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Brownies Worksができるまで

このnoteは2019年に立ち上げたサービス Advent Calendar 2019の1つとして書いています。

まだ粗いどころじゃない(Webサイトもない、公式の営業資料もない)けど、とりあえず「リリース」という状態にまでなんとかこぎつけた『Brownies Works』というサービス。現在はプロトタイプ版をご依頼いただいた方に合わせて、多少の微調整をしながらご提供中です。前回のnoteではリリースに向けた想いを書きましたが、今回はどういう風にこのサービスを構築していったのか、について書きたいと思います。

ロジカルではない部分も多いし、「えっ、そんなもん?!」と思われる方もいるかもしれませんが、1つのパッケージとしてサービスに落としていくことの方が重要です。リリースした段階のプロダクトはすべて仮説にすぎないので、それを1つずつ検証して、サービスをブラッシュアップしていく作業の方をとにかく早くやる必要があります。

まだまだ詰めの甘い部分も多いですが、これから新しいサービスを作ろうと思っている人たちの少しでも参考になれば幸いです。

1.ひとりコンサルの限界

2018年12月20日、リベロ・コンサルティング合同会社を登記しました。会社を作って何かをやる、というよりも、個人事業の方が税理士業務以外の比重が増えてきていて、しかも大手企業との取引もあったので、法人があった方が都合がいい、という登記でした。『2週間で会社設立』というスライドのネタになればいいか、ぐらいの軽い気持ちです。

年末から確定申告が終わるまでは、税理士業務の方が繁忙期なので、この会社が本格的に稼働したのは、実質は4月以降です。前述の通り、軽い気持ちで会社設立しているので、当初は「ひとりコンサルを提供するための箱」ぐらいの考えで会社を運営していこうと思っていました。

どうやって仕事を獲得していくかは手探りだったんですが、『MFクラウドとfreeeから1年』というnoteでも書きましたが、自分の発信手段の1つとしてスライドを作るということを継続的にやっていこうと決めたのもこの頃です。SpeakerDeckに公開したスライドとTwitterの投稿が、ありがたいことに色んな人に見ていただけるようになって、名刺交換する際などにも「いつもTwitter見てます」と言っていただけることも増えてきました。

そういう流れの中で何社かご紹介や問合せからコンサル案件が決まり、来る者拒まずでとにかく依頼していただいた案件を全力こなしていました。文字通りひとりコンサルですし、「業務設計」というサービスの性質上、初期段階のヒアリングからシステムの納品や業務フローの切り替えまでお付き合いすることになります。初期段階の設計は僕のコアスキルなのでいいのですが、設計後のディレクションや品質管理まで1人でやっていると、ディレクションをやりながら別案件の設計書を書いて、さらに別の案件のヒアリングして、という形で案件の手離れがないままにどんどんとやることが積み重なっていきました。

色んなところから頼りにしてもらうのは嬉しいのですが、早々に「このままやっていると、コア業務であるはずの設計が満足に出来ない」という風に思うようになりました。そこでチームを組成しようとしてbosyuなどで呼びかけたところ、応募が複数人からあり、チームとして事業をやっていけそうな感じになりました。

そうなると次はキャッシュフローです。自分1人でやるつもりだったので、借入などは全く考えていませんでしたが、弊社で働いてくれる人たちのためにも、キャッシュは厚めに用意しておく必要があります。ここで日本政策金融公庫の「創業融資」を活用することを思い出します。自分でやってもよかったのですが、時間を買う意味でOneWorldさんに支援をお願いして、すぐに融資がおりました。税理士であるわりには、この手の書類仕事は非常に苦痛なので、とても助かりました。

「業務設計」というお仕事はそれなりのフィーをいただくプロジェクト型のコンサルティングビジネスです。きちんとマーケティング活動をすれば、そこそこは受注できるのかもしれませんが、僕1人のキャパはたかがしれてますし、自分で言うのもなんですが、相手の現在の業務を2時間足らずでヒアリングして、現状分析をした上で、システムと業務を同時に設計して、改善していくというコンサルティングは、複数の知識と経験を掛け合わせた高度な作業です。正直これができる人を育てるというイメージは全く持てなかったので、これとは別に「チームとして対応出来るサービス」を作ることをここで考え始めました。

もう1つは、プロジェクト型のコンサルティングは、完全にプロジェクト単位の受注なので、ずっと案件を受注し続けなければいけないという問題があります。せっかくバックオフィス領域を相手にしているので、継続課金型(サブスクリプション型)のサービスを作りたい、という意図もありました。

2.SaaSを使いこなすサービスがあればいい

SaaS使いこなし

完全に行き当たりばったりですが、「バックオフィス領域でなにかサブスク型のサービスを作りたい」ということになりました。このときに「なにか新しいSaaSを開発する」という風には全く考えませんでした。

新しいシステム開発し、それを世に出し、たくさんの人たちの課題を解決する。それは本当に素晴らしいことだと思いますが、エンジニア、マーケター、セールスなどのすべてのピースが揃わなければ成功が難しい世界です。また、freeeやSmartHRなどの素晴らしいSaaSを自分で活用したり、クライアントに導入したりしているので、「これに匹敵するものはちょっと作れないな」と感じていました。

ビジネスの本質は課題解決です。自分の知識や経験を活かせて、そしてバックオフィス界隈で解決されていない課題は何か、について考えていったわけですが、そこで行き着いたのが「バックオフィス領域もバーティカルな専門SaaSが乱立しているが、そもそもSaaSがきちんと使いこなせていない企業が多いのではないか」という仮説です。

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最新のSaaSのカオスマップを見ると、HR、バックオフィス領域だけでもかなりの乱立状態です。さらには、バックオフィス界隈はITリテラシーが高い人の割合が低く、様々なサービスを比較検討するにしてもAsIsToBeがきちんと出せない会社も多いので、まともな比較検討がないまま「入れたけど使えなかった」ということが起こりやすい分野です。

どんなシステムでも同じですが、システムを入れれば全てが解決するわけがないので、いかに機能を理解し、活用していくかが重要なのですが、日々の業務に追われている現場が多いバックオフィスでは、なんとなく使っているまま十分に活用できず「いつか変えたい」が、いつまで経っても実行にうつされない場面もよく見ます。

前述の通り、どういう機能があるかよりも、どう活用するかの方が重要なのですが、各SaaSのCSはバックオフィスのプロではないので、活用についての満足な提案やサポートはできません。もし、サポートができるだけの知識と経験があったとしても、SMB領域のプランでは手厚いサポートなど出来ないので、「それはお客様自身でお願いします」ということになります。そもそもSMBマーケットにおいて、満足にカスタマー・サクセス活動ができるプロダクトは存在しません。活用事例などで見る成功ケースのほとんどは、奇跡的に企業の中にそれが活用できる人がいただけ、ということで、再現性は全くないケースが溢れています。

中小企業の中の人はSaaSを十分に活用することができない、SaaS側も中小企業に対しては活用するところまでは面倒がみれない、ということで、「中小企業でSaaSをきちんと活用してバックオフィスを構築する」という領域には課題が山積みのように見えました。SaaSが活用できる人がたまたま中にいたという奇跡に頼らなくても、複数のSaaSをきちんと組み合わせて、中小企業が本当の意味でSaaSを使いこなせるようにするサービス。それを設計するだけではなく、運用すべてを丸投げできたら、継続的にお金を払ってくれるのではないか、と思いました。

「中小企業に対して、SaaSをフル活用して徹底的に効率化したバックオフィスを構築し、毎月の運用も担う」という形で一応サービスの骨子はできました。メインターゲットは情シスもいないような規模の中小企業です。後はこれをブラッシュアップしていくためにひとりブレストを繰り返します。

3.ターゲットは当時の自分

そんなひといません

一応税理士資格は持っていますが、キャリアとしては税理士事務所で働いた期間よりも、ベンチャー企業のバックオフィスをやっていた方が長いので、まずターゲットにその当時の自分を置いてみました。

ベンチャー企業では日々色んなことが起こるし、事業や環境も物凄いスピードで変化していきます。バックオフィスもいい意味で柔軟に、ルールにとらわれ過ぎずに対応する必要があります。それでも、特に困るのが事業の拡大局面での人不足です。ベンチャー企業は基本的にはずっと人が足りない状態で、通年採用中ではあるのですが、事業規模が拡大すると、とにかく新しい人が入ってこないとニッチもサッチもいかない状況になることがあります。しかし、採用も思った通りにできるわけではありませんし、運良く採用できたとしてもそれなりの教育コストがかかります。また、経験や資格だけではなく、自分でボールを拾いにきてくれるタイプなのかどうかは、面接での見極めは難しく採用自体がギャンブルな要素を含んでいます。

まだまだ無名のベンチャー企業を選んで入社してくれたのにもかかわらず、こちらのフォローやコミュニケーションが不足してしまい、期待に応えられなかったことも多々ありました。すべては僕自身の経験不足、マネージャーとして資質不足に起因することは分かっていますが、やること山積みの中で採用・教育活動はかなりHPを削られます。こういう話はベンチャーの各方面で聞く話なので、きっとみんなも困っているんだろうと仮説を立てました。

よって、これから作るサービスは、このような手間もコミュニケーションコストも徹底的に排除したものであるべきです。一から十まで指示しないと動かないのであれば、正直「自分でやった方が早い」と思うはずです。ビジネス領域で「なんかいい感じにやっておいて」はダメなマネージャーの決まり文句ですが、逆にこれが実現できるサービスであればニーズはきっとあるはずです。

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幸いにも僕の中には「業務設計」でつちかった一定の成功の型があります。ただし、これらの成功条件は、こちらの決めた型の通りにきちんと実行してくれた場合のみです。アメリカのSaaS資料でよく登場する「ベスト・プラクティス」というやつですが、日本ではなかなかこの概念が浸透しません。なぜなら現場がそれを阻むからです。

このような経験則からこのサービスは
・サービスとしてのパッケージをきっちり定義する(ベスト・プラクティスの提供)
・運用は自社で全部手掛ける(現場のリソースは使わない)
・独自のカスタマイズをさせない(ツールも選ばせない)
・その代わり導入スピードとコストメリットを追求する
という形にしようと決めました。

4.代替性を重視した妖精Brownies

Brownies Worksコンセプト

設計だけでなく運用リソースも提供する以上は、ある程度対応者のスキルに依存します。しかし、「人によって品質(対応)が変わる」ようなサービスではスケーラブルではありません。いくつかのサービスで担当者が変わった際にビックリするほど品質が落ちて、ガッカリした経験が何度もあるので、ここをきちんと担保したいと思いました。

そのためには、チェックリスト(Bizer team)とマニュアル(TeachmeBizを充実させて再現性代替性をしっかり担保していくことを重要視しました。最初からガッツリ作り込むというよりも、サービスを提供しながら、これらを何度もブラッシュアップして品質を高めていくイメージです。そのためのPDCAを、サービス構築時に運用フローに組み込むことにしました。

しかし、これだけだとよくあるオンラインアシスタント系のサービスに見えるし、何よりも提供する側がワクワクしません。そこでサービスを象徴するようなキャラクターを作り、そのキャラクターがサービスを提供する、という形で少しポップな感じの要素を付け加えようと思いました。担当者ではなく、キャラクターが窓口になることで、担当者ごとにノウハウをブラックボックス化させずに、代替性のあるサービスにしたい、との想いもありました。

ここで思い出したのは、昔オフィスで深夜に決算作業をしていたときに、誰かがつぶやいた「これ、夜中のうちに妖精さんがやってくれたらいいのに」という一言です。バックオフィスのいろんな仕事をいつの間にかやってくれる妖精を召喚するサービス。コンセプトとして非常にしっくりきました。

妖精がやってくれるバックオフィスのおまかせサービス。Fairly(フェアリー)というのもなんか違うし、イタリア語の妖精(Fata)もちょっと響きがいまいちだな〜と思っていたところに、弊社のスタッフが「ブラウニー(Brownie)という妖精がスコットランドの方にいるみたいだよ」と言って、このWikipediaのリンクを送ってくれました。「ブラウニーは主に住み着いた家で、家人のいない間に家事を済ませたり家畜の世話をするなど、人間の手助けをすると言われる。」という部分もこのサービスの方向性にピッタリだし、「Brownie(ブラウニー)」という響きも気に入ったので、ここで三角帽子を被った妖精のイメージが固まりました。サービス名も「Brownies Works(ブラウニーズ・ワークス)」という形にすぐに決まりました。

基本_レッド

このコンセプトとイメージを伝えて、SACCSYのデザイナーさんからでてきたのがこちらの妖精のイラストです。社内の評判も良かったので、こちらのキャラクターに決定し、ロゴも三角帽子の妖精のシルエットを活かした形で作ってもらいました。

ロゴ_組み合わせ(白背景)

最初は独自システムを一切作らずに、既存のSaaSをフル活用した業務設計で回していくサービスなので、これまでは割とボヤッとしたイメージだったのが、サービス名やキャラクター、ロゴが出来上がることで一気に輪郭を持った具体的なものになりました。

ここからBrownies Worksのサービス資料を作っては、知り合いの人に説明しました。質問がでたり、うまく説明できなかった部分を直して、を繰り返しました。ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。

資料は何度も直しましたが、このサービスのコンセプト自体は概ね好感を持って受け止められたので、伝えたいメッセージやサービスの具体的な内容を固めていった感じです。

そんな中、「ベンチャー企業のバックオフィス」というテーマで登壇依頼をいただいたので、ここで一気に発表してしまおう、ということでできたのでこちらのスライドです。

このスライドやnoteも皆さんからかなりポジティブな反応をいただけたので、まだプロトタイプではありますが、このまましっかりとサービスを作り込んでいきたいという想いを更に強くしました。

5.差別化要因はケイパビリティ

本件に限らず、色んな情報を積極的にスライドなどで発信をしています。時々「そこまで書いて大丈夫ですか?」とご心配いただくこともありますが、全く問題ありません。なぜならば、設計の大枠を見ただけでは、運用を回すことが出来ないからです。

ビジネスモデル

こちらは『新しい経営学』(三谷宏治著)に出てくるビジネスモデルの4要素です。ビジネスをする上で、もちろん全部大事なのですが、バックオフィス領域に限って言えば、3つ目の「ケイパビリティ」、どうやって提供するかが最も重要です。Brownies Worksのコンセプトそのものである「バックオフィスを運用するリソースの提供」自体が重要な差別化要因になると考えています。思いつくこと、ベスト・プラクティスを知ることと、それを実際に実行して、かつ、毎月しっかりと回していくことは全く別次元の問題です。その難しさを知っているからこそ、Brownies Worksはリソースの提供という部分と、個々の企業の独自運用を排除したパッケージ化にこだわりました。

Brownies Worksをこの4要素に合わせて整理すると以下の通りです。
<ターゲット>
(当面は)従業員数50名以下の中小企業
→slackやzoomでのコミュニケーションを考えるとIT系ベンチャー企業がメインの想定
<バリュー>
・コストメリット(Brownies Works人件費+ツール料+採用費・教育費)
・立ち上がりの早さ、現運用との並行稼動が可能
・細かく指示しなくても月次決算がしっかりできる
・効率的なバックオフィスの構築ができる
<ケイパビリティ>
・ITに強いリモートスタッフが運用手順に従ってしっかり運用してくれる
<収益モデル>
・ノウハウの蓄積や裏側の仕組化・自動化を駆使して、運用工数を低減させることで、収益性を上げていく

バックオフィスで働く人たちの間ではあまりノウハウが共有されないこともあり、これまでは非常にベスト・プラクティスが浸透しにくい領域でした。Brownies Worksでは数百社の企業のバックオフィス運用を手掛け、そこで得たノウハウをパッケージにも反映させ、日本におけるITをフル活用したバックオフィス運用のベスト・プラクティスを作り上げたいと考えています。

Brownies Worksを今後スケールさせていくためには、ケイパビリティ、特にリソースの部分が大きな制約条件になってくるはずです。そこは採用や教育体制、品質を担保するための仕組化、大幅な自動化などやるべきことは無限にありますが、まずは中小企業のバックオフィスを構築する際のひとつの選択肢としてBrownies Worksを思い出してもらえるようにすることが、当面の目標です。

紙に埋もれたアナログなバックオフィスから完全に決別した、新しいバックオフィスの形をBrownies Worksというサービスでこれから追求していきます。バックオフィスの妖精・Browniesをよろしくお願いいたします。

また、2020年1月17日(金)にBrownies Worksのリリースを記念したイベントを六本木で開催します。「バックオフィスをSaaSで改革する」をテーマにバックオフィス系SaaS3社にも登壇いただきます。参加いただける方は以下のフォームからお申し込みください。


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