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【読書感想】幸せへのセンサー(吉本ばなな)

非常に著名な作家である吉本ばななさん。自分はここ最近まで一回も彼女の作品を読んだことがなかったが、今年とある彼女の書籍のタイトルに惹かれその本を読んで以来、立て続けに彼女の著作を読んでいる。

今まで読んだ書籍はまだ少数だが、作品の中でとにかく人が死ぬ。そんなに死ぬのかってくらいどの作品でも死ぬ笑。でも、彼女の言葉選びが鮮やかなので、すっと染み渡るような読了感を毎回感じられる。

本書籍は、彼女の人生経験の中で得られた、幸せに近づく方法、ないし考え方が記されている。
さすが、激動の人生で酸いも甘いも経験している方の考え方だなと感じる。出版業界に勢いがあった時代に人気に火が付き、バブルの時代を経て業界の衰退も経験し、なおかつ著名な親族も持つ彼女は人並み以上の激動の人生であったことが想像に難くない。

本書の中で個人的に印象に残った箇所を抜粋・要約してみる。

  • 人生の流れは、向こうから来るのと自分から行くのが50%くらいずつがちょうど良い。

  • 悲しい時だからこそ見える美しいものや、辛いときだからこそ分かる優しい物があることを知ると、自身の身に起こることを大雑把に「悲しかった」「つらかった」だけでまとめなくなる。

  • 失うことはとても悲しい、でもそれを受け入れたときに、人は他社に優しくなれる。それはつくった優しさではなくて、「大変だよね」「そういうときってあるよね」と、他社のことを心から思う気持ちを持てる。人との関係性は、小手先の駆け引きではなく、そういうきつい経験の引き出しをいくつ持っているか、それをどう表現するかで自然とできていくもの

  • 今の若い人は良くも悪くもゲーム世代。なにをやるにしても、根っこにあるのはゲーム感覚で、頭の回転やシミュレーション速度は早いが、「こうしたら、こうなる」と決められた範囲で小さく小さく回しているように見える。自己完結して予想を超えることがないから、なかなか幸せになることが難しい。

  • まずは街に出て、人と出会って、小さな化学反応を起こすことから始めたら良い。

  • その人が良い状態であれば、周りの人も幸せになる。懸命に生きることだけが人にできること。周りを幸せにしようとして頑張りすぎたり、無理をすると自分が不幸になる

  • どんなにがんばっても自分では決められないのが人の縁。他人は変わらないから自分が変わるしかないのが人間関係の鉄則。その人と距離をとったり、異動を申し出たり、職場を辞めるとか、自分が変わることで嫌だと思う環境を変えられる可能性は高くなる。

  • 自分を豊かにする一つのやり方は、とにかく人に言わないこと。写真をとったからってインスタにいちいちアップしたり、友達に見せたりしない。するときがあってもいいけど「しない時がある」ということが大事。誰と何をしたかをいちいち人に言わない。そういう「自分が自分にしかわからない喜びを自分に与えた」という時間を積み重ねると自ずと人間関係も変わってくる。

  • 気分が良い瞬間を積み重ねていく。社会ですり込まれた幸せの価値観をいきなり外すことは難しいかもしれない。でもなるべく気分の良い時間を増やすことはだれにとっても不可能ではない。「自分は今、こっちだな」とためらいなくからだごと動けるようにする。自分の感覚で自然に動けるようになれば、そのこと自体がもう幸せ。

  • 日々の微調整が流れを変えていく。たとえば、ランチを食べるとお金がかかるけど、自分だけ外に食べに行かないは気が引ける。とか、それならお弁当をもっていくとか、朝たくさんたべてくるとか、微調整の方法はたくさんある。それくらいは自分の人生なんだから行って良い。

  • いきなり大きく変えようとしなくても、ちょっとづつ安定することができれば、それが個人の幸せ、生活の幸せにつながっていき、やがて大きな幸せにつながっていく。

  • 幸せも、舞い上がっている状態を幸せだと思っているかもしれないけど、それって表彰台にあがっている瞬間みたいなもので、一瞬のもの。ある種の感情のピークに達したときだけだけが幸せではない。社会や情報が「これが幸せ」と煽ってくるものを自分の中で精査する

  • 自分を変化させて幸せを求めることは、決して幸せへの道ではない。幸せというのは、今ここの地点に自分がいながらにして、生きる角度を変えること。

一般的に広く販売されている「幸せ」に関する書籍は、近視眼的なノウハウやライフハック、お金を稼いだりミニマルライフだったり、「そのままでいいんだよ」的な極端なアプローチなものが多いように思うが、この本は、それらのいずれのものとも考え方が異なっているように思う。

普段の幸せを、社会ではなく自分の観点で精査し、それを積み重ねていくことで幸せな人生が築きあげられていく。自分は自分でありながらも、「生きる角度」を少しずつ微調整しながら、ドラスティックでない変化を積み重ねていくことが大事。そして、短期間的に見ると「悲しい」「苦しい」ようなマイナスに見えるできごとも、長期的にみれば他社との豊かな関係性を構築するための礎になっているというメッセージが心に響く。

最近、どうしたら、なにをしたら人生を好転させられるか、何か大きな変化を起こさないといけないのではないかという思考に囚われていたが、本書を読んで少し気が楽になった気がする。自分は自分のまま、微調整を積み重ねていけば良いという気持ちになった。その日その日を少しでも「良い日だったな」と感じられるように積み重ねていくことで、きっと後から見たら幸せな人生になっているのかもしれない。

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