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野鳥写真集「小鳥のくる水場~ぞうき林の小さなオアシス~」第1回 #全文公開チャレンジ

「小鳥のくる水場~ぞうき林の小さなオアシス~」は、1984年に平凡社で「ジュニア写真動物記」のシリーズの一冊として刊行された本です。
今見てもとてもワクワクしますし、鳥たちのイキイキとした表情をとらえた貴重な写真ばかりです。
現在は絶版となり市場には出回っていないので、この度Web用に再編集して全文公開することに致しました。

 土曜日と水曜日の週2回更新、全5回に分けて、無料で公開します。「ジュニア~」の名がつく通り、難しい漢字は使っていないので、お子さんにも読んでもらえると嬉しいです。それでは以下よりお楽しみください。

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「小鳥のくる水場 ぞうき林の小さなオアシス」

1984年発行
著・平野伸明

初夏・緑のオアシス

 林の中の水場に、小鳥が1羽来ています。
「バシャッ、バシャバシャ!」ヒヨドリの水あびです。
水しぶきをあげて、気もちよさそう。ヒヨドリだけではありません。鳥たちはみんな、水あびがだいすきです。

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▲新緑につつまれた水場で、水浴びをするヒヨドリ
ピィーピィーと、やかましく鳴きながら、水場におりてきました。

 ぼくがすんでいる、埼玉県上福岡市のちかくには、いくつかのぞうき林があります。どれも、まわりを家や工場がとりかこむ、小さな林ですが、こんなところにも、いろいろな鳥たちがくらしています。ぼくは、鳥を見るために、よく林にやってきます。

ただ、このあたりは、むかしから水の少ないところでした。人も鳥も、いつも水不足になやまされています。鳥たちは、雨ふりあとのどろ水で、水あびをしていることもあります。鳥たちを水不足からすくう、よい方法はないものでしょうか。

ぼくは、林のなかのさんぽ道のかたすみに、水場を作ることを思いつきました。といっても、自然にできた水たまりに、水をたしてやるといった、かんたんなものです。それでも、2週間ほどすると、水場のまわりには、白いふんや羽毛が目だちはじめました。いったい、どんな鳥たちが、水場に来ているのでしょうか。もう、むねがドキドキ……。

 ぞうき林が新緑の季節をむかえたころ、ぼくは、水場の観察をはじめました。

水場をつくって1か月。いまでは、たくさんの鳥がやってきます。スズメもキジバトも、この水場のおなじみさんです。

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▲元気よく水しぶきをあげるスズメ
はじめは、水場をながめるだけでしたが、いちどやってくると、ちかくのなかまもさそって、つぎからつぎへと来るようになりました。

 鳥たちにとって、水場はどんな役目をもっているのでしょうか。まず水あび。これは、からだやつばさをせいけつにしておくために、なくてはならないものです。また、水をのむ場所としても、とてもたいせつです。

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▲キジバトの水浴び
なかなか豪快ですが、いがいと、けいかい心は強いようです。まず、水場からはなれたところにおりて、そろそろと用心ぶかく、やってきました。

 キジバトは、水あびをするまえに、かならず水をのみます。くちばしを水につけて、ごくごくと、満足そうにのみます。キジバトのような大きな鳥が、水場にいると、小鳥たちは、えんりょしがちです。でも、小鳥どうしだと、なかよく水場につどうすがたが見られます。

 ときどき、アカマツの木でたまごをあたためている、オナガの夫婦が、強引にわりこんできます。オナガも、だいの水あびずき!「キュイー、キッキッ」と鳴きながら、水場をせんりょうしてしまいます。

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▲水場をせんりょうしたオナガの夫婦
尾の長い、とても美しいこの鳥も、水あびがだいすきです。

 からだが大きく、気の強いオナガにあっては、ほかの小鳥たちもたまりません。オナガの夫婦が水あびをおえるまでは、ちかくの枝でおあずけです。「オナガのやつ、ずいぶんひどいな」と思ったぼくですが、そのうち、あることに気づきました。水場に来るメスに、いつも、オスが注意ぶかくつれそっているのです。おもいがけない夫婦のなかのよさに、ぼくは、すっかり、オナガを見直してしまいました。

(次回へつづきます)

・・・

一見、人にとってはなんでもないような水たまりでも、観察していくと小鳥たちの大事な場所だということがわかりました。次回では、ニューフェイスが登場し、ますます水場がにぎわいます。

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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)

映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。

主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
これまでつばめプロが携わった作品についてはこちらをどうぞ。

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