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12日目:ゆうぐれ【夕暮れ】→掌編小説

ゆうぐれ 【夕暮れ】
日が暮れる頃。日ぐれ。たそがれ。

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この街では、夕暮れどきになると古びたスピーカーから「夕焼け 小焼け」が流れてくる。
割れた耳障りなメロディは子供達の帰りの合図で、橙色に染まった住宅街を、いろんな夕飯のにおいを嗅ぎながら帰る。

コウタはいつも、合図が聞こえても帰らない。親に怒られないの?と聞いても、怒られないよ、と言うだけで、それ以上はなにも言わない。
帰り道で通るコウタの家は、いつも暗いままだ。

僕はコウタを一人で公園に残すのがなんだか嫌だ。自分だったら、日が暮れていく公園で一人ぼっちなんて、何をして過ごせばいいか分からない。
たまにぐずぐずと帰らないでいると、居場所を知ってる母さんが迎えに来る。ガキっぽいって馬鹿されるんじゃないかと思うけど、コウタはいい奴だから、また明日な!って、普通に言ってくれる。

「夕焼け 小焼け」が聞こえてきて、今日も僕はジャングルジムを飛び降りる。ザンっていう衝撃が足に響くけど、なるべく高い所から飛ぶのがカッコいい。
ザンっ。音が追いかけてきた方を見ると、コウタもジャングルジムを降りていた。
「俺も帰る」コウタはそれだけ言って、僕と一緒に歩きはじめた。
割れたメロディにあわせて歌いながら、住宅街を抜けた。コウタはいつもより早足で、ついていくのが大変だった。

コウタの家からは、明かりが漏れてカレーの匂いがした。
「また明日な!」家の門を開けたコウタの顔は、いつもよりガキっぽく見えて、僕はなぜかそれが嬉しかった。
またな!そう言って僕は、夕暮れの街を走って帰る。
あの家も、この家も、それぞれ違う、夕飯の匂いを吸いこみながら。


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