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Q. 社会保障制度は「伝統的な家族」を想定している?

A. している。

貧困削減率と純負担率という指標で比較すると、「伝統的な家族」像に当てはまる片稼ぎ夫婦世帯が制度上の利益をより受けていることがわかる。

なぜ考える??

大沢真知子教授は、「女性労働」で、非正規雇用者の社会保険加入への壁を例に挙げ「日本の労働市場や社会保障制度のしくみには伝統的な家族が想定されて形成されている」と書いている (大沢 2020)。ここでいう「伝統的な家族」とは、高度経済成長期を経て浸透した「男性が家庭の主な収入源と世帯主で、女性は働かない。働いたとしても家庭の収入を補助する立場にある」という家族像だ。もし教授の主張が社会保障全体を通してみて当てはまるなら、この家族観を再考する重要性が高いと言えると考えた。

以下、基本的に大沢真理教授の「税・社会保障制度におけるジェンダー・バイアス」より。

所得再分配の傾向 

貧困削減率という指標がある。これは、直接税・社会保障拠出や社会保障給付の政府による所得再分配のプロセスが貧困を削減する率だ。2000年以降発表された研究では、カップルのうち一人だけが就業する場合、貧困削減率はプラスだ。つまり、税制・社会保障制度がセーフティネットとして機能している。カップルのうち一人だけが就業している世帯では、多くの場合、男性が稼ぎ主になっていると考えられ、「伝統的な家族」に当てはまる。

一方で、共稼ぎ世帯、就業するひとり親、就業する単身者の場合、この貧困削減率はマイナスだった。つまり、これらのグループにとって、税制や社会保障制度は、貧困を削減するよりも、増加させていることになる。

これらのグループは「伝統的な家族」枠組みに当てはまらない。「共稼ぎ世帯」は夫婦ともに働いている。また、日本のひとり親世帯のうち、シングルマザー世帯は85%以上を占め、シングルマザーの就業率は80%を超えている (男女共同参画局 2019)。このことから、「就業するひとり親」の多くはシングルマザーを指すと考えられる。「就業する単身者」も、結婚をそもそもの前提としている家族像から外れている。

これらを踏まえると、確かに「伝統的な家族」に当てはまらない人・世帯は制度から不利益を被っているのがわかる。

尚、貧困削減の支援を受けるのは主として男性稼ぎ主であり、専業主婦個人ではない。

純負担率のひとり親と片稼ぎ夫婦比較

次に、純負担率という指標から、「伝統的な家族」に当てはまる片稼ぎ夫婦と当てはまらないひとり親を比較する。純負担率とは、(所得課税+社会保障拠出-社会保障現金給付)/粗収入で計算される。

この指標によると、低所得層のひとり親の純負担率は、OECD34カ国で最も高い分類にある。ひとり親の80%はこの低所得層(収入が平均賃金の67%以下)にあたるため、この負担率の高さは問題視される必要がある。

また、収入が平均年収の5割から25割のばあい、一貫して、片稼ぎ夫婦よりも、ひとり親の負担率が高い。これは、主に、片稼ぎ夫婦に配偶者控除が地方税と国税の双方で適用されるという制度があるためである。この負担率という指標でも、片稼ぎ夫婦の方が制度上支援されていることがわかる。

今後

非正規雇用の社会保険制度は社会保障制度が伝統的な家族観に基づいている一例にすぎず、伝統的な家族観は税制・社会保障制度に全体で見ても大きな影響を与えていることがわかる。今後は、制度別にどのように伝統的な家族観が表れているのか、勉強したい。

参考文献

大沢真知子. (2020). 「女性労働」. 日本労働研究雑誌. 717. 

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/04/pdf/018-021.pdf

大沢真理. (2018). 「税・社会保障制度におけるジェンダー・バイアス」. 学術の動向, 23(5), 5_22-5_26.

男女共同参画局. (2019). 「男女共同参画白書 令和元年版」. 



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