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RightTouchが進めるドミナント戦略:業界別営業ナレッジと事例創出

 RightTouchで主にエンタープライズセールスを担当している佐藤丈広(takehiro)です。先日の奥泉(okkun)によるインサイドセールスの話に引き続き、今回はセールスプロセスを中心にした内容をお届けしたいと思います。まだまだ少数精鋭なRightTouchのビジネス組織では、事業成長レバレッジを効かせる為にターゲット業界でのドミナント戦略に力を入れています。



ホリゾンタルSaaSの事業成長に向けた業界別ナレッジと事例の重要性

 RightTouchはカスタマーサポートにおける企業と消費者の負の体験を解消するために、Webサポートを強化するためのSaaSプロダクトを展開しています。具体的には、企業のWebサイトを訪問した顧客が自分のほしい情報に辿り着けなかったり、エラーが出てやりたいことができないようなケースを自己解決に導くRightSupport by KARTEを中心に、プロダクトでCS領域における顧客体験を向上することを目指しています。
カスタマーサポートの業界や市場規模についての詳細は弊社の過去のnoteなどをぜひ参照いただきたいのですが、私が感じる魅力と課題は以下の通りです。

カスタマーサポート(CS)の魅力と課題*
コールセンターサービス市場/コンタクトセンターソリューション市場の調査を実施(2023年),
株式会社矢野経済研究所,
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3386

 これらはCS領域の全体で共通のものですが、実際にはそれぞれ業界毎に特化した課題があります。例えば、銀行業界では取り扱うサービスが幅広いため、顧客は自分の困りごとを解決するためのFAQや問い合わせする先がどれを選択すべきかわかりにくい。ガス・電気などのインフラ業界ではペーパーレス化に伴う毎月の利用状況(検針表)のweb化を進めるため、利用者マイページの利用を促進したいが登録数が上がらない、などです。

 RightTouchでは、注力する業界に特化した営業ナレッジや事例の創出に力を入れています。今回のnoteではこの業界別ナレッジ・事例を営業活動の中でどのように創出、活用しているかを共有したいと思います。この活動を強化することにより、弊社でも日々の営業商談において顧客に価値が伝わりやすくなり商談が進捗しやすくなるだけでなく、リード獲得フェーズでも商談につながる機会を増大できたため、この活動へのリソース投下はぜひ参考にしていただきたいです。

創出事例の例)

誰と最初の成功を作るか?リファレンスカスタマーとの価値創造ステップ

 弊社のようなSaaSスタートアップにとって、プロダクトの顧客事例は強力なコンテンツです。しかし、(当たり前ですが)最初はまだ実績がない中でプロダクトを紹介して、フィードバックをいただき、改良して、やっと利用いただけるプロセスが存在します。ここでは、スタートアップにおいてMVP(スタートアップ界隈で表現される最小単位のプロダクト; Minimum Viable Productの略)と呼ばれる初期プロダクトから事例を作るまでの流れの中でRightTouchが大事にしてきたこと、大事にしていることを説明します。

 RightTouchでは、弊社が捉えているCSの課題やあるべき姿に対して、プロダクトによる解決を目指してMVPを作り、その「あるべき姿」に共感いただいた企業様とプロダクトの価値検証を進めながらプロダクトを磨き込んでいます。このような活動を共に進める企業様(リファレンスカスタマー)の存在はとても重要で、この取り組みを前に進める上で核となるのが「最初に誰と成功するか」「成功に向けたストーリー(ユースケース)」です。

 まず「最初に誰と成功するか」について説明します。弊社は幅広い業界でコールセンター見学などを重ねるなかで、コールセンターに共通の課題を見出してきました。具体的には、困った顧客はwebサイトを閲覧してから問い合わせすることが多いにもかかわらず、問い合わせを受けるオペレーターはその情報を知る術がありません。そのため、顧客の問い合わせ前の苦労がリセットされてしまい、かつオペレーターもそれらをいちいちヒアリングしなければならず、一件当たりの問い合わせの応対時間が長くなってしまいます。弊社ではこれをWebとコールの分断と呼び、解決すべきペインとして捉えていました。その中でも、証券業界(特にネット証券)は対面のサービス窓口を持たないことで顧客接点がWeb上にありながら、手続きや取引のやり方など幅広い問い合わせが電話で鳴り止まないことでWebサポートの重要性に気付き、いち早く取り組んできた業界でした。SBI証券様と弊社は、プロダクトを作る前段階からこの課題に対して議論を重ね、多岐にわたるサービスでの多様なサポート要求を受けるコンタクトセンターで「ぜひ使っていきたいサービスだ」と強く共感いただくことができました。その後の価値検証プロセスにて成果が確認できたことで、現在ではSBI証券様の複数のコールリーズンにおいて「RightConnect by KARTE」をご導入いただき、電話問い合わせの生産性向上(この場合は一件当たりの通話時間の最適化)に寄与しています。

 このSBI証券様との共創プロセスは、後にさまざまな外部イベントにてRightConnectの成功事例をご紹介いただいたり、弊社とも共催セミナーやインハウスの勉強会開催など実施させていただくような形で伝播しており、まさに最初の成功がその後のビジネス拡大において重要であることを身を持って感じています。

次に「成功に向けたストーリー(ユースケース)」についてです。事例は商談化〜商談中まで幅広く威力を発揮する最強の営業コンテンツではありますが、そもそも受注がないとこれらの事例を示すことはできません。プロダクトの初期段階では当然、有効な事例などないなかで顧客との検証サイクルを回していくので、必要なのはプロダクトによって実現する世界とその成功のための方法(プロセス)です。つまりユースケースを考え、顧客と議論し、それらを検証して本格的なプロジェクトが開始される流れです。

 ユースケースを作るには、プロダクト自体のケイパビリティの理解(現時点に加えて今後開発ロードマップとしてリーチし得る範囲も含めます)だけでは足りず、目の前の顧客のビジネスプロセス理解目指す姿と現状のギャップ(課題)への興味や理解が重要になります。Web上での自己解決を促進する「RightSupport by KARTE」においても、新しい業界に展開する場合は他社(他業界)成功事例だと業界特有のペインにアプローチしきれないことがあるため、最初の提案における仮説を設定し、その仮説検証と負の解消を行うためのユースケースを提示する必要があります。

 一例として、旅行業界への提案拡大においてユースケースは威力を発揮しました。当初RightSupportは金融業界など、問い合わせ総数が多く、呼量削減をCSのテーマにしている企業・業界との相性がよかった一方で、電話受付や問い合わせによる顧客獲得(あるいは単価向上)を目指す業界・業態での実績はほとんどありませんでした。コロナが落ち着いた後の旅行業界において、webは顧客獲得の重要な接点として再加速している最中で、自己解決可能な問い合わせをweb上で解決しつつ、パッケージツアーの予約に繋がる電話予約は増やしていきたいという状況にありました。これに対して、RightSupportによる顧客の要望(解決したいリーズン)に合わせた解決チャネルへの誘導を予約ジャーニーの最適化目線で考察したユースケースを作り、顧客自身にあった予約体験が提供されつつ、企業にとっても利益が最大化できるweb顧客接点の構築を提案しました。このプロジェクトは今年1月から無事にスタートしまして、今後事例として紹介できることを楽しみにしています。

RightSupport by KARTEが提唱するライトチャネリング構想
上図:従来のCSで顧客の課題(Q)と解決先(A)が適切にマッチしていない様子
下図:RightSupportによってQとAが正しくマッチングしている様子(ライトチャネリング)

 このような最初の成功を作るプロセスは、仮説検証を通じて自社のプロダクトの可能性を切り開く上でも重要であり、そのプロセスを正しく進めるためにはプロダクトへの理解(と情熱や可能性を信じること)と顧客への理解(と興味や信頼)が欠かせません。

セールスプロセスでの業界別事例の育成と事例創出システム

 これまでは事業開発フェーズのプロダクトセールス目線での説明が多かったですが、ここからはセールスプロセスにおける業界別ナレッジや重要性について触れていきます。

最初の成功を収めた業界では、2社目、3社目と成功体験を重ねていくことが重要なセールスミッションになります。その時にぜひ取り組みたいことは「最初の成功事例の刺さりどころを見極める」ことです。例えば、銀行業界で事例を作ることができたとします。ある銀行のアプローチ(成果がでたプロダクトの使い方など)が他の銀行でも同様に受け付けられるかというと、そうでもない時があります。これは同じ業界であっても規模感、業界内でのポジション、CS部門(周辺の関連する部門含む)のパワーバランス、プロジェクトを積極的に顧客サイドで進めるチャンピオンの存在などさまざまな状況の違いから起こります。
*チャンピオンとは、ここでは顧客サイドにいるサービスの導入に前向きで、最終意思決定者に対して影響力がある人を指します。

営業商談における事例の検証サイクルとサクセス連携によるGo-To-Marketへの適用

 同じ業界においてビジネスを拡大する際には業界別のセールスナレッジ形成が鍵になります。つまり、最初の成功と同じく顧客に受け入れられるところと、そのままでは受け入れられないが抽象化した時に同じ課題感として納得されるところ、個社個別の事象が強いサービスの特性などを日々の商談の中から集めてまとめることです。RightTouchでは、事業開発初期段階で作った業界別セールスナレッジを、その後のセールス・サクセスプロセスで得られたフィードバックを基に改修し、新しいメンバーが入社した時でも営業しやすい状況を整えるよう努めています。現在では金融業界の各領域をはじめとした様々な領域で一定のナレッジが溜まってきています。

業界別のナレッジを整理したnotionサンプル

 このアプローチの中で重要なポイントはセールス・サクセスプロセスで得られたフィードバックを基に改修するというところです。RightTouchではセールスとサクセスのポジションはあまり明確な線引きをせずに、両方を兼任したりサクセス担当によるクライアントミーティングにセールスメンバーが参加する機会を多く確保しています。これは、サクセス側から見ても受注時にコミットされた価値実現のためのロードマップや価値ドライバーを把握しやすいことがメリットになりますし、セールス側から見ても日々の商談での引き出しが増える好循環を作っています。このセールスーサクセス連動により、業界別ナレッジは加速度的にストックされていきます。

 さらに、どのような事例を創出することでセールスプロセスが効率化されるかという目線で業界別・施策別の事例マッピングを作成しています。これは、日々のサクセス活動における成果とセールスプロセスで必要とされる武器をマッチングさせることによって、顧客事例がより付加価値の高いコンテンツとして公開されるような仕組みになると考えていただければと思います。事例の作成・公開は通常、顧客側でも成果に対する一定の評価があったり、広報部への確認作業などコストの掛かる作業が発生します。事例公開数をただ闇雲に増やしていっても活用機会が多くないと、双方にとっても費用対効果が悪い活動になってしまうため、より事業拡大のためにインパクトのある形で事例公開できるように優先順位を決めて取り組むようにしています。

業界 x issueの軸の事例マトリクスサンプル

業界別事例を活用したGo-To-Marketでの事業成長レバレッジ(IS/FS/CSの協業)

 ここまでは、最初の成功から業界別でセールスナレッジを溜めたり、価値のある事例創出をする流れを中心に触れてきました。最後に、これらをビジネス拡大に繋げていく視点から説明します。ここでは主にセールスプロセスの入り口にあたるアポ獲得から受注とupsell/crosssellまでをフォーカスします。

まずはアポ獲得段階における業界ナレッジ、事例の活用です。弊社ではセミナー参加者へのインバウンドも手紙施策などを使ったアウトバウンドも行ってきましたが、ただ一般的なコールドコール(メール含む)を行わないようにしています。つまり、そのリードに合わせたアプローチとして業界別のナレッジや事例を活用します。業界内で共通する課題感に対してRightTouchが貢献できていることを示すと、一般論で語られる想定課題よりも興味を頂けることが多く、その事例をもう少し詳しく知りたいと初回商談機会が得られやすくなります。また、一般的にスタートアップが持っている想定課題はマーケットではまだまだ顕在化したものではないことが多いため、特にアウトバウンドでは業界に沿ったアプローチで貢献を示すことで入り口の段階から課題意識を醸成しやすいメリットがあります。

 次はセールス商談段階における業界ナレッジ、事例の活用です。先に悪い例からお伝えします。セールスプロセスで気を付けたい事例活用は、記事やスライドの内容をただ成果としてのみ伝えてしまう(主に数字周り)ことです。これでは、たとえ顧客にとって同じ業界内での成功事例だったとしても他人事になってしまい、自分たちの目指すべき姿や乗り越えたい課題に対する最適なアプローチと認識してもらえません。商談の中でうまく事例を活用するには、その事例が生まれた背景に興味を持ち、理解し、その数字が指し示すインパクトを正しく伝えなければいけません。

xx%の向上と書かれた事例の分母と分子、ちゃんと言えますか?

営業パーソンが事例の価値を正しく届けられていないケース(例)


 商談の後期になり、顧客へ価値提案を行う場面では事例は更に強力な武器になります。つまり、自社が提案する価値実現に向けたプロセスの各ポイントで成功例が既にあるので、価値提案の実現可能性を担保するものとして事例を活用することができます。具体例を使ってもう少し詳しく説明します。

 例えば先ほどの旅行業界での価値提案の場面では、RightSupportによるwebを介した顧客の予約体験を最適化するアプローチを提案しました。この提案では、
1)予約後の確認事項など自己解決可能な問い合わせを減らすこと
2)パッケージ提案などが必要な複雑な予約を希望する方を適切な窓口に案内して対応すること
3)web予約を自己完結できるようにプロセス離脱を防ぐ先回りサポートを提供すること
という3つのポイントで価値提案を行いました。それぞれのポイントにおいて、既に公開されて効果が発揮された施策事例を共有することで価値実現の可能性を高めるようにしています。このアプローチでは業界内の事例に捉われずに紹介しましたが、新規ターゲット業界へのビジネス拡大の成功例となりました。

提案の各ポイントに合わせて事例を解釈し、実現可能性の根拠として紹介する

 このようなアプローチは当然、サクセス活動の中にも好影響を与えます。具体的には2つあり、1)どの様な事例を創出すべきかの優先度がつけやすいこと、2)サクセス活動の中でupsell/crosssellの種を見つけやすくなることです。前者については既に説明済みなので、後者について少し解説します。

 RightTouchのサクセス活動は、顧客のプロダクト成熟度を高めヘルススコアを向上させることだけに終始せず、顧客のビジネス課題を解いて価値共創する側面を強くもっています。そのなかで、業界内で得られた他社事例やセールスナレッジを基にした洞察、提案はこれまた強力な武器になります。クライアントワークに没頭しすぎると、担当者同士の目の前の課題解決と施策の数字作りに追われがちですが、視座を高めて事業開発レベルでサクセス活動を行うことでビジネス拡大への貢献を高めています。

 ここまで紹介してきた取り組みによって、ニューカマーが早期に一定レベルの商談マネジメントを実現できるようになっています。汎用的なプロダクト群をホリゾンタルに幅広い業界へ展開しているビジネスであるにも関わらず、業界別の価値ドライバーを理解し、有効な事例が提示できるようにしていることで、初回商談での失注がほとんどなく、入社して早い段階から価値提案ステップまで進められるケースが増えてきています(受注も遠くない!)。Go-To-Market戦略にアラインした成果創出が今のフェーズでは重要ですが、ナレッジや事例を下支えにして、新しい仲間が早期に立ち上がることで今後も引き続き爆速で事業成長曲線を描いていきたいと考えています。その為にも、まだまだ仲間が必要ですので、RightTouchの事業や組織、戦略に興味を持っていただけたら気軽に声をかけてほしいです!


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