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「ぼくは王様か、それが問題だ」 〜これからの公共を考える〜

ごきげんよう、海石榴(つばき)です。
今日は、寺村照雄さんの『ぼくは王さま』シリーズとシェイクスピアから、「公共とプライバシー」と「これからの競争ルール」を語ります。

とても"庶民"的な日本の"王さま"たち

---「王さまシリーズ」の代表作、『おしゃべりなたまごやき』は国語の教科書で読みました!主人公の王さまは、どことなく憎めないキャラクターでおもしろいですよね(笑)
創業経営者や独立士業を「一国一城の主人(あるじ)」と表現したりしますけれど、寺村輝夫さんが描く「王さま」は、古き良き日本の伝統的大企業の偉い方々のキャラクターに近いと思いませんか。「あ、うん」の呼吸の予定調和、大真面目な家臣を誤魔化す子どもっぽさ、コックとの共犯関係のもとに成り立つ統治の仕組み。子どもの読み聞かせでもう一度読んでみて、日本独特の統治文化を的確に表現していることに驚きました。

---たしかに、シェイクスピア劇に出てくる「王様」たちが、しょっちゅう激情して武器を振り回してばかりしているのと対照的ですね(笑)
劇中のヘンリー5世は、「庶民(private man)には許されている私的な心の安らぎが、(配下領民の暮らしに責任を持つ)王(king)には許されていない」と、その苦悩を吐露しています(*1)。日本の「王さま」たちが呑気に描かれがちなのは、日本の歴史が「統治体制の革新的変化の連続」であったことの賜物でしょう。

---え、もしかして、これからは日本の「王さま」たちにも戦争をしろとけしかけてるんですか?
いえ、勿論違いますよ(笑)
「もっとも成功した社会主義国」とも言われる日本の良いところは、社会階層の固定化を招かないように設計されてきたところです。

ただ、良くも悪くも「みな平等」の同調圧力と、マスコミが喧伝する「欧米のエリート言説」との間で、個人も組織も柔軟な意思決定ができなくなっている印象があります(*2)。

「弱肉強食」「低価格路線」ありきの競争戦略は時代遅れではありますが、民主主義と自由経済を重んじる国として、新しい競争のルールを作っていかなければなりません。

ルール1:公共とは、プライバシーの制限

まず、「公人」は「私人よりもプライバシーが制限される存在であること」(*3)をルール化しませんか。日本の領土領海を守る防衛担当者、離島などの僻地医療や救急診療に従事する医療関係者、昼夜を分かたず福祉支援業務に携わる皆さま、国家・地方公務員管理職の皆さま、エネルギーや地方の公共交通機関の現場を支える方々は、これまでも家族ぐるみの「滅私奉公」をしています。

今こそ、その職責に相応しい待遇を

ルール2:都会は、規制撤廃を

---そんな「無私の心」は持てません・・・。いっぱい働いて、お金持ちになりたいです!
そんな声を待っていました!
前回は、男性正規社員の長時間労働問題を取り上げましたが、「新入社員のうちから”ライフ・ワークバランス”などと言われても・・・」という財界の声も一理あると考えています。

人生は一度きり。
日本の”みやこ”東京で、働くことに思い切り没頭するのもいいですよね。少なくとも都心部では既存規制を無くし(*4)、スタートアップやベンチャーの実験場として解放するのはいかがでしょうか。さまざまなバックグラウンドを持つ方が集うグローバル都市として、「英語の公用語化」を提案する政治家がいてもいいでしょう。

もちろんこちらも、リスクと「滅私奉公」に見合ったインセンティブを期待できる制度設計を

ルール3:「お山の大将」は、弱きを護って

---たしかにストックオプションでお金持ちになれたら嬉しいですけど・・・。そこまで冒険できない人はどうすればいいですか?
子どもなど人生で守りたい物ができたら、「都心部の外」で「お山の大将」になりましょう!


わたしが子育てを通してしみじみと実感したことは、
「我が子に関わる手が増えていくほど、子育ては苦行から人生の娯しみに変わる」ということです。

必ずしも経済的なものに限らない「子どもの貧困」が叫ばれる令和のいま、ご近所のお子さんにもさりげない心遣いと声掛けができるゆとりを持つには、やはり「半径5km内に家庭と職場と地域とのつながりがある」住環境が望ましい。”少子化”対策として地域をあげて「苦行を娯楽にするきっかけ作り」に取り組みませんか。

また、ライフ・ワークバランスを考えるべきなのは、個人だけではありません。
観光業や”インサイド・セールス”など既存規制が前提となる業界だけでなく、都心部で起業した会社が軌道に乗り、採用した従業員との熱量の差が気になってきたら、本社住所の移転を真剣に考える時期です(*5)。人にも会社にも適齢期というものがあり、老いて動きが鈍くなった会社が社会の新陳代謝を妨げることがあってはならないからです。

このとき忘れてはいけないことは、日本全体で見たときの「同一賃金・同一労働の原則」です。都市部と地方の賃金水準の差の理由を、”人材の質”に求めるのはおかしい。

日本全体で、都市部の地代分を庶民の”娯しみ”や”無駄遣い”に回せる構造設計を。

ルール4:課題解決には、自助・共助・公助の順で

---なるほど。子育て支援が充実しているおすすめの自治体はありますか?
地方財源の「金銭的インセンティブ」に頼った子育て支援策には、わたしは疑問を感じています。周囲の自治体から若い世代だけを引っ張ってきたところで、長期的に見れば負の影響の方が大きいのではないかと考えるからです。

住民への直接的な「金銭的インセンティブ」よりも、血に足付けて取り組めることがあります。例えば、子育て世代の「子どもに習い事をもっとさせたいけれど、その余裕がない」という課題があったとしましょう。この課題を解決するためには、

(自助)より給与が高く、リモートワークができる環境を求めて転職する
(共助)習い事業界やハウスメーカー業界が三世代同居を取り持つ
(公助)用途制限のあるバウチャーや各種補助金を給付する

がありますね。
とても大変なことではありますが、これからは社会全体で「自助→共助→公助の順番」で問題解決を図ることを目指さなければなりません。プライバシーに配慮しながら、民間でできる共助領域を増やしていく試みに取り組んでいる自治体がオススメです。よくよく考えてみたら、「子どもの習い事よりも、他に大事なことがあった」なんてことに気づくかもしれません。

ルール5:業界団体は、”支援する"ことで”支援される"

---「貰えるものは貰ったもん勝ち」と思ってました・・・。
少子高齢化の日本において、誰もかれもが公的支援を求めていては、社会全体が立ち行かなくなってしまいます。業界団体も、国や地方の政治家も、目先の利益や票を求めて活動をする時代ではありません(*6)し、わたしたち庶民も社会的な評価の物差しを変えていく時代でしょう。「自己の繁栄をもたらす要因を増やすこと」に、人やお金や時間を投資するはいかがでしょうか。

---たとえば?
「世間の皆さんにもっと音楽に親しんで欲しい」と考える音楽・イベント業界団体があったとしましょう。これまでの業界団体さんなら、「省庁や自治体に補助金を出してもらう」よう霞ヶ関や永田町の皆さんに陳情していたはずです。ただ、うまく補助金ありきのイベントが開催されたとして、世間の皆さんは心から楽しんで参加できるでしょうか。税金の無駄遣いに加担している気がして、わたしはちょっと参加を躊躇ってしまいます(*7)。

先日、90年代の金字塔バンドの一つ、スピッツさんが平日のコンサート開催を宣言しました。「せっかくだから仕事帰りに誰かを誘おうかな」。ファンの皆さんならそう考えると思うんですよね。そんな時「○○で当たった(もらった)スピッツのコンサートチケットが1枚あるんだけど、いっしょに行かない?」と言えたらどうでしょう(笑、*8)?

---スマートな誘い方ですね!誘う方も誘われる方もさりげなくて気楽です。
以前、教育・起業・(生活保護制度の以上の水準を目指す)社会福祉は、公的資金ではなく民間資金で運営することをご提案しました。(「民間資金の提供元」は、インフラや不動産事業者などの民間企業、大学などの教育機関や寺院などの宗教団体を想定しています。例えば、ローソンさんが”エンタメくじ”に取り組んでらっしゃいますね。)

「アーティスト(例・スピッツさん)や民間資金の提供元(例・ローソンさん)のファンを増やす」を、音楽業界団体の皆さんが”支援する"ことで、
周り回って業界団体の存在意義が輝く仕組みを作っていきたい
(*9)。

これからの競争原理は、
「労働者の血と汗でできた値下げ」や「補助金分捕り合戦」ではなく、
「誰かの”たのしい!”や”たすかる〜!”を競う」です。

(*1) William Shakespeare "History of Henry V" (Act 4, Scene 1)より。https://www.opensourceshakespeare.org/
タイトル画像は、"The Sword of Damocles" (Richard Westall, 1812, Ackland Museum, US)より。

(*2) 日本の「平等意識(再分配)」と欧米諸国の「グローバル規範」が最も先鋭的に対立するのが、女性の働き方をめぐる議論でしょう。「ジェンダー平等」や「(移民解禁による)ケア労働の外部化」を叫ぶ前に、労働雇用政策や社会保険のあり方、配偶者と子どもを社会と法律の中でどのように考えるかを議論すべきだと思います。これについては追って書く予定です。

(*3) 「プライバシーが制限された公人」の最たる例が、皇族の皆さまですね。医師や教師といった”聖職”の方々の働き方改革や、税制優遇のあるNPOの情報公開のあり方など、議論すべき事項はたくさんあります。

(*4) これまでも規制緩和特区を設ける試みはありましたが、従前のやり方のままですと、"規制緩和”の仕組が新たな”規制”を作ることになってしまいます。人口減少下のインフラ維持計画を視野に入れ、「既存規制の地理的効力範囲を縮小する」方向で規制緩和を試みるのはいかがでしょうか。

(*5) 地方交付金やふるさと納税も素晴らしい制度ではありますが、やはり「安定的な地方独自財源を増やすこと」が本来の地方創生のあるべき姿でしょう。地域の若者を都会へ送り出し、カネと人を投資し、故郷に錦を飾りに帰ってきてもらうエコ・システムを創り出したい。そのために、都市部と地方の賃金差を極力減らせるよう働きかけていきたいと思います。

(*6) 業界団体が、目先の利益ばかり要求したり、偏狭な前例主義で永田町のパーティ会場の面子だけで閉じてしまった結果、業界全体が迷走してしまう例は枚挙にいとまがありません。

(*7) 自民党系の政治家の働きかけで「ブライダル需要喚起事業補助金」制度が創設されたそうですが、業界団体が”一世一代のハレの日”のセレモニー機会を増やしたいのであれば、「結婚○周年披露会」や離婚を前向きに祝う「新名披露会」だっていいわけです。”少子化対策”を言い訳に効果不明瞭な政策を濫発することに、そろそろ国民は怒るタイミングではないでしょうか。

(*8) 「終業後に楽しい予定を用意する」のは、役所や人事部が「長時間労働はやめましょう」「残業は禁止!」などと言うよりも労働時間の削減に効果がありそうですよね。コロナ禍で減ったリアルのつながりを支援することは、長期的に住民税の純増にもつながるはずです。公共と民間が互いの立場を弁えながら働けるように、ご支援いただきたいと存じます。

(*9)「団体構成員の利害が一致しない」「特定の誰かをエコ贔屓できない」など業界団体ならではの難しさがあるのは重々承知しています。だからこそ、団体構成員それぞれの利害を調整する"フェア"な仕組みを、これからの日本を支えるインフラとして育てていけたらと考えています。
「支援する側に回れと言われても先立つものが・・・」と仰る皆さんには、「コロナ空床補償の不適切受給の疑いのある医療機関」の皆さまから、はじめの一歩を踏み出していただくよう働きかけていただければと存じます。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221115-OYT1T50028/

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