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【短編小説】 また戻って来てね~!

前から来たかった神社にようやく来ることが出来た。

パンフレットなんかのオススメ度数は低めだったけど、とても雰囲気の良い神社だった。

完全に寂しい訳でも無く、程よい鄙びた雰囲気。

地元であろう人はチラホラと見かける。

おみくじを括りつける場所はあるけど、おみくじ自体が置いていない。

恐らく、元旦や夏祭りなど地元のイベント事が無いと設置しないんだろう。

そういうところも良いなぁと思った。


せっかく観光に来たから何か自分にお土産でも買おうと思ったけど境内には、おみくじも置いてないくらいだから、何も無い。

近くにこれまた味わい深い感じの商店があったことを思い出した。

あそこには何かあるかな、、と出向いてみた。


商店は神社同様の期待通りの鄙びたお店。

甘露煮、つくだ煮、山菜漬け。

置いてある品々も、期待通り。

店番なのか小学生くらいの子どもが、興味深そうにこちらを見ている。

ペナントや提灯が無い辺りも、昔から安定した鄙びっぷりだったことが想像出来た。

山菜漬けが自分としてはギリギリ購入に踏み切れそう・・と思えるお土産だった。

けど、お土産然としていて面白くないかなと思ってみたりして、ここは思い切ったものを買いたくなった。

子どもが店内をプラプラ歩いていて、自分をチラチラと見ている。

珍しいと思っているらしく、話し掛けたい雰囲気をまき散らしている。


「どれが美味しいかな?」

山菜漬けを手に取って見ながら話し掛けてみた。

イチオシが全くわからない陳列だから、子どもの好きそうな物は恐らく少しだけ置いてあるスナック菓子だろう。お土産じゃないけど。

「これが美味しいんだって。おじいちゃんの手作りだよ!」

話し掛けられたことが嬉しいらしく、子どもがピョンピョン飛び跳ねながら手招きしている。

少し回り込んで近づいてみると、まさかの「棒状の金太郎飴」。

細切れならまだしも、なんでまた「棒状」。

「面白いんだって!」

そうね、切っても切っても金太郎だもんね・・。

「おじいちゃんの手作り」と言われたら、ますます「いらない」とは言えない。

「じゃあ、これを下さいな。」

何本かある金太郎飴から、子どもイチオシの1本を買うことになった。

絵柄を見ると、ちょっと老けて見えるけど気張った表情の「金太郎」だ。

250円とのこと。

手作り飴としたら、割と良心的なお値段に思えた。

「また戻って来てね~!」

子どもが元気良く手を振ってお見送りしてくれたので、良い買い物をした気持ちになった。


家に着くと、もう夜になっていた。

さすがに飴を舐める気にはなれないので、テーブルにポンっと置いといた。

シャワーを浴びて、ひと息つくと部屋の方から何やら声が聞こえる。

「テレビ点けたっけ?」

部屋に戻るとシーンとしている。

「あれ?」

テレビは真っ黒で、自分が反射して映り込んでいる。

「??」

スマホの画面も真っ黒。

「はよぅ!」

ハッキリと何かを勧めて来る声が聞こえた。

窓に走り寄ってみても、しっかり閉まっているし鍵も掛かっている。

玄関に走って行って確認しても、2つある鍵は両方閉まっているし、ロックも掛かっている。

まさか、クローゼットに潜んでいるんじゃ・・・?

玄関にある傘をむんずと掴んで、ゆっくりと部屋に戻った。


じっと耳を澄ましてみても、物音は部屋からは聞こえてこない。

生唾を飲み込んで、右手で傘を振り上げながら、左手で一気にクローゼットを開けた。

ぎゅうぎゅうのクローゼットには、人の入れる余地が全く無い。

入れて1歳児位までだろう。

ほっと肩を撫でおろして、傘を床についてしゃがみこんだ。

「ほら、はよう!」

真後ろから聞こえて、ギョっとして振り向くとテーブルには金太郎飴。

ベッドの下か??

覗き込んでも、何も無い。

「何をしとるかね?」

「!!」

下げていた頭と上半身を持ち上げると、金太郎飴と目が合った。

「孫から聞いたじゃろう? はよ、食わんかい!」

気張った金太郎飴はおじいさんの顔になって、喋っている。

傘でビリヤードのように飴を突くと、

「食べ物にそげなことをしたら、いかん!」

クルンと回転した逆側は何も絵柄が無かった。

恐る恐る指でつまんで逆側にしてみると、

「孫が面白い言うちょったが?」

嬉しそうにおじいさんが喋っている。


子どもの言っていた「また戻って来てね~」は、「また来てね~」の子どもらしい言い間違いだと思っていたけど「戻って」は、おじいさんに向けてだったのかも。


「おじいさん、帰らないとマズいですよね?」

おじいさんは、ちょっと考えた顔をした。

「食べてみんね?」

“美味しい”のだろう。

勇気のいる話だけど話の種になりそうだし・・・と、ポッキンとおじいさんの顔側を少し折って口に入れた。

甘い砂糖の味と仁丹の香りがした。


「さあ、帰らんと。」

おじいさんが金太郎飴を袋に戻した。

おじいさんの手の温もりの中で、金太郎飴になった自分はまたあの土地に行くらしい。


自分はどこかの部屋に行くことになるのか?

部屋には帰って来られるのだろうか・・・?



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