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物件が見つからなかった時の話をしようか【後編】(File12)

最初は見切れないくらい、たくさんのお部屋が検索に引っかかった。
さながら大学の新歓時期のように、物件が「ちょっとだけ見ていってよ!」と語りかけてきているようで、脳内では勝手にアピール合戦が行われていた。
ただそんな物件の新歓パラダイス期間は一瞬で終わりを迎えることとなる。



自宅で調べているとあっという間に時間が過ぎて仕方がないので、不動産屋さんの検索エンジンで見せてもらうことにしたのだが、ここでいくつかの3つの見極めポイントを知ることとなる。

1つ目が「所有権or借地権」。広かったり、良い立地だと思った物件は「借地権」にあたることが多かった。文字通り、土地の所有権が自分にあるか、借りたものになるかという話で
後者の場合、購入時や税金でメリットを受けられるケースもあるが、完全に自分の持ち物にはならない。
2つ目が「オーナーチェンジ物件」。件数は1つ目ほど多くないが、これも組めるローンや、リノベ可能な範囲、長期的な生活の視点で考えるとリスクが大きかった。

検索時の見極めポイント2つで、ある程度は制限されたが、正直、最初のうちは致命的な条件ではなかった。これらのポイント、そして3つ目のポイントがジリジリと苦しめてくるのは内見はじめて以降である。

スペックだけ見ると、魅力的な物件はあったがいざ足を運ぶと現実に直面することになる。
エントランスや廊下など共用部が汚かったり、ゴミ捨て場が荒れていたりは部屋に入る前段階の話はもちろん。
日当たりや騒音、匂いなど実際に足を運ぶと気になってしまうことは増えていった。

何も住まいだけが悪いわけではない。内見を重ねることで自然とハードルも上がっていった。
最初は60㎡くらいあれば十分かと思っていた広さだったが、70㎡の物件を見ると、途端に暮らしのイメージも変わる。
エリアを少し広げて、70㎡中盤の物件に足を運んだ後、手が自然と70㎡後半の条件を検索し始めていた時には我に返って震えた。
もうこの頃には、最初の条件からエリアと広さが揺らぎ出していたのである。

ここで軌道修正しようとしたのも、検討を長引かせた。
元に戻したエリアの条件に、ラインが上がってしまった広さ、そして費用面を掛け合わせるとみるみる物件は少なくなっていった。
もちろん0ではないが、ここに来て勢いを見せるのが川沿い、そして借地権の物件である。
「さぁ〜寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」の威勢の良い声が聞こえるように
「利便性の良い駅から徒歩5分以内!」「住まいの広さは90㎡以上!」と長期戦で疲れ始めた脳内に分かりやすくストレートな謳い文句で攻めてくるのである。
1人だったら、少し揺らいでいたかもしれないが、相方の意志は強かった。
決して揺るがず、交渉の余地もなかったので、自分自身もそこに考えを巡らせることはなかった。

当時は2社から物件の紹介や内見の話を定期的にもらっていたこともあり、情報量は多かったと思う。その甲斐あって、ついに探し始めて4ヶ月ほどのタイミングで魅力的なお部屋に出会うことになる。
同じ区内で、3LDK 75㎡、リフォーム済みで、最上階、南向き。
お部屋に入った時、思わず「ここだ!」と思った。いや「ここしかない!」とさえ思った。
室内だけ見たら申し分なかったが、ここで少し前を振り返り、一抹の不安がよぎる。
それは、エントランスですれ違った覇気のない住人と少しセンスを疑いたくなった水色のタイルにエレベーターを出て正面の大きな花瓶。言葉を選ばずに伝えるとラブホテルのような共用部だった。

察しの良い人なら、ここまでの流れでこんな前フリはいらないかもしれないが、今でもお部屋だけだったら住みたい、この物件とは3つ目の見極めポイントでお別れすることとなる。
それは「管理状況」
「マンションは管理を買え」という言葉は有名だけれども、残念ながらこの物件の管理状況は調べてもらうとかなり悪かった。
数年前に火災が起きて、その時の対応で修繕積立金は底を着いていた。
今後の定期的なメンテナンスの計画である長期修繕計画書もその実現は難しいことが分かり、この物件は諦めることになる。



全くもって後悔のない選択ではあったが、長期化してきた物件探しの中で、ようやく見えた一条の光を失ったダメージは大きかった。良い物件が見つからないことはもちろん、毎度内見に付き合ってもらっている担当者への申し訳なさはより強くなり、しんどかった。
これまで、検討もしていなかったエリアまで広げたり、一旦は探すことをストップすることも考えたりとまさに迷走期。この頃には戻りたくないと今でも思う。

内心では、今日良い物件に出会えなかったら一旦時間を空けようと思って向かった最後
の内見の日。
1部屋目は担当者から、長らく居住者の都合が合わず、見られなかった物件で
「ここでダメなら一旦、条件を見直すか時間を空けましょう。」と言われていたお部屋でもあった。
2部屋目は、少し前に予算の上限を上げた際に引っかかって、気になっていた物件を心の中で後悔を残さぬよう、成仏させるくらいのつもりでもう1部屋としてお願いしていた。

この日は正直、1部屋目から当たりで、最寄駅から物件に行くまでの間に、半ケツで徘徊するおじさんを見た以外はとても良いお部屋だった。
広さもあり、最上階、南向きで近くに公園もあってペットもOK。正直、これまで管理状況で断念した住まいの次に良いと思えるくらい良かった。
そしてこんな日に会う部屋はきっと良い部屋だろうと期待を持って向かった2部屋目。
正直、広さと明るさに入った瞬間惹かれた。景観もよく、周辺環境も良い。
費用面こそ1部屋目に軍配が上がるが、それ以外は圧勝でリノベーションでやりたいと思っていた土間や、広いLDKなど全てが叶う気がした。

自分以上に厳しく物件をチェックしていた相方も、ようやく良い物件に出会えたという反応で、まだ決まりもしていないのに、この日の帰り道が一番楽しかった。
後で知ることになるが、リフォーム時の設定価格ではすぐに買い手が見つからず、金額を落としたタイミングで検索に引っかかった物件で、長く探し続けたからこそ出会えた物件だった。
管理状況もよく、あわよくばで狙っていたペットもOK。そこからはトントン拍子で今日に至る。
先日、解体作業もはじまり、いよいよ完成に向けてのカウントダウンがスタートした訳だが。解体前の記念に、解体前のルームツアーを撮影してきた。
文字通りまだまっさらで、何もない、真っ白なキャンバスのような、白ごはんのような(書きながら、長文、長時間になりすぎてお腹が空いてきた。)
これからどのように変わっていくのか、期待に胸が踊る空間。
ぜひ今後の変化も含めて、オムライスとなるか、お寿司となるか。はたしてまたまた何が出るか。一緒に変わりゆく様を楽しんでもらえたら嬉しい。



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