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【小説】別れがある意味

 別れよう。
 その言葉は、人を傷つけるために存在するのだろうか。

 何度読んでも見間違えではない、たった一文のメッセージ。受け取ってすぐに湧き上がった感情は、「なんで?」の一言だった。
 この言葉を打った彼の顔を思い浮かべる。口数が少なくて、何を考えているのかわからない。それでも彼の傍にいたかったのは、純粋に彼のことが好きだったからだ。
 不器用な優しさ。博識な部分は尊敬していたし、微笑んだ顔はとても心が安らいだ。
 嫌われたくなかった。だから、私はずっと自分を作っていた。彼好みの女性になれるよう、嫌がることは一切しないよう。笑ってもらえるように、わざと天然っぽく振る舞ったりして。でも、彼とのデート後はいつも疲れがどっと押し寄せてきていた。

 それが、彼に伝わったんだろうか。それとも、他に好きな人が出来たのだろうか。

 食い下がること自体、彼に嫌われるような気がして。私は『わかった』と一言だけ送った。震える指先では四文字すら打ちづらく、涙をぼろぼろこぼしながら数分かかって送信ボタンを押した。



「なんで泣いてんの」

 別れたことを、二つ年下の裕樹ひろきにLINEした直後。すぐさま電話がかかってきた。

「別れたいって、前にゆってたじゃん。疲れるからって」

 疲れるけれど、別れたいとは言ったけれど。いざ振られてみて実感してしまったのだ。本当はそうじゃなかったんだって。
 冷え切った室内。窓を叩く雨音が響く。壁掛け時計は夜の十時を過ぎていた。

「……俺、今からそっち向かうから」
「いいよ、来ないで。今日は一人でいたいから」

 何度もこすって腫れ上がったまぶた。次から次へと溢れ出す涙は、一体いつになったら枯れるのだろう。
 裕樹ひろきは大きくため息を吐いた。呆れたんだろうか。それもそうだ、彼は以前私に「好きだ」と告白してくれたのだから。
 私はずるい。別れてすぐ、自分に好意を寄せてくれる人に連絡するだなんて。浅はかな行動は相手を傷つけてしまうのに。


 電話を切ると後悔ばかりが襲ってきた。一人きりの部屋は、気持ちを闇底へと引きずりこむ。
 スマホを起動して、彼からのLINEを読み直す。
 食い下がるべきだったのだろうか。今ならまだ間に合うんだろうか。それとも……


『会いたい』


 送信ボタンを押したと同時に、玄関のチャイムが鳴った。


「泣いてるのに、放っておけるかよ」


 ドアを開けたそこに、雨に濡れた裕樹ひろきが立っていた。
 彼の手に握られたスマホからは、私からのLINE着信を知らせていた。




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