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【ツバメroof物語⑪】/石井

イベント出店したことで、課題がいくつか見つかった。
初歩的な事なんだけど、お店にとって大事なチラシがなかった。

そして、その子さんは接客に慣れていないせいか、途中からぐったりしてしまった。
さらにアイは、接客に飽きてしまい、違う意味でぐったりして、座って珈琲を飲んでいる。

お店を始めるのに、大丈夫かこの状況。

とはいえ私も接客は、久しくしていなくて、決して得意とは言えない。
ただ、介護職経験と幼稚園勤務経験があるので、老若男女誰とでも会話はできる。
まさかこの職歴が活きるとは全然思ってなくて、人生って分からんもんだな、と思う。

無駄な事だらけと思ってた事は、実は無駄ではなかったんかもしれない。点と点がなんとなく線になった感覚だった。

お店を始めるぼんやりとした不安が少しずつ、形を捉えきちんとした不安になってきた頃、アイとその子さんが、俄然やる気を出したものがある。

それはツバメroofのチラシ作りだ。
二人のデザインを考える話し合いは、忖度なしのやり取りで、それは見ていて小気味よい。
「それいいね」「それいや」「ここはこう」といった具合で、嘘がないし、遠慮もない。お互いイヤなものは容赦なくぶった切る。福祉関係の職場にいた私にとってそれは心地よい新鮮さがあった。

 福祉は正解が見えにくいので、曖昧さがどうしても生じるし、職員同士も相手の気持ちを配慮する人が多いので、私自身オブラートに包む表現が多かったと思う。

 時々二人のやり取りでヒヤリとする時もあったが、二人ともそれを楽しんでると気がついた。私が勝手に今までのクセでヒヤリとしていただけだった。

 そして出来上がったチラシは、折り方がユニークで、「小さなお店のショップカード」というデザイン書籍に掲載されたほどだ。そこにはデザイン、企画にアイとその子さんの名前が載り、その下には、手折り加工者として夕子の名前が載った。

私の名前なんて普通は載らない存在なんだけど、「これで掲載されたら面白いやん」と盛り上がって、出版社に提出したら本当にそのまま載ったのだった。
 
 不安な気持ちが、これからこの3人で始めるなら、このままで良いんかって、自分の中にある硬さみたいなものが砕けて、楽しみに変わってきたのもこの頃だ。
 

チラシが出来ても、まだまだ店はオープンしません。



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