あきたこまちRへのパブリックコメント5,883件は誰の声だったのか
本記事はウェブメディアAGRI FACTに掲載されたコラム『放射線育種米という烙印を広め続ける人たち』を補完する内容となっています。ぜひセットでお読みください。
秋田県に寄せられたパブリックコメントを確認したところ【令和5年度 県議会への意見】のうち、【テーマ2「あきたこまちR」への全量転換】に対しては5,883件の応募があった。全部で11あった募集テーマのうち、他はほぼ一桁台の応募しかなかったのに比べ群を抜いている。
90%以上が秋田県外からの声
しかし県の取りまとめによれば、5,883件のうち県内から寄せられた応募は469件。実に9割以上が県外からの声だったことになる。
https://pref.akita.gsl-service.net/_files/00081030/R5kekka.pdf
個別の意見はこちらから全文参照することができる。ざっと見る限りでは、ほとんどが「あきたこまちR」の導入に対する反対意見で占められている。
https://pref.akita.gsl-service.net/doc/2023091100013/
50代以上が過半数
独自に年齢構成を集計した結果、50代が最多で30.6%。
次いで40代が27.4%、60代が16.0%を占めており、全体の過半数が50代以上であった。また、40代以上で全体の約80%に達していた。
20代未満の投稿も0.8%あった。あくまで個人的な印象だが、そのなかには本人の意志で応募されたのか疑わしく感じられる文面も含まれていた。
(10代以下が書いた文章にも関わらず、「子どもたち」を案ずる表現が度々見られる。また、「僕は小学生ですが」「私は中学生ですが」など子どもであることを自ら強調する不自然な表現など)
安全・遺伝子・自然が頻出
次に、これらの意見にどのような文言が含まれているのか、いくつか任意のキーワードを設定し、調べてみた。
設定したキーワードのなかで最も頻出だったのは「安全」で、実に3,059回登場している。一人の意見内で何回も同一の単語を使っている場合もあるので、必ずしも人数をあらわす数字ではないが、仮に一人一回使っていたとすれば実に全意見の半数を超える52.08%が「安全」を使用していたことになる。
次に多かったのは「遺伝子」で2,624回(44.67%)、次いで「自然」が1,067回(18.16%)だった。「遺伝子」については、壊す、操作、組み換え(遺伝子組み換えとの混同)などネガティブな文脈で使用されているものが圧倒的に多い。
「あきたこまちRは危険な遺伝子操作をされており、安全ではない、自然ではない」という、まさに反対運動が用意したフレームに合致する形で、大多数の反対意見が述べられたことが推測できる。
なお、十分な捕捉はおこなっていないが、パブコメ募集にあたり反対運動団体が用意したテンプレートに合致する文言が使用されている数を調べたところ、ごく簡単な検索だけでも375件(6.38%)で完全に一致した文言の使用を確認することができた。詳しく確認すれば、さらに数は増えると思われる。
放射能・有機・農薬・ゲノム 食の安全に敏感な層の存在感
続いて「放射能」410回(6.98%)。通常は放射線育種について言及する文脈で「放射能」という単語をあえて使う必然性は低いはずなので、この多くは放射線と放射能の違いを正しく理解できておらず、混同して誤用しているものと考えられる(例として放射能米、放射能汚染米、といった使われ方が確認できる)。
このあとは「有機」369回(6.28%)、「農薬」288回(4.90%)、「ゲノム」243回(4.14%)と続く。
本来あきたこまちRの議論に直接関連は薄いと思われるはずの、有機・農薬・ゲノムといった単語が頻出する点も、反対運動の影響や、こうしたパブリックコメントに意欲的に応募する層の性格を浮き彫りにしている。
ただし意外な点として、反対運動の発端となった人物名(印鑰智哉氏、河田昌東氏など)については、確認できるかぎりごく少数しか言及されていなかった。
反ワクチン・反医療・陰謀論などの影響
やや本筋から逸れるが、興味深いのはこのあとにワクチン151回(2.57%)、毒122回(2.08%)、添加物82回(1.40%)、コロナ74回(1.26%)と、およそあきたこまちRにも放射線育種にも全く関連があるとは思えない単語が入ってきていることだ。
より上位に入ると推測していたオーガニック49回(0.83%)や給食44回(0.75%)よりも、明らかに頻出している。
反ワクチンや陰謀論アカウント、反農薬を掲げる野党、ホメオパシー団体などが情報拡散を担ったことの影響を見てとることができる。
数としては僅かだが、イベルメクチン、薬害、DS(ディープステート、闇の支配層)に言及する意見もあった。
本文に具体的な文言まで書かなかったとしても、こうした思想に同調あるいは影響を受けた応募者まで含めれば、さらに割合が上昇する可能性は十分に考えられるだろう。
※秋田県が公表しているPDFテキストを元に手作業で集計をおこなっているため、多少の集計漏れが発生しており、厳密な数値ではない点をご了承ください。
参考:あきたこまちR反対 拡散の群像
以下に参考として、X(Twitter)上でどのような仕方であきたこまちR反対が拡散されたのか、特に影響力の大きいアカウントや団体に絞って紹介する。このような群像自体が、反対運動の実態をあらわす一側面といえる。
まずは、運動の初期段階から大きな影響力を持った、日本豊受自然農(ホメオパシー自然農法)の代表者・由井寅子氏の動画。あきたこまちRの安全性を懸念する内容だが、基本的には反対運動を最初に呼びかけた反農薬運動家の印鑰智哉氏の主張をそのままなぞっている。
しかし特に下記の動画では「霊的見解とホメオパシー理論に基づく解説」と称し、「カドミウムは地球の頭の回転をよくしている、地球の働きをよくするビタミン的な役割」「人体に蓄積したカドミウムはホメオパシーで除去できる」など、著しく根拠に欠ける独自の理論も展開している。
あきたこまちRに反対する中には、このようなトンデモ理論(と、さすがに言い切って良いと思う)を受け入れてしまう素地のある人々が、一定数混ざっていることは留意する必要がある。
また下記のように、反ワクチン論者として知られる井上正康氏の動画にも由井寅子氏が出演し、あきたこまちRについて語ったケースもある。
医療や食についてカルト的な主張を繰り返す参政党のメンバーも、放射線育種の危険を煽る主張を始めている。
反ワクチン・反医療・DS(ディープステート、闇の支配層)などの情報を日常的に投稿し、数万人のフォロワーを持つ複数の陰謀論アカウントによっても、あきたこまちRは危険なものとして拡散された。
モラルを持った市民運動を展開する上では、たとえ反対というゴールを共有していたとしても、このような「トンデモ勢力」とは毅然と距離を置き、袂を分つべきではないか。だが実際には、黙認・野放しにしているように思える。
とりわけ日本豊受自然農(ホメオパシージャパン系、由井寅子氏)に関しては、過去に講演会ゲストに印鑰氏を度々招いていたり、氏が関わるドキュメンタリー映画『タネは誰のもの』『食の安全を守る人々』にも出演・協力するなど交流が深い。
ホメオパシージャパン系自体がオカルト・陰謀論・疑似科学に基づく発信やビジネスを恒常的におこなっていること、過去にホメオパシーによる新生児死亡事故が起きており日本学術会議等から強い注意喚起が発出されていることは、広く知られている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?