部屋を彩ると、心も豊かになった。生産性の声に負けないために
ぼくが初めて借りたのは、留学していたときの学生寮。はじめての一人暮らし、1年という期限付きの仮住まいでした。
その部屋はすごく殺風景で、暮らしているうちに少しずつぼくの心も色を失ってしまいました。
でも、好きなもので部屋を彩るようにしたら、ぼくの心も段々と明るく、豊かになっていったんです。
実用性や生産性ばかりじゃなくて、彩りがあることや美しいことが、人生においてとても大切なんだ、と実感した話。
白い壁とIKEAの商品に囲まれた部屋
飛行機の乗り換え込みで、日本から12時間の長旅を経てたどり着いた、オランダ・ライデン。ぼくが1年間の留学をしていた街です。
様々な手続きを終え、やっとの思いでたどり着いた、ぼくのはじめての「自分だけの」部屋はこんな感じでした。(来るときは大変すぎて写真を撮る余裕もなかったので、この写真は退出する時のものです。)
かつては病院だった建物を改修して学生寮にしたらしいその部屋は、窓は大きいけれど、白い壁に囲まれた殺風景な部屋でした。
大学から生活必需品は支給されたものの、本当に最低限のものしかなくて、なぜか全てIKEAの商品でした。スープを入れるようなお椀がないのに、栓抜きやビンオープナーがあるのは、オランダらしさ。
留学生活は1年間の期限付きですし、親の仕送りと大学の奨学金(ぼくは国立大学に通っているので大元は税金)が資金源だったのでお金に余裕がないこともあり、最初は「実用的なもの以外は買わないぞ、無駄遣いしないぞ」と決めていました。
ぼくのはじめての一人暮らし、はじめての海外生活は、そんな白い壁とIKEAの商品に囲まれて始まりました。
申し訳なさと自責の念が頭の中を駆け巡る
ワクワクと不安が入り混じった状態で始まった留学生活でしたが、蓋を開けてみると苦しいことがたくさんありました。
海外での一人暮らしはわからないことばかりで。言葉の壁があるから常に頑張ってコミュニケーションを取らなければいけなくて。授業にも付いて行くのに精一杯で、自分のできなさを常に感じ続けて。頼れる人も相談できる人もいなくて。
でも常に「もっと頑張らないと」という気持ちだけはあって。
身体が重たくなるような、全部投げたしたくなるような気分になる日が少しずつ増えました。
「外に出たくない」
「誰にも会いたくない」
「何もしたくない」
そんな気持ちになってしまう日は、勉強をサボってしまったり、行こうと思っていた飲み会をキャンセルしてしまったり。でも家に一人でいても、心は全く休まりませんでした。
「せっかく留学に来たのに、もったいない」
「友達たくさん作らないと、留学に来た意味ないよ」
「もっとがんばれるはずだろ、俺」
真っ白な壁と、機能的なIKEAの商品が、ぼくにそう語りかけているようでした。
たくさんの人に支えられて応援されて留学に来たのに、という申し訳ない気持ちと、なんでお前はそんなにダメなんだ、と自分を責める気持ちが、ぐるぐると頭の中を駆け巡りました。
ぼくを責める声は、日に日に大きくなっていきました。
何もできなくなってしまった
そんな中でもなんとか、最低限やるべきことはやらないとと思い、授業には出ていたけれど、ある日それがぷっつり切れてしまいました。
授業に出るのを全部やめてしまって、ずっと家にいるように。
家事をする元気もなければ、服を選ぶ元気もなかったので、毎日同じ服を着て、外出するのは近所のスーパーにポテトチップスを買いに行くだけ。
好きな時間に寝て、起きている間はポテチを食べながらYouTubeを見て、また気が向いたときに寝て、という生活をしていました。
自分を責める声は、鳴り止みません。
ある日ふとベッドからベランダを眺めながら、「ここから飛び降りたらどうなるだろうか」と考えてしまうこともありました。
しんどい日々だったなあ、と思います。
少しずつ、部屋に彩りが増えた
なんとか12月末まで耐え切って(本当に「耐え切る」という表現が正しかった)冬休みになったことで、授業に出ていないことを責めるぼくの頭の声は、少し静かになり。
1ヶ月ほどの冬休みを使って、日本人の友達と旅行に行くことにしました。気分転換になればいいなと思っていました。
この旅行の前後から、なんとなく、本当になんとなくなんですが、少しずつぼくの部屋にモノが増えていきます。
旅行先で見つけたポスターや、
気に入ったミッフィーのぬいぐるみ。
最初は「どうせ1年しか住まないし」とか「こんなの23歳の男の一人暮らしの部屋にあるのどうなんだろう」とか思ったけれど、なんとなく「まあいっか」と思えて、気に入ったもの、好きだ!と思ったものは買うようになりました。
すると、少しずつぼくの部屋に彩りが増えてきて。
その一つ一つには、一緒に行った友達や、行った場所の思い出があって。
人との繋がりや場所との繋がりを思い出させてくれる自分の部屋が、段々と好きになり、部屋にいるのが楽しくなりました。
少しずつぼくの心も元気になっていった
部屋に彩りが増えると、ぼく自身もなんだか少しずつ元気になってくるような気がしてきました。
2月にまた大学がはじまり、また授業にも行けるようになり、純粋に楽しい!嬉しい!という気持ちを感じる瞬間が増えるようにもなりました。
友達を自分の家に呼んで、みんなでご飯を食べたりもするようになって。信頼できる、なんでも相談できると思える友達もできて。
もちろん辛いこともあったし、自分を責める気持ちもなくなりはしませんでした。
でも、理想と比べて自分ができていないこと、成長すべきことに目を向けるのではなく、その日嬉しかったこと、できてよかったこと一つ一つに目を向けるようになったんです。
「家の掃除をした、えらい」
「ちゃんと授業に行ったぞ、がんばった!」
「ちゃんと休んだ、素晴らしい」
そんな言葉を自分にかけることで、自分の今の生活に意味があることを認めて、受け入れられるようになりました。
部屋の彩りと、心の豊かさ
部屋を彩ることで、ぼくの心はとても豊かになりました。
ぼくの部屋を彩ってくれたポスターやぬいぐるみは、決して実用的ではないし、生産性もありません。でも、そこには意味や物語がありました。
それが「人生って生産性だけじゃない」「成長しなくても大丈夫」というメッセージを語りかけてくれたんです。
それによってぼくは、生産性のない自分の人生に意味を見出すことができたんだろうな、と振り返って思います。
留学生活でぼくを救ってくれたものたち(プラス帰国してから増やしたものたち)は今もぼくの部屋にあり、相変わらずぼくの日常を彩ってくれています。
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トップの画像は、オランダの花。花も生産性はないかもしれないけれど、彩りを与えてくれるものだから、とても好きです。
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