RightTouchの挑戦からカスタマーサポートの面白さを紐解きたい話
こんにちは。RightTouch代表取締役の長崎です。
RightTouchは、KARTEを提供する株式会社プレイドからスピンオフした会社で、カスタマーサポート領域におけるプロダクトを展開しています。
今回noteを書くに至ったのは「カスタマーサポート業界の面白さを、全く伝えられていない!」と思ったからです。
一見すると、地味で面白みのない業界だと思われるかもしれません。かく言う私もバックグラウンドはコンサルティングファーム出身で、この業界のことは1mmも知りませんでした。
カスタマーサポート業界はマーケットサイズがとにかく大きく、国民1.2億人に関係する、社会において重要な役割を担っているのですが、明らかに構造的なバグがあり、進化が遅くなっています。(この詳細は後ほど説明します)
私の前職の代表である冨山和彦さんが「地味なビジネスほど本質的だし儲かる」とおっしゃっていたのが耳によく残っているのですが、進化が遅くなり、顧客や企業の不満/不便/不利益が溜まっている産業ほど、逆に大きなビジネスチャンスが転がっています。そしてカスタマーサポート業界はそのようなマーケットの典型です。そんなカスタマーサポート業界の面白さを解説したいと思います。
(少し長いですが、この業界に興味がない方、新しい事業を創るのに興味がある方、是非読んでみてください!)
1.2億人のお困りごとを解決できる。それが1.5兆円超のカスタマーサポート市場
カスタマーサポート市場は、その地味さに反して、実は非常に大きなマーケットです。コールセンター従事者は60万人にのぼります。分かりやすさのために比較をすると、小中学校の教師は約70万人、警察消防従事者は合わせて約50万人です(参照元: 厚生労働省「国勢調査及び就業構造基本調査における職業別雇用者数」)。
コールセンターに関わる人が、どれくらい身近な存在かイメージいただけるでしょうか?またコールセンターに外部委託している費用だけでも1兆円あり、特に金融や通信、電力会社など、委託元は大企業が非常に多く占めているのも特徴です。
そしてコールセンター関連システム(CRM、CTI….)にも、5,000億円のマーケットがあります。
そして生活者視点でみると、カスタマーサポートは国民1.2億人のほぼ全員が関わる領域だと思います。
サービスを使う際に、何らかの問い合わせをした経験がありますか?
また困ったときに、情報を探して見つからなかった、問い合わせしようと思ったけど待ち時間が長かった、求めていた回答をもらえなかったなどの体験をしたことはないでしょうか?
これらの質問には、この記事を読んでくださるほぼ全員が”Yes”と答えると思います。
顧客と企業・サービスをつなぐカスタマーサポートだからこそ、その体験の是非が、売り上げやロイヤリティといったビジネスの重要指標に相当なインパクトを与えています。実際、商品やサービスの利用中止や契約解除をする最も大きな理由の一つとして、「問い合わせ対応やサポート体制が不十分だったため」が挙げられています。(問い合わせサポートの利用実態 RightTouch独自調査より引用)
カスタマーサポートは、企業そしてその先にいる生活者にとって、非常に重要度が高い機能であるにも関わらず、過小評価されているのが実態です。
手足が縛られた状態?業界における3つの壁
社会に与える影響の大きいカスタマーサポート業界ですが、進化が滞っているのも事実です。実際に生活者目線でみたときに、電話や問い合わせの体験について、ここ数十年の変化が目覚ましいものとは言えません。
カスタマーサポート業界の進化を阻害してしまう要因として、3つの壁が存在しています。
システムの壁
オペレーションの壁
部門の壁
この3つの壁は業界の進化を阻んでいる一方で、事業機会(改善機会)が多く潜む要因でもあります。1つずつ説明します。
システムの壁
カスタマーサポート、コールセンターと聞くと「電話を受ける人」という印象を持つ方が多いと思います。「やってる作業自体は単純なんじゃないの?」と想像する方も多いかもしれませんが、問い合わせ一つを取っても、裏側には複数の複雑なシステムが絡みあっています。(以下でもシステムの中では一部です)
ただこれらのシステムは「垂直統合」と「すり合わせ」の世界。どの会社にもお抱えのSIer企業が入っており、大規模なインプリメントと何かしらのカスタマイズが施されています。
もちろん構築時に個社のオペレーションにカスタマイズされたシステムができるのですが、環境変化に応じて必要なシステムの仕様は変わります。そして、システムの改善にはSIerの工数確保・実装が必須で、莫大な費用とリードタイムがかかってしまいます。音声案内のフローを変える、コールセンターのオペレーターが見る画面を少し変える、そんな些細な修正だけでも半年、数千万円以上のお金がかかることはざらに起こっています。
私も当初エンタープライズ企業の情報システム部とコールセンター領域のディスカッションをした際、担当SIer企業の方も同席されており、情報システム部門の方ではなくSIerの方が議論を主導しているシーンを何度も見かけました。少し大げさな言い方ですが、カスタマーサポートビジネスのあり方を、事業者ではなくSIerが手綱を握って決めてしまっているような感覚さえ抱きました。
システム面においてコールセンター部門は「あるべき改善活動」をほとんどできていないのが現状です。
オペレーションの壁
次にオペレーションについてです。結論を先に申し上げるとコールセンターの「外注文化」がこの壁を作っています。
説明の前に少し日本のコールセンターの歴史の話をします。
1970年代、電話を通じたお客様からの問い合わせやクレームが寄せられるようになり、企業の業務負担が増加しました。その過程で、1つの代行業者が複数企業の電話対応をまとめて引き受ける電話秘書サービスが誕生します。これが電話対応スタッフを雇用できない企業の受け皿となったのですが、これがいまのコールセンターのアウトソーサーの起こりです。
そして現在もアウトソーサーへの「外注文化」が日本のカスタマーサポート業界には根付いているのですが、アウトソーサー中心だとどのようなバグが起こるのでしょうか?これは「アウトソーサーのビジネスモデル」が大きな要因となっています。
アウトソース先のビジネスモデルは基本的に「受託した人数」ベースの課金。そうすると例えばオペレーションを改善したり、FAQを改善したりすることで問い合わせ数が削減すると、受託する人数も少なくなってしまう。つまり改善のディスインセンティブが働くので、構造的に改善が進みづらい形になってしまっているのです。
直近はアウトソーサーも事業の多角化を図り、このようなビジネスモデルの歪みも薄くはなっていますが、まだまだ大部分の売上を占める人的ビジネスへの依存度が高いなあ、というのが私の感覚です(まさに「イノベーションのジレンマ」的な話ですね)
部門の壁
カスタマーサポート部門は、顧客接点が最も多く、顧客に最も近い立場にも関わらず、いまだに社内での地位は決して高くなく、「コストセンター」としての認識が根強い。ゆえに、コールセンターにおける改善活動はコールセンターの運用内、つまり「電話が来た後のオペレーション」にとどまることが一般的です。
ここは我々の事業にもつながるところなのですが、顧客のサポート体験は「問い合わせの前の検索やWebサイトの閲覧から始まっている」のに、問い合わせの前、Webサイト側の体験は全くケアされていないというのが現状です。
Webサイトはマーケティング領域が管轄しているという会社が多く、顧客獲得のためのWebはあるが、顧客サポート向けのWebはない。思考をしていくうちに、このバグには個人的にも強烈な違和感を感じました。
ユーザーのカスタマーサポート満足度調査においても、問い合わせ窓口、要はコールセンターのオペレーターの応対の満足度は高いが、問い合わせに至るまでのプロセスに不満を持つユーザーは多いため「問い合わせ体験全体」への満足度が下がっている。問い合わせ前のWebの体験がボトルネックになっている、というのが実態です。
そして、私が様々なコールセンターに見学をしたときの経験なのですが、オペレーターの方々にヒアリングしてみると、「サイト上のこの記述を変えたら、顧客が問い合わせしなくて済むのに。」「問い合わせ画面の導線を変えたら、顧客が架電しなくても解決できるはずなのに。」といったことに気づいているオペレーターの方が数多くいらっしゃいました。が、変えるための武器や権限がない。ゆえにオペレーターの暗黙知というアセットが捨てられている。部門の壁がなく、もっと自由に改善ができたら...と何度も感じました。
少し長くなってしまいましたが、このように「3つの壁」によってカスタマーサポートの進化は遅くなり、結果的に生活者の体験が変わらないまま、というのが業界の実態です。
そして逆にポジティブに捉えれば、この業界の改善の「余白」が大きい。つまり事業機会が多い、とも言えます。
デジタルシフトと共に訪れ始めたCS変革の兆し
上述の通り3つの壁、改善余白が大きいカスタマーサポート市場ですが、まさに変化の兆しを感じているところです。
まず1つ目に前述のシステムが徐々に変わっています。SIerとのすり合わせとカスタマイズの世界の「垂直統合」から、SaaSプロダクトによって機能が細分化され、「水平分業」化が進んできています。
たとえば、海外だとtalkdeskやFive9といった、SaaSベースのプロダクトがエンタープライズ企業にも入りこみ、調達も多くしている。日本でもchatbotやFAQなどがSaaSとして登場し、最初はオペレーションに関わらないことが多かったが、今ではこれらのプレイヤーが徐々にオペレーション領域に進出しています。
そして2つ目に、「部門の壁」でも述べたWebサポートの話があります。
まずエンタープライズで「CS企画」部署が新設されることが急激に増えました。彼らはデジタル×カスタマーサポートの範囲で戦略を立てたり、戦略に紐づいて必要なツールの選定/活用をすることが多いです。これまでは「電話が来てから」のプロセスを磨くことが部門の範囲だったCS部門からすると、大きな変化となります。
また「Webサポート」という言葉が流布し始めてます。実際に企業のCSの格付け基幹であるHDIは、「Webサポート格付け」を実施し、各企業の「カスタマーサポート観点でのWebサイト」の評価をしています。
マーケティング領域に15年、いや20年遅れで「Webでの体験」が重視されているカスタマーサポート領域。面白いタイミングだと思い、私もRightTouchを立ち上げるに至りました。
“Webサポート”基盤から垂直立ち上げしたRightTouchのいまと余白
RightTouchは「Webサポートプラットフォーム」として、企業がWebでの良質なサポートを提供するための武器を提供しております。
立ち上げ当初より大手金融や通信、インフラ系の企業さまを中心に導入いただき、プロダクトリリースから1年半でMRRもかなり順調に伸びております。いまは顧客ターゲットを絞っており、エンタープライズ企業の一部産業での推進(営業メンバーは3人)のみなので、マーケット全体でみるとまだまだ非常に多くの余地があります。百聞は一見にしかずで、弊社の1stプロダクト「RightSupport」のコンセプト動画を見ていただければと思います。
さらにWebサポートプラットフォームとしての役割はこれだけではありません。
Web/問い合わせ前のデータを中心点として、複数のプロダクトを提供していて、このnoteでは深く説明しないのですが次のようなものです。
共通の基盤から生まれるさまざまな事業機会 - コンパウンドスタートアップへ -
さらに事業機会に溢れたマーケットであるとお伝えした通り、まだまだ事業の拡張性があります。
まず現在は「問い合わせ前データと接点」をRightTouchの中心点に置いています。カスタマーサポート体験はWebから始まるケースが多いので、顧客と企業の一番最初の接点のデータをRightTouchが持つことになります。これは非常に大きく、初期プロダクトのRightSupportで問い合わせ前データを抑え、そのデータを活用して、オペレーション領域に進出したのが第二弾プロダクトのRightConnectです。このデータはMOATとなり、事業としていろんな拡張性があります。
そして当社は明確に「コンパウンドスタートアップ」(参考:福島さんnote)として、さまざまなプロダクトを並行して立ち上げていく組織を作っています。(ここでは今、詳細に語れないのですが...)
当社が持っているアセットがユニークなので、いま僕らがコールセンター見学を1回したら、事業機会につながる課題を複数見つけられる、といったことが何度かありました。私自身コンサルティングファームで様々な業界に関わってきたのですが、こんな機会に溢れた状況を目の当たりにするのは初体験で、非常におもしろい機会に恵まれています。
人々を負の体験から解放することで社会を豊かにする。それが私たちの存在理由
RightTouchは「あらゆる人を負の体験から解放することで、人と企業の可能性を引き出す」をミッションに活動しています。
企業からすると、どれだけ良い価値のあるプロダクト・商品・サービスを提供しても、そこに負の体験が含まれると価値は一気に目減りします。本来の良さ、本来価値は伝わらなくなります。生活者も良い体験が享受できないことで、豊かさを損ねてしまう。
また、私個人としても、シンプルにやりたいことだけやれる世界を本当は作りたい。面倒なことや煩わしさのない日々を一人の生活者として熱望しています。
いまはBtoB SaaSの事業を展開していますが、事業開発ではなくユーザー体験という視点で見ても、エンドユーザー体験に直接寄与でき、事業としての取り組みがそのまま生活者としての自分の体験に還元されるようなSaaSは珍しいんじゃないかと。ミクロで見てもそこは面白いかもしれません。
サポート体験がよくなれば世界がもっと良くなると信じて、日々カスタマーサポートの武器となるプロダクトを提供しています。そして、事業が本当に伸びているので、どの職種も絶賛募集中です。
このnoteを通じて、少しでもカスタマーサポートって面白いじゃん!と思ってくれた方、RightTouchに興味を持ってくれた方、ざっくばらんな雑談やカジュアル面談からでも大歓迎です。