見出し画像

【小説】 変える、変われる。 : 26

どんよりした週明けと思いきや、理由はどうであれ土日は達成感のある出来事ではあったし、やり切った自信もあった。

そして、寝る前に聞いた大正琴の音色が優しく、演奏者の楽しそうな感じがまた良かった。

気持ちよく寝付けたから寝起きもスッキリと目覚められた気がする。

前にも同じような演奏を動画で見て聴いて、良いなぁ、楽しいなと思ったことがある。

なんだっけなぁ、同じ楽器をたくさんの人が演奏していたり、他の楽器と演奏していたり・・・

男女混成で演奏者たちも聴いている人たちも、実にノリノリだったり、軽やかだったり。

そうだ、スティールパンだ!

案外と大正琴は日本のスティールパン的要素があるのでは・・?

そうか、そうか、だから「和む」し「楽しい気持ち」にもなるのかもしれない。


スマホでスティールパンの演奏を検索して、イヤホンで聞きながら事務所へ向かった。

雲はあるけど目つぶしにならない程度に爽やかな日差しで、緩~く吹いてくる風が心地いい。

UB40のスティールパン演奏の心地良さで、脳内だけ海辺にいる気持ちになれる、、、ザザ~、ザザ~

ウットリ度が高まってきたところで、電車内で大正琴の千本桜に切り替えて動画を見ると、酔っぱらっていた時には「日本直販時代のバリバリの電子音」を笑おうと思っていたけど、改めて「すいません」と心の中で謝った方が良いと思った。

この動画は元気になれるし、そして、足取り軽く事務所に到着。


「お早うございます。」

「あー、きむちゃん!昨日もだったんでしょ?大変だったね、手伝えなくてごめんね。」

玉ちゃんが申し訳無さそうに話して来た。

「いえ、昨日の夜にはメールで送ったから、何もなければ『いますぐ』もすぐに大本に納品出来るでしょうね。」

「そかそか、ご苦労様でした。たくさん頂いたので、お食べになって。」

貰うと嬉しい「ヨックモック」を夢のような数が入った箱ごと、グイっとくれた。

母だったら、空き箱に何を入れようかときめく程の大容量。

「ちょっと声がヘンだね、風邪でも引いた?」

「昨日、パソコン見ながら寝落ちしちゃったから、それかもしれないですね。大丈夫。」

電話が鳴って玉ちゃんが出たら、所長の様子。

「来なくて良いですよ、そんなんだったら。きょうは休んで明日バリバリで来て下さい。今日中に上げるのとかは? はい・・、はい・・・」

休み?と口パクで玉ちゃんに聞くと、うんうんと頷いたので、所長のメールとスケジュールを確認しに所長の机へ向かった。

また電話が鳴って出たら『いますぐ』だった。

「あ、木村くん? さっき確認して問題無かったから、こちらの納品も何とか滑り込みセーフで助かりました!本当に申し訳ない、有難う御座いました。」

「そうでしたか、良かったです。こちらも安心致しました。」

「無理言って申し訳ない。ちょっと・・・こちらの、ねぇ、いやぁ本当に。。」

「いえ、大丈夫です、いつもお世話になっておりますし。」

「そう言って貰えると助かりますよ!野木さんにもくれぐれも宜しくね。」

「こちらこそ、また宜しくお願い致します。」

喉元まで「今度は無理ですよ」と言いたかったけど、そんな立場じゃないし。


「所長は長時間の腰掛地獄で尻がちょっとイったらしい。口調に強めな苦悩が感じられたわ。明日、無理して来たら見ていられないかも。」

苦く渋い表情で玉ちゃんが所長との悲しい会話を語った。

早朝としてはヘビーな内容に自分も基本は座り仕事なので、他人ごとでは無い、恐ろしいと思った。

納品が間に合った話は、一応所長のスマホへメールを送信しておくとしよう、掃き溜めに鶴となりますように・・・。


月曜だけに、あれよあれよで昼の休憩も飛んでしまい、ヨックモックが似合うオヤツな時間になってしまった。

さすがにお菓子じゃ足りないから、出前でも取ろうと注文をした。

待っている間に、玉ちゃんも絶対に興味を持つ大正琴について話した。

「ええ? まだあるの? 吉岡錦正先生、現役なの?名前しか知らないけど。」

やっぱり大正琴の「よしおかきんしょう」先生だったんだ。

玉ちゃんは、最近のことは小鳥のように覚えていないし知らないけど、昔のことはしつこく記憶されている。

「ちょっと聞いてみて下さい、何でも良いから。」

「面白い? 面白い?」と半笑いで、玉ちゃんが検索して聞き始めた。

黄色の衣装が眩しい熟女4人組が弾く「魅せられて」だった。

他にもたくさんあるのに、これを聞きたがるのが玉ちゃんクオリティだと思った。

イントロが流れると、玉ちゃんが「おおっ??」とした顔をして聞いている。

続けて「真珠採りのタンゴ」を黙ってクリックして聞き始めた。

玉ちゃんの大好きな曲だ。

まさかこんなにツボに入るとは・・・。

ひと通り聞いた感想は「ジュディが見えた。」だった。

確かにサビのところでヒラヒラしているジュディがいた・・かも?

でも、ひょっとして・・・、見つけた?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?