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B2Bセールスが売上を予測する:売上の構成要素を考えてみる

B2B営業の皆さん、売上フォーキャストはどれくらい自信を持って管理できておりますでしょうか。また、売上フォーキャストがなぜ必要かを即答できるでしょうか。

B2Bビジネスにおいては、営業担当者レベルでも自分のテリトリーにおけるセールスの仕上がりを見通すことがとても重要です。営業部隊は会社の利益の源泉となる売上(キャッシュ)を創出する使命がありますので、営業組織の売上予測精度はそのまま企業の未来予想図にインパクトを与えます。また、売上予測は組織が戦略実行のために適切なリソース配分を決定するエビデンスとして重要な役割を持っています。製造業であれば原料調達や製造計画、在庫管理に直接的に関与しますし、プロジェクトベースで進む案件についても社内の人的リソース配分や外部リソースの活用計画に反映されます。リソース調達という側面では、投資を受ける立場で根拠ある売上計画を立案しなければビジネスの妥当性を提示できません。

今回は、売上フォーキャスト作成の観点から売上の構成要素を考えてみたいと思います。社内外で案件を進める上でのプレゼンテーションや報告義務を全うするため、外部とのコミュニケーションで自分が得たいリアクションを得るためにこのnoteの内容をご活用いただければと思います。また、今回のnoteを通して売上予測に理解を深めて、売上創出や拡大の戦略に活かしていただければ幸いです。最後には少し売上予測の実践例を挙げていますので参考にしてみてください。

キーポイント
- 既存売上と新規売上獲得に分けて売上を予測する
- 製品やサービスが現在提供できる市場の規模や自社シェアを理解し、それらをどのように拡大できるかを考える
- 営業部隊としてやれること、営業部隊の情報(VoCやフォーキャスト)が社内に与えるインパクトを理解する


売上予測のための売上構成要素を理解する

ここでは既存客を持つB2Bビジネスを念頭において説明しますが、これから新規ユーザーを獲得するフェーズにおいても考え方は同じです。今回はKPIの設定を議題とするものではないため、売上を実現するための行動基準など別の機会に説明させていただきます。

営業組織の売上予測を考えるための売上構成要素分解


まず、営業組織の売上は「既存売上」「新規売上」から構成されます。

「既存売上」では現在保有している契約の契約額が基準となります。例えば年間契約のサブスクビジネスでは、既存売上は①価格変動②離脱率③契約拡大(縮小)の影響を受けて上下します。①の価格変動では、自社ツールの価格上昇(下降)や長期契約による値下げインパクトなどが反映されます。②の離脱率はカスタマーサクセスでよく取り上げられるものですが、契約解除がどれくらい起こるかを意味します。製品売りのビジネスの場合は離脱は納入数量の減少として表現されるので”単価×数量×価格変動率”として計算すればわかりやすいです。③については、ツールの契約人数の増加や他部署でのツール導入、他のソリューション提供開始といったアップセル、クロスセルが見込まれる場合に売上が増加します。製造業向けの製品納入の場合は、新規製品への適用が決まると納入数量が増えます。参考までに、筆者が属していた半導体製造の世界では、製造プロセスとその中で使う材料が確定した状態をProcess of Record, PORといい、ベンダーはPORポジションを取ることを目指して営業活動を行います。

一方で、「新規売上」については予測を立てるのはとても難しいです。しかし、この部分の予測は営業計画のみならず事業レベルで重要なものとなりますので、根拠ある数字を計算できるようにしなければいけません。営業担当者のみならずプロダクトマネジャーとしても重要な数字です。簡略化して考えると「新規売上」は”案件数×平均単価×成功確率”で構成されます。新規ビジネスを単一の製品・サービスで考える場合は割とシンプルなのですが、多くのビジネスでは製品やサービスも提供している市場も複雑で、案件をポートフォリオで考えます。例えばある顧客に対して新規サービスを提案している一方で、ほかのある顧客には別の新規提案をしているという形で営業担当者は常に多くの新規案件を抱えていますので、新規売上のフォーキャストはそれぞれの案件の成約見込み金額や成功確率で加重平均して考えます。これらいくつもの新規案件を優先順位付けして、得られる新規売上を最大化させるように案件ポートフォリオを最適化する行動計画を立て、実行する必要があります。

このように「既存売上」も「新規売上」も、実際にはそれぞれ案件ごとにステータスが異なりますので、それぞれの案件の足し合わせとして計算されることとなります。つまり、「既存売上」であれば”既存案件1,既存案件2、、、既存案件x”の売上の総計になります。「新規売上」も同様に”新規案件1,新規案件2、、、新規案件y”の売上の総計になります。

多くの場合SalesforceのようなSFAツールで案件管理されているかと思います


向こう3年間の売上フォーキャストを考える場合は、このように「既存売上」の成長と「新規売上」の獲得計画をそれぞれ計算することとなります。これを実現するためにどのような活動が必要になるか考えることがビジネスプランニングとなり、例えば営業担当者が自分のテリトリーに対して実施する場合は、「テリトリープランニング」として自身の既存顧客と新規案件のパイプラインからゴールを設定して、それを達成するための方法と必要なリソースを社内共有することで必要なリソースを獲得していきます。重要な顧客に対して行う場合は、ABM; Account-Based Marketing/Managementによってより注力したプランを立てて実行することになります。

売上の将来予測、既存売上の成長と新規獲得の見込みで試算する


別の視点での売上予測(興味のある方向け)

売上の構成要素は別の視点からも考えることができます。つまり「到達可能な市場サイズ」「市場シェア」です。ここに「市場成長率」を考える場合も多いですが、今回の話では簡略化のために市場成長率は一定として、省略させていただきます。

「到達可能な市場サイズ」は自社の製品やサービスが今現在で提供可能な市場規模を指します。Total Available(Addressable) Market, TAMと呼ばれます。厳密な計算は難しいのですが、製品やサービスの視点から売上計画を立てる場合には必要となる重要な情報です。この市場サイズが大きいほど得られる売上の見積もりは高くなりますが、競合が多く存在する場合はシェアが獲得できなかったり価格競争が起こることで単価が下がり、期待するリターンが得られないこともあります。新規事業や課題のSolution Problem Fitを考えるステージでは、そもそも事業を起こすターゲット市場が小さいものだと投資する価値が本当にあるのかを検討しなおさなければいけません。一方で後ほど少し触れる「到達可能な市場サイズ」自体を広げる活動も併せて考えることで、最初の市場参入をどのように計画するかの判断も大事です。

「市場シェア」については、自社が提供する製品やサービスに競合が存在する場合に重要なファクターです。TAMが大きな市場にはどの企業も参入したいと考えるもので、競合する製品やサービスは必然的に多くなります。市場シェアを高める競争戦略は現代のビジネスで基礎となる部分ですが、現在解決されていない課題(アンメットニーズ)に向けて製品やサービスを展開したいと考える場合にはその課題解決でどれくらいの市場を生み出せるか考えます。一方で競合とは同一の製品・サービスだけを指すものではないため、代替技術や課題自体が消失するようなイノベーションの出現などを見据えて視野を広げた戦略を考えなければいけません。事業計画においては、市場シェアをどれくらい獲得できるかの予測は重要なポイントであるため、シェア獲得に向けて必要なアクションを整理して実行計画を回していくことが求められます。

市場と市場シェア、自社が戦っているフィールドの理解が大事です


「到達可能な市場サイズ」は、市場自体の成長(もしくは衰退)以外にも変動要因があります。それは「新たな市場開拓によるTAMの拡大」です。これは2つの側面から考えることができます。

1.  既存の製品やサービスの適用範囲を拡大する(深化プロセス)
2.  イノベーションによる新規市場の獲得(探索プロセス)


TAMを拡げる「深化プロセス」と新たなTAMを創出する「探索プロセス」


セールスの立場からこれらにどうやって関与するのでしょうか。「深化プロセス」については営業担当者にできることはたくさんあります。既存顧客からのVoC(Voice of Customer、日ごろのやり取りから得られる顧客からのフィードバックや市場の要求)に基づいた用途(応用)開発のフィードバックです。顧客のビジネスプロセスの一部でしか自社の製品やサービスは活用できないと考えていたところに、別のビジネスプロセスで利用できる技術的な優位点が見つかり、そこに向けて磨き込みを行うことで新たな利益の源泉を開拓していきます。これを実現するために営業組織がやるべきことは、市場を引っ張るリーディングカンパニーとの関係構築の中でマーケットの展望とその中での勝ち筋となる技術要求を収集し、パートナーシップを組んで実現することです。これは自社が投入したリソースがリーディングカンパニーで採用されて、市場で価値を示してさらに他社へ展開されるストーリーを事業成長予測として具体化する上で重要なコミュニケーションです。

一方で「探索プロセス」はセールスサイドでできることは限られます。研究技術の実現や他社からの技術導入などに先導させる断続的な変化によって達成されるものが多いです。今回の議論にある売上予測の側面からも、「探索プロセス」による市場拡大は議論から一旦外したいと思います。(ここでもVoCが重要なのは間違いなく、他社技術の買収などの判断には高い視座でのマーケット情報だけではなく目の前の顧客の課題とその規模感が重要です、めちゃめちゃ面白い部分ですので別の機会に掘り下げます)

売上予測実践例(メーカーB2B営業担当者の場合)

職務範囲:
自社製品を直販・代理店経由の複数商流でエンドユーザーである国内製造メーカーに販売する

フォーキャストの目的:
製造計画の立案と在庫管理のエビデンス(短期目的)、予算進捗と事業成長のエビデンス、製品開発のリソース配分(中長期)

フォーキャスト作成:
ERPに各顧客毎の製品別で数量と価格の月次予測を15か月分アップデート、向こう3年計画としてSalesforce入力を用いた既存+新規売上ロードマップをスライドにする

前職体験談として

・ 営業担当者は毎月月末までに向こう15か月分の営業フォーキャストをERP上で更新する。
・ ERP上で更新された数字はそのまま製造計画や財務データに直結するため、短期~中期の活動はこの営業フォーキャスト更新を基に決定される
・ 各営業担当者が持つテリトリーにおける3か年プランは営業担当者が抱える案件のボトムアップと市場動向を加味してまとめられる
・ マネジメント陣は自社自社開発動向と市場動向にボトムアップの意見を照らし合わせて、予算計画とリソース配分を決定する

月次の製品数量、販売価格をアップデートする入力フォーム例(実体験に基づき)


売上予測実践例(企業向けデータベース営業担当者の場合)

職務範囲:
直販で重要顧客企業向けに自社データベースとデータコンサルティングを提供する案件を管理する(キーアカウントマネジメント)

フォーキャストの目的:予算進捗、キーアカウントへのリソース配分妥当性の確保、リード生成へのフィードバック

フォーキャスト作成:案件ベースの積上げとして、既存契約の価格変動、新規案件の契約規模と契約時期、それぞれの成功確率をSalesforce上でアップデート

現職体験談として

・ 営業担当者は既存契約の更新案件と新規獲得案件のそれぞれの進捗を最新に保つ
・ パイプライン情報はTableauでレポート管理され、ビジネスラインの最上位までリアルタイムで確認
・ 契約解除(離脱)と新規獲得の可能性をリスク管理して売上予測シナリオ作成する
・ パイプラインが薄い場合にはリード供給を強めるよう働きかける

B2B営業に携わるものとして、売上予測は避けて通れぬ道です。この能力はビジネス理解度と共に組織へのコミットメントとしても非常に重宝されます。狙って売りを作れる営業パーソン(あるいはそれをまとめ上げる営業マネジャー)になるために今回のnoteが役に立てばうれしいです!

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