【連載小説】パンと林檎とミルクティー 5
5 土曜日 午後3時
十二月の午後3時は、日が傾きかけてくる。
日が当たるからと暖房も入れずに過ごしていた真智子は、部屋全体がひんやりしてくるのを感じた。
あたたかい飲み物が欲しくなる。
真智子の定番は、ミルクティー。
冷蔵庫に牛乳があるのはわかっている。
三角のティーバッグも、昨日買ったばかり。
ポットは。
設定温度を80度にしてしまったことを、後悔した。
緑茶なら80度でもいい。
紅茶は、100度でないと茶葉がしっかり開かない。
真智子は、ポットからお湯を雪平鍋にそそいで、火にかけた。
ふつふつと沸騰してくると、部屋の空気がほんわりとあたたかくなってくる。
お湯をガラスのティーポットに入れて、三角のティーバッグをひとつ。
空いた雪平鍋で、牛乳をあたためる。
砂糖はいれない。
あとから、ハチミツを入れるから。
牛乳を見下ろしながら、沸騰する前に火を止める。
ティーポットの中身を牛乳に入れて、ティーバッグも入れる。
弱火。
弱気。
弱火。
ティーポットに、ミルクティーをあける。
毎日使っている朱色のマグカップに、たっぷり注いで、ハチミツも。
ひとくち、真智子は飲んだ。
「あま~い!」
と、スマホが真智子を呼んだ。
母親からだ。
「この年末は、帰ってこないの?」
「そうねえ。東京から行くのはリスクは高そうだしね」
「じゃあ、宅配便を送るからね」
「うん。ありがとう」
短い電話は終わった。
自分だけじゃない、母親もまた甘い環境を作り出してくれる人なんだなあ、と、真智子は思った。
冷めないうちに、甘いミルクティーを飲もう。
つづく
この小説は、作家志望の女性の日常をちょっとだけ切り取って描く連載小説です。
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