ツバメroof物語⑫/珈琲係.石井
工事を進めながら、私は調理師免許の勉強も進めていた。(愛に「取り」って言われた)学生時代は苦手だった勉強も、目的と興味があれば出来るもんだなと思ったけど、年齢的な問題で脳内にはなかなか知識が蓄積されなかくて、ややこしい横文字に苦戦した。
工事の中で何が一番大変だったかというと、綿壁を剥がす作業だったに違いない。キラキラのラメが入ったあおさのりみたいな綿壁を、霧吹きで湿らせてから、ヘラや下敷きでこそげ落として行くという、途方もない作業。地味な上、埃まで舞う。
三和土作業もした。にがり、石灰、そこにある土を混ぜてひたすらたたく。まさに三和土と書いて「たたき」。その頃テレビ番組で「鉄腕DASH」のTOKIOも同じ事をやっていて、誰が長瀬くん役で誰がリーダー役かと、盛り上がりながら作業をした。もちろん翌日は筋肉痛でフライパンも持てない。
ペンキ塗りはめちゃくちゃ楽しかった。筆で色を拡げる作業はワクワクしたし、ペンキが余るとどこか塗りたくて仕方がなかった。
銅板をコツコツ叩く作業も楽しかった。
まっさらでピカピカの柔らかい銅板を叩くと、強度が増して、自然と個性が出て面白いデザインになった。
庭木も自分達で選んで植えた。祖母のセンスで植えていたさるすべりは、枯れかけていたので、抜こうと根っこを掘り出して、それがめちゃくちゃしぶとくて、途中で諦めたので、今も細い枝が毎年土から出て花を咲かせている。植物の生命力には感心させられては、毎年切られてる。(ごめんね)
あぁ、そういえば!駐車スペースも同級生の左官屋さんと作った!屋根瓦を割って、モルタルで埋め込んだけど、どんどんモルタルが乾いてくるもんだから焦って最後は無言で一心不乱に作業して、楽しかったなぁ。
そして、保健所の営業許可やら、一通り手続きは済んで、オープンには一歩ずつ近づいてる気はするけど、なかなか実感もなくて、いつまでもこの工事が続くような、オープンしたいような、したくないような気持ちになってきていた。
そんなある土砂降りの日、帰り支度をしていると、傘をさした子連れの女性が近づいてきた。
つづく