこれが初めてだったが、パッと見た印象は「とてつもない不安」を感じさせる雰囲気だった。
彼女もまた超一流の覇気使いに見えたし、悪魔の実を食べたと言われても驚かなかった。

俺の不安とは裏腹に、女性は実ににこやかに俺に挨拶してくれた。


女性「はじめまして!!アルケミストのさくらです!!!よろしくお願いします!」


俺 「(ん?……アルケミスト ??何それ?……まあいいや……..)はじめまして!まさしの友人のひなたです!!よろしくです!」


女性「はい!今億万長者目指して勉強させてもらってます!まさしがいつもお世話になってます!」


俺 「(こいつはいきなり何を言ってるんだ……??)いえいえ、、!」

さくら(仮名)
まさし(柴田の下の名前・仮名)

前述の通り、「仲間を作り、3ヶ月後に月100万、5年後億万長者に」という一文を発見した時、柴田が同棲している女性はマルチの人と推測した。

だから、俺は自分も勧誘されるかもしれないと予想していたし、勧誘されなかったら俺の方から質問を投げかけて正体を暴いてやろうと思っていた。

しかし、女性の自己紹介は俺の予想を遥かに超えてくる代物だった。

女性は挨拶して一言目に「アルケミストのさくらです」などという訳のわからない自己紹介をし、二言目には「億万長者を目指している」と聞いてもいない人生の目標を伝えてきた。

通常、自己紹介では自分の職業を言ったり、大学や会社など所属している団体を言ったりする。
職業だとすると「アルケミストのさくら」は「錬金術師のさくら」だ。
所属している団体だとすると、「アルケミスト」といういかにも怪しそうな団体に所属しているということになる

億万長者になりたいという彼女の目標に近いのは「錬金術師」の方だと思うが、前述したノートの一文から推測するとおそらく正しいのは後者の団体の方だろう。
もし女性が勧誘目的のマルチの人だとしたら、初手でいきなり怪しまれるようなことを言うのは上手いとは言えない。

挨拶を終え、女性は席についた。

とりあえず場を和ませようと思い、俺はにこやかに微笑みながらこう発言した。

俺「いやぁ、それにしても驚きましたよ。この柴田が同棲なんて、、!笑」

すると女性の顔つきが一変した。
鬼のような形相で烈火の如く柴田を睨みつけ、怒鳴り上げた

女性「まさし!!同棲じゃないって言ったよな!!!何回も言ったよな!!?」

柴田「おう、すまんすまん、、、」

女性「同棲じゃなく、シェアハウスって形でやらせてもらってます。肉体関係は一切無しという約束です!恋人にも絶対なりません!!

女性は俺にそう説明すると、鬼モードを解除した。
柴田はどこか悲しげな表情をしていた。
俺はしばらくタコの入っていないたこ焼きを黙って転がしていた。

この一連の流れで、女性と柴田の間の力関係が明らかになった

もう一度おさらいしておくと、女性は柴田の家に住み着いている立場だ。
女性は「シェアハウスという形でやらせてもらってます」と言っていたが、柴田によると彼女は家賃を払っていない。

ちなみに柴田は彼女のために洗濯料理掃除などをしていた。
無償の上ルームサービスもついているという、とんでもない高待遇だ。
にもかかわらず彼女は「恋人には絶対なりません!」と超上から目線のコメントをしている。
俺は訳がわからなかったので、何?2人でそういうSMプレイみたいなのやってるの?、などと思っていた。

非モテ界シャンクスともあろう漢がこの有様だ。
ONE PIECE作中でシャンクスがこのように扱われたらファンから暴動が起きるに違いない。

まだ女性と出会って3分に満たなかったが、俺はどんどん楽しくなってきたどんどん心配になってきた。


女性のことを知るために、無難な質問を投げかけてみた。

俺「さくらさんは何のお仕事してるんですか?」

女性「収入源は風俗です!!働きすぎて、最近〇〇が痛くて、検査しようと思ってます!!

俺「あ、、そうなんですね、、、!汗」

女性が柴田の目の前で体の関係はNGと宣言した直後だったので笑いそうになってしまった。(ちなみに柴田と女性は同じベッドで寝ている)

会って数分の人間にここまで堂々と大っぴらになんでも話す姿には驚いたし、圧倒された。

女性は間髪入れず、ものすごい勢いでこう言ってきた。

女性「それとは別で、アルケミストで仲間増やして成長しています!

血湧き肉躍る勧誘

さぁ、ここでやっと本題の「アルケミスト」というマルチ団体の話に入る。
みなさまお待たせいたしました。
面白い内容になっていると思いますのでぜひこのままお付き合いください。

俺「アルケミストって何ですか??」

女性「友達を作って高め合う場所です!!仲間を作るだけで将来は億万長者になれます!!

俺「友達を作ると億万長者になれる??」

女性「はい!入会金が60万円で、友達1人紹介したら7万円もらえます!!ゴールド、シルバーとランクがあってランクが上がると不労所得も増えていきます!何もしないでも億万長者になれます!!」

俺「いわゆるマルチ商法??」

俺はいよいよ勧誘が始まるかな、と予想した。

女性「MLMです!詐欺って言われること多いんですけど、MLMは友達と仲良くするだけでお金もらえて、自分が幸せになれる仕事だから全然詐欺じゃないです!!株のスクールなので、投資についても教えてもらえます!!」

MLM=マルチ商法である。ただの言い換え。

俺「はぁ、、(ツッコミどころ盛り沢山だけどとりあえず話聞こう)」

女性「ねずみ講は犯罪だけど、ねずみ講とは違ってマルチ、、、マルチなんとかってやつだから大丈夫です!!ねずみ講との違いは自分がやりたくてやってるかどうかです!!!

これは明確に違う。
合法のマルチと違法のねずみ講は法的に区別されている。
具体的には取引に実体のある商品が介在しているかどうかなどが大きな違いになってきて、女性の所属している「アルケミスト」は「株のスクール」というのが商品となっている。
(株のスクールに60万円で入って、そのスクールを紹介したらお金がもらえるという仕組み。)
また、合法とはいえ特定商取引法で厳しく制限されている。
俺は法律に関して全くの素人なので興味のある方は自分で調べることをおすすめする。

せめて最低限の知識は入れとけよ、マルチなんとかってなんだよ、と思いつつ怒涛の演説を引き続き聞く。

女性「ほんまにすごい人がいっぱいいて、億万長者になるには最高の環境です。今、日本はたくさんの人が失業していってる。このままいくと日本は潰れる。

俺「はぁ、、(よくあるタイプね、、しょうもないなあ、、そろそろ勧誘されるかな??)」

「このままいくと日本は潰れる」というのはきな臭い人の常套句

俺調べ


女性「だから、日本の代わりに、アルティメット王国を作ります!!!


俺は自分が食べていたたこ焼きのタコ、いやソーセージを喉につまらせそうになった。

女性「アルティメット王国を作るために、友達が必要です!!


なんと女性は新王国建国のために勧誘をしていたのだ!!!
紹介料とか、そんなスケールじゃなかった。

俺は女性の新王国建国の夢を聞き、ちょうどその時に読んでいた漫画キングダムの始皇帝の姿が頭に浮かんだ。

キングダム 3巻より引用


キングダムは、長き戦国時代だった古代中国で、史上初めて中華統一を成し遂げた始皇帝とその仲間たちの物語である。
(始皇帝という名前は中華統一を成し遂げてから付けられたものだから、この使い方は不適切だが気にしないで欲しい。また、俺が本文中で使っている始皇帝はあくまで漫画キングダムに基づくものである。 )

作中で始皇帝は「中華を統一する最初の王になる」という夢を語るが、多くの人はそんなものは夢物語だと馬鹿にする。
広大な中華を一つの国としてまとめあげるというのは、それほどまでに馬鹿げた、無謀な夢だったのだ。

女性は日本国の代わりになる存在として、アルティメット王国を作ろうとしている。
それも友達を作って国民を集めるところからのスタートだ。

始皇帝風に女性の発言を改変するなら

「私は、日本に代わる新しい王国の、最初の王女になる」

俺には夢物語に聞こえてしまうが、当時の始皇帝もこんな感じだったのかもしれない。
女性はここまで何か話す度に俺の想定を超えてきた。

よくあるタイプ(俺の想定)
このままじゃ日本はやばい

失業怖い!副業とか始めなくては!

株・仮想通貨・投資・マルチetc

女性
このままじゃ日本はやばい

新しい国を作らなくては!

アルティメット王国作るぞぉ!!!

始皇帝
このままじゃ中華はやばい

新しい中華を作らなくては!

中華統一するぞぉ!!!


女性は現代版始皇帝と言っても良いほどにスケールの大きい壮大な夢を持っていることがわかった。

「アルティメット王国を作るために、友達が必要です!!」

この女性の言葉を、俺は生涯忘れることはないだろう。
まさに血湧き肉躍る勧誘である。

「日本の代わりになる存在」という言葉がどのようなニュアンスを含んでいるのか俺には分からないが、もしも国家転覆を意味するならば女性は内乱罪に該当するのではないか??

軽く調べたところ、内乱幇助罪というのがあるみたいだ。
武器や資金、食料、土地などを供給し内乱や内乱の予備・陰謀を幇助した人物は「7年以下の禁錮」

柴田よ、面会には行ってやるからな、、、

俺はもうお腹いっぱいだったが、女性は続ける。

女性「AIの影響で建設業とかも無くなるから、建設費が安くなる。だから国が作りやすくなる。国をどこに作るかはまだ未定だがアルケミストの幹部の人たちも国を作るために動き出している。」

キングダム 5巻より引用


まだ国を作る場所も決まっていないなどの内容はさておき、女性は王国への確固たる道筋を持っている。

アルティメット王国について語る時の女性の目は「本気で夢を描いて恋焦がれていた」

そしておそらく残念なことにアルケミスト幹部の人たちは「口だけ」の人であろう。

ややこしい人のために整理
アルケミスト = マルチ団体の名前
アルティメット = 女性が作ろうとしている王国の名前

さらに女性は続ける。

女性「5年後にアルティメット王国完成を目指しているそのために友達を集めて、億万長者になる必要がある。だからアルケミストをやっている。


ノートに書かれていた目標、「仲間を作り、3ヶ月後に月100万、5年後億万長者に」アルティメット王国建国を意識して書かれたものだったのだ。
女性は見事に伏線を回収してくれた。
5年後という数字には意味があったのだ。

ちなみに始皇帝のプランはこちらだ。

キングダム 41巻より引用

世界史のスーパースターである始皇帝のプランよりもはるかに早い年月で女性は王国を作ろうとしている。
敵対する国を滅ぼさなくてはいけない始皇帝と女性とで状況は違うが、5年という歳月で新しい国を1から作り上げたなら、女性は間違いなく歴史に名を刻む人物になるだろう。

非モテ界シャンクスは、現代版始皇帝に敗れたのだ
柴田の覇気を最初にくぐりぬけた女性は、1から王国を作ろうとしている強者だった。
彼女は億万長者を目指しているが、それはあくまで建国のためだ。
本気で夢を描き恋焦がれた目で王国を作りたいと言える大人は俺の中では間違いなく「猛者」だ。

猛者シャンクスを倒した女性は圧倒的な猛者だったのではないか、という仮説はやはり正しかった。

迫りくる2daysの影

ここまで女性の壮大な夢を聞き、圧倒されていた俺だったが、次の女性の言葉で現実に戻った。

女性「そうそう!2daysっていうアルケミスト主催のセミナーイベントがあって、そこに今度一緒にまさしも行くんだよね!!」

俺「え!?お前そんなイベント行くん??」

柴田「まあ良い機会かな思って、、」

俺「まじ???値段は??」

柴田「1泊2日で、2万5千円くらい。」

俺「は??泊まりなん??まじで言うてる??何が学べるねん?」

柴田「あんま知らんけど、違う世界は見れるのかなあって、さくらさんからもめっちゃ良いって聞いてるし。

なんと非モテ界シャンクスは現代版始皇帝の仲間に入れられていた!!
柴田がアルティメット王国の一味ということが発覚し、俺の中で王国建国という夢物語が身近なものとなった。

なお2daysに関する女性の説明は以下の通りだ

・一回行き、億万長者になれる環境だと確信した。
・講演する人は億万長者とか、とにかくすごい人月収1千万が当たり前。
・講演する人の真似をすればモテるようにもなる。
・自分次第で、どんな悩みでも解決できるようになる。
良い要素しかない。
みんな最初はここからスタートする。

あえて何もつっこまないので、皆さん思い思いにつっこんでください


ここで皆さんにはタコ無したこ焼きの話を思い出して欲しい。

タコの代わりに激安ソーセージを使う人間が、内容すら把握していない、訳の分からないマルチ団体主催イベントに2万5千円払おうとしているこの状況は、どう考えてもおかしい。

俺はこの異常な状況に恐怖を覚えた。
間違いなく、彼は正常な判断ができていない。

そんな状態の柴田がそのイベントへ行けば、それはマルチ団体参加の半歩手前まで来たことを意味する。
実際そのイベント中に契約書にサインする者もたくさんいるらしい。

俺は柴田にそのイベントへ行って欲しくないし、もうこの女性を柴田の部屋から追い出したいと思った。

キングダム 62巻より引用


いよいよ始まりますよ。
アルティメット王国建国の”是・非”を問う戦いが


柴田をイベントに行かせたくない、女性を追い出したいというのはあくまで俺のエゴである。

他人がマルチをやるのは勝手だが、俺は個人的にマルチをやっている人間をつまらないと思う。
単純に、仲のいい友人である柴田が俺にとってつまらない人間になるのが嫌だった。

そして女性自身、柴田とは恋人にならないと宣言しているし、この先の未来も見えない。
にもかかわらず、柴田は女性に無償で家を提供し、洗濯や掃除料理などの家事を彼女のために行い、セミナーに連れて行かれそうになっている。
柴田にとって女性の存在は不要であるように感じた。

俺は別に女性のことが嫌いでもなければ、裁きたかった訳でもない。
バズ狙いのために正義を盾にして「マルチや新興宗教を撃退する」といったコンテンツがたくさんあるが、俺はそれを美しいとは思わない。
俺がこれを書いているのは面白いからに他ならないし、他人が何をしようがその人の自由だと思っている。

何がその人にとって幸せかは分からないし、正義や善悪の形も人によって変わってくる。
だから自分から他人に干渉するときは、それが自分のエゴだと自覚するよう心がけている。

それは友人に対しても同様だ。

俺としては彼につまらない人間になって欲しくないが、もしも柴田が本気でマルチビジネスをやりたい、アルティメット王国の民になりたいというなら、それは仕方がない。
彼が女性に家に居続けて欲しいというなら、それも仕方がない。

俺は彼の気持ちを確かめるべく、コンビニへ行くふりをして、女性を家に置いたまま柴田を連れて外へ出た。

俺「お前まじで2daysとかいうのに行くつもりか??」

柴田「うん、まあ、、」

俺「何が行われるかもよく知らんイベントに数万払ってる現状って、客観的に見てかなり変やで。」

柴田「そうか、、、まぁアルケミストに入るつもりはないから、、、」

俺「イベントの誘いを断れへんやつは、団体加入の勧誘も断れへんと思うよ。ほんまに行きたいと思ってるんか?」

柴田「うーーん、、行きたい気もするけど、よく考えたら行かんでええかもな、、」

俺「じゃあ行かんでええんちゃうん?断りにくいなら一緒に断ったるよ。金のために誘われてるだけやでお前」

女性は王国設立を夢見ていたが、結局やっていることはただの勧誘である。
マルチ団体に入って行動している限り、本人の思惑とは関係なく団体の利益のために他人を勧誘しているだけだ。

柴田「そうしよかな、、、」

俺「あと、あの人のこと好きなんか?」

柴田「んー、分からん、、」

俺「これはあくまで俺の意見やけど、あの人を家においとくのはお前にとってマイナスでしかないと思うよ。はっきり言って今利用されてるだけやで。

柴田「….」

俺「もしお前があの人に出て行って欲しいと思うなら、俺はそれの手助けはできる。でもあの人のことが好きで、一緒にいて欲しいっていうなら、それはどうしようもないし、仕方がない。ただ、あの人お前と恋人にはならんって宣言しとるからな??よく考えろよ?」

柴田「好きか嫌いかで言ったら、好きにはなると思う。でも、お前がそう言うってことはそうなんやろな、、」

俺「もしあの人に出て行って欲しいなら、ちゃんとお前の口で意思表示してくれ。」

柴田「正直お前に言われるまで自分がそんなおかしな状況になってるって気付いてなかった。だから、、、出て行ってもらうわ。」

柴田は自分の口で意思表示した。
葛藤はあったのだろうけど。

俺「じゃああの人には出て行ってもらおう。で、そのイベントっていつあんの?」

柴田「来週末、、

この瞬間に、現代版始皇帝との戦いは超短期決戦になることが確定した。
来週末までに決着をつけなくてはいけない。

その日、女性から他にも様々な話を聞いた。
俺は柴田の家から歩いて帰りながら、女性の話を思い返していた。

女性は、馬鹿正直で、人を疑うということを知らない。

アルケミストは彼女に「友達になりましょう」と言いながら、60万円を支払わせている。
彼女はその「友達になりましょう」という綺麗事を信じていた。

だから、彼女は柴田を勧誘しているという自覚がなかったし、彼のことを利用しているつもりもなかった。
彼女にとってセミナーイベントに柴田を誘うのは、友達を作っているだけだった。
それは勧誘に他ならないのだけれど。

女性がなんでも信じる一例(他多数)

彼女は「動物占い」というものを信じている。
動物占いは生年月日のみで占うのだが、性格、人生、相性が全てわかるので、人のことを知るのには最適初対面の人には必ずするらしい。(ちなみに俺はゾウだった気がする。)
女性は幹部から、生まれた時の星の位置で運命が全て決まっているから動物占いは正しい、と吹き込まれていた。

人のことを「信じる」というのは、優しさだと思われているように感じる。
だが「信じる」はナイフにもなり得る。

女性は柴田の家に無償で住み着き、彼に家事などもさせていた。

それは彼がYesマンでNoと言えなかったからに他ならないが、「疑う」ことのできる人間なら、彼の言っているYesは本心なのか?と心配できる。
女性は「信じる」ことしかできないので、Yesと言ってるのだから大丈夫、と本気で判断してしまう。
その結果柴田は掃除や料理、洗濯などの家事をし、セミナーイベントに数万払うことになった。

「信じる」はナイフにもなり得るし、「疑う」は優しさにもなる。

結局のところ、女性は自分の頭で考えることを放棄していた。
「信じる」とは考えることの放棄でもあるのだ。

彼女は学歴や年収といった人間の表層的なものに弱かった。
ある人の学歴や収入が「凄い」と思ったら、その人の言うことはなんでも信じていた。
学歴や年収といった表層的なものは頭を使わなくても済むわかりやすい指標だ。
本当はそんな表層的なものではなく、発言する内容であったり、振る舞いや考え方といったもので人物像を判断するべきなのだろうけど、それは彼女には難しい。
なぜなら頭を使って考えなくてはいけないからだ。

現代版始皇帝ともあろうお方は考えるのを放棄してはならない。
もし本気で国を作るのであれば、考えることが山ほどあるはずだ。

決戦〜喫茶店の乱〜

決戦の日は、3日後になった。
女性には「話があるから来てくれ」とだけ告げた。

決戦当日。
場所は俺がよく行く喫茶店。
俺、柴田、女性以外にも、俺と柴田の共通の友人が1人駆けつけた。この友人がもしもの時に備え、会話の録音を行った。
喫茶店には俺たちの他に50代くらいの小綺麗な夫婦がいた。

今回集まった目的は、柴田のイベント参加の断りと、女性を柴田家から追い出すことである。

俺は馴れ合いにならないように、あえて厳しい顔つきを作っていた。
柴田は緊張して顔が強張っている。

顔なじみのマスターにコーヒーを注文して、出てくるまでの間、俺たちは一言も発しなかった。
マスターもただならぬ雰囲気を感じていたに違いない。
一方女性は、何も知らないし、何も疑わないので、前会った時と同じように笑顔だ。

マスターがコーヒーを運んでくる。
熱々のコーヒーを一口すすり、俺は単刀直入に切り出した。

俺「突然なんですけど、柴田は2daysに行きません。そして、貴女は今月いっぱいでまさしの家から出て行ってください。これは柴田の意思でもあります。」

さあ、開戦の合図だ!!来るなら来い!!
ここから血みどろの争いが始まることを覚悟した。

しかし、女性の反応は拍子抜けするほどあっさりしていた。

女性「わかった!!」

女性はそう笑顔で言った。
あまりにあっさりしていたので、俺は思わず笑ってしまった。

俺「え、納得したんですか??」

女性「うん!!」

早々に決着がついたと思い、驚きながらも安心したその時だった。

女性「…….ちょっと待って!

女性が待ったをかけた。

女性「今日の6時から田中さん(仮名)とまさしも含めて会うことになってる。それにひなたも来て、話を聞いてから判断して欲しい。実際にまさしは前山本さん(仮名)と会った時に感動してたよな?

俺は愕然とした。
一切知らなかったが、柴田はすでにアルケミストの幹部に会わされていたのだ。

柴田「俺的には上田さん(仮名)の方が山本さんより良かったかな

女性「ああ、上田さんか。あの2人また全然タイプちゃうもんな。でも田中さんはまじですごい人。私はほんまに尊敬してるから、是非会って欲しい。」

新しい名前が多数飛び交うが、全然覚えなくて大丈夫だ。
なぜなら俺も全く把握していない人たちだからだ。
ここまで事が進んでいたとは思ってもいなかったので、衝撃で震えた。

俺「6時からの田中さん?には全然会ってもいいんですけど、何であなたはそんなにまさしを巻き込もうとするんですか?

女性「まさしの人生をよくしてあげたいから。変えてあげたい。

俺「変える必要あります?」

女性「最近のまさしは顔色が悪いし、幸せじゃないように見える。だから変えてあげたい。人生の選択肢を増やしてあげたい。」

信じることの極地に行った人間は、顔色の良し悪しでその人が幸か不幸か判別するらしい。

俺「あなたのやってることって、結局金のために友達とは名ばかりの勧誘する相手を探してるだけ。別にそれは否定しないけど、その勧誘相手にまさしを選ぶのはやめてください。」

女性「私はそういうつもりでアルケミストをやってない!!

俺「あなたにそういうつもりがなくても、アルケミストはそういう団体。現にあなたはまさしにお金を払わせてセミナーイベントに連れて行こうとしてる。まさしが払ったお金は幹部のものになる。」

女性「イベントには連れて行こうとしてるけど、アルケミストには入れるつもりはないもん!

俺「あなたがそう思ってなくても、上の人たちはそうは思っていない。逆にあなたはアルケミストでどうやってお金を稼ぐ気?

女性は涙目になり、声がどんどん大きくなってきた。

女性「どうやって稼ぐって、、、友達を作るって言ってるやん!!」

俺「うん。だから結局人を紹介してお金をもらうってことだよね??まさしがアルケミストの人たちと関わりを持っている限り、彼らはまさしのことを勧誘相手だと思っている。だからイベントにもいって欲しくない。」

とうとう女性は泣き出してしまった。

女性「みんなマルチのことを詐欺やと思ってるやん!!!だから偏見があるんやろ!!涙」

俺「思ってない。そもそもマルチって合法でしょ?あなたは自由にやってくれていいんですよ。」

その時、後ろに座っていた小綺麗な夫婦の奥さんが席を立った。
そして俺たちのテーブルの方へ近づいてきた。

なるべく迷惑をかけないように気をつけていたつもりだったが、女性の涙声もあり、かなり大きな声で喋ってしまっていた。

もう少し静かにしてもらえますか?、と言われると思った俺は「ご迷惑をおかけしてすみません」と謝る準備をしていた。

だが、奥さんは何も言わず、俺の目の前に座っている女性の方へ行った。
すると女性の肩をポンポンと叩きながら、次のように発した。

「お嬢ちゃん、あなたの負けよ。私もあなたと同じようなことをしているからわかるけど、彼らの言ってることは正しい。あなたは弱いところを突かれている。」


俺は鳥肌が立った。
こんなドラマのような展開があるだろうか??
いやむしろ、ドラマでこんな展開があったら「うわ、臭いなあ」と思う。

たまたま居合わせた小綺麗な夫婦の奥さんがマルチビジネスをしていて、俺たちの話を聞き、ジャッジメントを下した。

偶然が偶然を呼ぶ奇跡のような展開だ。

俺はこの場面を生涯忘れることはないだろう。

第三者の、しかも同業者に負けを宣告され女性はHPが0になった。
というより彼女は、なんか凄そうな人に負けと言われたので、ただそれを信じただけに見えた。
(ジャッジを下した奥さんと旦那さんは小綺麗で金持ちに見えた。その後旦那さんの方が株の売買を女性に勧め、女性は熱心にそれを聞いていた。

そして、女性は柴田の家から出ていくことと、柴田をセミナーイベントに連れていくのをやめることを宣言した。

女性との間で、「今月末までに出ていくこと柴田はイベントに行かないということ」という2つの固い約束が交わされた。

これにて「喫茶店の乱」は幕を閉じた。

全て解決か……?

約束が交わされ、全て解決したように思えた。

だが、女性はどうしても6時から会うことになっている田中さんとのミーティングに参加して欲しいらしい。
そして驚くべきことに、柴田も6時からのミーティングには乗り気だった

柴田は自身の口で「イベントには行かないし、女性には出て行ってもらう」と宣言したものの、アルケミストへの興味を持っているように見えた。

これは危険な状態だ。
アルケミストが柴田にとって不要なものであるということを本人に直接示す必要があると俺は感じた。

俺と友人はそのミーティングに参加することにした。
ミーティングは梅田のカフェで行われるようだ。

喫茶店が我らのホームグラウンドならば、梅田のカフェは間違いなくアウェイ、敵地だろう。

我らはラスボス田中との最終決戦へ向けて、敵地に乗り込んだ。

さて、ラスボス田中との最終決戦背水の陣始皇帝最後の悪あがき、などまだまだ語るべきことはあるのだがこれ以上書くとこの記事がおそろしく長くなってしまう。

後編を設けるのでそちらで続きを楽しんでもらえたらと思う。
ここまで読んでくれた方なら後編も面白いはずだ。

お付き合いいただきありがとうございました。

後編はこちら


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