バックオフィスのタスク管理ツール事情
こんにちは、武内です。
前回のnoteの中でバックオフィスの方々を対象に「業務で使っているタスク管理ツールについて教えてください」というアンケートを実施させていただきました。約1週間で合計58人もの方にアンケートにご回答いただきました。ご協力いただきましたみなさま、本当にありがとうございました。
今回のnoteの中では、そのアンケート結果を共有しながら、バックオフィスのタスク管理ツール事情について考察していこうと思います。
1.従業員規模と担当業務
最初に断っておくと、「バックオフィスにはこういう傾向がある」と語るにはN数としても58件は少ないので、本件のアンケート結果をもって「こういうことが分かった」というような結論を出すつもりはありません。その観点を踏まえた上で、「おそらくこういう傾向がありそうだ」ぐらいの感じで読んでもらえれば助かります。
また、今回アンケートにご回答いただいた方が所属する企業規模で一番多かったのは「50名以下」になります。よって、これからのアンケート結果は「小規模な企業のバックオフィスの事情」にある程度引っ張られた結果になっているかと思います。
規模別での分析も試みてみましたが、すべての企業規模におけるバックオフィスの方の回答を満遍なく集められているわけではないこともあり、企業規模と使用しているタスク管理ツールにおける相関関係は発見できませんでした。よって、回答者には小規模法人のバックオフィスの方が多いですが、このアンケート結果で「バックオフィスのタスク管理ツール事情」の傾向はある程度つかめるのではないか、と考えています。
また、回答いただいた方の担当業務を見てみると、「経理と他の業務を兼務(以降、複数回答ありの項目で複数回答されているものは「+α」と表記しています)」と「経理」の方で80%弱になりますので、このアンケート結果はバックオフィスの中でも、経理業務に携わっている方にやや偏ったものになっている可能性があります。
前述の通り、小規模法人のバックオフィスの方の割合が多いので、兼務で複数担当業務をこなされている場合が多いと推測されます。なお、兼務(+α)の中身は以下の通りです。
2.ツール利用状況
さて、前置きが長くなりましたが、ここから本題である「タスク管理ツール」の結果について共有していきます。
組織で使用しているツールについて、「複数回答あり」にしていたので、1回答1票として集計してみた結果がこちらです。圧倒的な1位はExcel/スプレッドシート、続いて、Asana、Trello、Backlogと続きます。
今回はExcel(ローカルファイル)とスプレッドシート(クラウド上の共同編集)をあえて区別しなかったので、「Excel/スプレッドシート」の中での使い方に様々なバリュエーションがある可能性はありますが、アンケート実施前の仮説としては「Excel/スプレッドシートで色々やりすぎているのではないか」というものだったので、この回答結果でそれをある程度確認できたのではないかと思っています。(このnoteでは以降は単に「Excel」と記載します)
Excelというソフトウェアは本当にものすごく便利だと思うのですが、柔軟性が高すぎるがゆえに、表計算以外の機能でもなんでもできてしまうのがデメリットです。役所の方眼紙状の「神Excel」がその最悪の例ですが、タスク管理をExcelでやるというのも、あんまりいい使い方とは言えません。
Excelは「レイアウトの自由度が高い」からこそ、既存のタスク管理ツールで埋められない部分を対応しているものだと思われますが、自由なレイアウトで作った自己流のタスク管理表は、「タスクが終わったどうか」の管理しかできません。紙でチェックするか、Excel上でチェックするかぐらいの違いしかなく、正規化ができていないので、分析ができません。
ちょうどこのタイミングでCoral・西村さんが「Excel依存がDXを遅らせる3つのワケ」というブログを書かれていたので、ここでも共有させていただきます。
小規模法人であればいいのですが、ある程度の組織規模になり、担当者が複数人いる組織になると、管理不能に陥ります。チームでの共有及びタスクやプロジェクトの管理にExcelは最適解ではありません。このへんに、日本企業のバックオフィスの課題が潜んでいそうですね。
さて、ここからは1社ずつの回答をそのまま集計したものを見ていきます。Excelだけでタスク管理をしている会社が22.4%、Excelと他のツールを組み合わせて管理している会社が25.9%。つまり、今回のアンケート回答企業の半分で、タスク管理にExcelが活用されていることになります。
既存のタスク管理ツールでバックオフィスに最適化したものがないのか、バックオフィスのためにはタスク管理ツールの利用料がもったいないのか。事情は様々だとは思いますが、この回答結果を見て、「バックオフィスの業務管理」という領域には、逆に大きなホワイトスペースがあるというふうに私は感じました。Excelがタスク管理の最適解ではなく、消極的にExcelを選択している場合が多いと考えられるためです。この回答における+αの内容は以下の通りです。
こちらは「会社で使っているツールとは別に個人でタスク管理しているものはありますか」というアンケートに対する回答です。Excelとスマホで個人的に管理している人が多いですが、miroや付箋、slackDMなど「とりあえずメモ」を活用されている人も多そうです。
ここからはあくまでも推測ですが、チームで使っているものとは別にタスク管理を行う背景には、いわゆるシャドウITと同様の事情がありそうです。個々人が責任感と創意工夫を持って、タスクをきちんと管理している、と言えば響きはいいのですが、逆の見方をすれば、会社側からは認識できないところで業務が管理・進行されているということです。
1人バックオフィスであれば仕方がないのですが、ある程度の企業規模になり、バックオフィスがチームで運営されるようになってもこの状態が継続されているようであれば、属人化が進むのは当然です。
チームにおけるタスク管理のポイントは、「備忘録(タスクを忘れない)」は当然ながら「共有(他の人からも認識できている)」が重要です。セールスやマーケティング、開発側の業務管理はそちらの方向に進化してきているはずです。一方で、バックオフィス側のタスク管理状況はいまだに「備忘録」の域から変わっていないように感じます。
チームで使うタスク管理ツール以外のツールは使わずに、タスクの管理・共有が行えること。スマホの普及により、この部分は非常に重要になってきています。
3.まとめ
コロナ禍が1年以上続く中、在宅勤務状態のまま決算作業を対応せざるを得なかった企業はたくさんあったはずです。これまでであれば、「リモートワークで決算などできるはずない」と決めつけて検討すらされなかった企業でも、「どうすればリモートワークで決算ができるか」という観点に変わって、色々と工夫をしたことでしょう。そういう意味で、コロナは日本のデジタルシフトを一気に進めるための荒療治だったといえます。
実際にお話しをお伺いしたわけではないので、記事などで記載されていた情報から断片的に拾った印象にはなってしまうのですが、「リモートワークでどうやって決算対応したか」というインタビューの中で、2つの共通点があるように感じました。
1つ目は「全員のタスクを1箇所に書き出して見える化した」という観点です。決算対応というのはかなりの人数が関わり、かつ、膨大なタスクが存在するプロジェクトです。全員のタスクを可視化して、1箇所で管理する対応はもちろん正しいと思います。
しかし、ここでわざわざこれを強調するということは、裏を返せば「これまでは決算対応のタスク管理をチームでしていなかった(個人の管理に任せていた)」ということではないでしょうか。もちろん進捗状況などは口頭や会議で確認しているのでしょうが、やり方がなんか昭和ですよね。
2つ目はこれらの管理に使っているツールが「Excel」であることです。日々の「あれやる」「これやる」系のタスク管理はAsanaやTrelloなどで、チケット消化的に管理しながら、決算対応というプロジェクト管理となると、ツールの選択肢が「Excel」になってしまうという事実です。AsanaやTrelloでもやってやれなくはないとは思いますが、高い管理スキルとツールの理解度が必要になるので、柔軟性の高いExcelが使われるのでしょう。
Coral・西村さんの記事でも「Excel依存がDXを遅らせる」ということが書かれていますが、これではどんなに会計ソフトや人事労務ソフトが進化したとしても、いつまで経ってもバックオフィスはDXなど不可能です。最新鋭の機械がある工場での点検シートを、紙とペンで行っている(この課題解決についてはKAMINASHIさんが取り組んでいます)のと同じです。
業務をデジタル上にのせていくということは、人間がその場の判断で行っていたことも含めて、言語化し、標準化させていくことが不可欠です。「なんかいい感じで」処理することはシステムには不可能だからです。
バックオフィスに限らず、豊富な労働人口を背景に高度経済成長期を人海戦術で乗り切った日本の現場は、とにかくこの「標準化」が不得意です。標準化や改善サイクルを回すことを意識せず、目の前の業務を終わらせることが目的になってしまうので、備忘録レベルのタスク管理で満足してしまう。これがDXを阻害する最も大きな原因ではないかと私は考えています。
私は過去に、顧客や案件の管理をExcelで行っていたところに、ゼロからSalesforceを導入したことがあります。導入前は現場からは「Excelで十分」「今の状態で困っていない」という反応でしたが、導入から約半年ほどでExcelでは絶対に見えなかった景色が見えはじめ、手のひらを返したように「あのときSalesforceを入れておいて良かった」という評価になりました。
「Excelで十分、ちゃんとやれている」と思っていたのが、実はExcelの限界に引っ張られていたことに誰も気付いていなかった、ということです。本来の目的は「売上・利益の最大化」だったにもかかわらず、それを追求せずにExcelでできる範囲で対応することに満足してしまっていたのです。
Excelが悪いのではなく、無理矢理なんでもExcelでやろうとしたことで、非効率な手作業を多く発生させたり、対応に時間がかかってたくさんの案件を取りこぼしていたりしたのですが、それに気付くことすらできなかったのです。Excel上にあるデータを分析・活用すること困難なので、振り返りや改善もできずに、なんとなく感覚で営業をしていたのです。これが非効率の常態化です。
今回のアンケートでは、多くのバックオフィスで「Excelによるタスク管理」が行われていることが分かりました。私自身の感覚値とも近い数字だったので、アンケート範囲を広げてこの10倍の回答数を集めても同じような傾向が出るはずです。
現在、BYARD(旧:Backyard)という業務管理プラットフォームを開発していますが、最初はもう少し個人向けのタスク管理ツールを作ろうというアイデアを持っていました。それが、SmartHR・宮田さんとの壁打ちを繰り返す中で、「本当の課題はチーム全体での管理にあるのではないか」と考えるようになりました。
そして、「Excelが未だにバリバリ使われている現場こそSaaSによる改善の余地が大きい」というアドバイスもいただいたことで、バックオフィス領域に会計ソフトや人事労務ソフトなどの業務領域でなく、その裏側にある「業務管理全体のコントロール」という領域に切り込むことに決めました。
Salesforce(のSalescloud)は営業のための業務管理プラットフォームであり、営業プロセスに最適化された機能進化を続けており、多くの営業現場ではSalesforceなくしては業務が成り立たないはずです。私たちが作りたいのは、これと同じようにバックオフィス業務の業務プロセスに最適化した業務管理プラットフォームです。
単にタスクが「終わったかどうか」を管理するツールではなく、一連の業務の中での進捗状況や全体の流れが可視化でき、かつ、それらのデータを積み重ねて分析し、改善していくことができるものを目指しています。
これから多くの仮説・検証を繰り返しながら、デジタルシフト時代のバックオフィスにおいて必要な業務管理プラットフォームを提供したいと考えていますので、何卒応援をよろしくお願いします。秋ぐらいにはβ版のご案内ができる予定ですので、発表できる段階になれば、またnoteなどで詳細の共有をさせていただきます。
それでは、また。
ノートの内容が気に入った、ためになったと思ったらサポートいただけると大変嬉しいです。サポートいただいた分はインプット(主に書籍代やセミナー代)に使います。