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MFクラウドとfreee 2021

こんにちは、武内です。
先日のfreeeマジカチmeetup(2021/12/17開催)で久しぶりのLT登壇をしてきました。

今回は「"MFクラウドとfreee 2021"というテーマでどこかで登壇させて欲しい」とつぶやいたところ、「だったらマジカチどうですか?」とお声かけいただき実現しました。なお、特に数えていませんが、マジカチでのLT登壇回数は私が一番多いようです。

今回のnoteでは15分というLT時間ではなかなか話すことができなかった「MFクラウドとfreee」というテーマについて、これまで考えてきたこと、今考えていることなどを余すことなく書いてみたいと思います。

1.「MFクラウドとfreee」から3年

「MFクラウドとfreee」というスライドは、2018年10月に数人の経営者の方々の前で私が発表したものです。

SpeakerDecも初めての利用でした。登壇してその資料をSNSで共有しただけです。日々さまざまな登壇スライドがアップされる中で、多くのものがスルーされていく。このスライドもその中の1つになるはずでした。

しかし、それから1週間ほどかけてTwitter上では会計クラスタだけでなく、スタートアップ界隈の方々も含めて、非常に多くのシェアをしていただきました。特にMoneryForward社とfreee社の社内チャットでシェアされたようで、あっという間に数千viewを超えて、想像もしない反響となったのです。

それ以来、このスライドをきっかけにして多くの方と知り合うことができました。freeeマジカチmeetupの運営メンバーの方々と知り合ったのも、このスライドを見た矢野さんにお声かけいただいたことがきっかけでした。

そして、「ITと実務の両方が分かる」というポジショニングをこのスライドをきっかけに少しずつ構築し、いわゆる税務や記帳代行などの従来の税理士業から脱却を図るきっかけにもなりました。「業務設計士」と名乗り始めたのもこの頃です。

当時は「業務改善」という言葉はあっても、「業務設計」という切り口でコンサルティングをしている人はほとんどいなかったと記憶しています。「建物とを作るのに、建築士と大工がいるなら、業務にも設計士がいてもいい」という思いで名付けた「業務設計士」は思ったよりも浸透し、今でも私の代名詞の1つです。

1年経ったタイミングでのnoteにもそんなことが書いてあります。

最初のスライドから3年経っても、私のスタンスは全く変わっていません。多くのところで聞かれる中小企業の「ITツール導入の失敗例」は、ほぼ間違いなく業務設計の不在によるものだと考えています。悪いのはシステムではなく、導入の仕方です。

実務のことが分からないITコンサルタント、ITのことが分からない税理士や経理、それぞれが自らの領域にとどまっている限りはこの問題は解決しません。

そのギャップを埋めるために業務設計士として、何ができるか。この3年間ずっと考えていました。その原点にあるのがこの「MFクラウドとfreee」というテーマなのです。

2.どちらが上かという神学論争

もともと「MFクラウドとfreee」を作るきっかけになったのは「どっちがいいの?」という質問を多くの方から聞かれたことでした。この質問に対する私の答えは一貫していて、「どちらがいいかは会社による」です。3年前のスライドでもそれは明確に記載してあります。

一方で、私自身がスタートアップ界隈の方が性に合っており、お仕事を一緒にする方々のほとんどがスタートアップということもあり、結果としてfreeeを勧めることが多いのも事実です。

会計ソフトの仕組みは今さら説明するまでもないですが、freeeは会計の仕組みを理解した上で、さらには業務や発生・決済などの業務フローを理解しなければいけないため、簿記の知識がある人ほど混乱したり、嫌悪したりします。だからこそ、その仕組みや良さについても説明する機会が多くなっています。

freeeが完璧だというつもりは毛頭ありませんし、言ったこともありません。会計や経営管理領域のソフトウェアは全ての企業に必要なものであり、規模や業種・業態に応じて最適なものは変わります。つまり、「1番いい会計ソフトを教えてください」という問いそのものに意味がないのです。この領域には日本国内だけでも10〜20のソフトウェアが共存するマーケットであり、freeeやMFクラウドがシェア100%になることは有り得ません。

さまざまなところで登壇や記事執筆する機会も増え、少なくない頻度で「1番いいソフト(ツール)を教えてください」というお題をいただきます。その際には(欲しい回答ではないことは理解しつつも)一貫して「それは企業の規模や状況、業種・業態によって異なります。」とお答えしています。

最高の会計ソフトなどというものは存在しません。問いとして立てるべきなのは「自社に(もしくはこのクライアントに)最適な会計ソフトは何か」ということです。

私が3年前に見えていなかったのは、東京×IT×スタートアップという狭い範囲でしか有効ではないソリューションがある、ということでした。この3年で多くの税理士や企業のバックオフィスの方々とお話しさせていただく機会も増え、「freeeが最適とは言えないケース」に対する理解が私の中で一定数たまったこともあり、改めて「あなたにとって、MFクラウドとfreeeはどちらが最適なのか」という問いを考えるきっかけとなるスライドを作ろう、と考えました。

Web上の比較記事はほとんどが機能の星取表だけのアフィリエイト記事であること、freee社やMoneryForward社がそれぞれの競合をお奨めするような記事を書けないこと、税理士でも機能比較ではなく思想やターゲット比較などからの記事は書ける人がいないことなど、フラットな立場でこの2つをきちんと比較することは容易ではありません。

同じ「クラウド会計」という風に世間ではひとくくりにされていながら、ターゲットや世界観などが全く異なる2つのプロダクト。この状況はどちらにとっても不幸ですし、なによりもユーザー側が誤った使い方をし、勝手に幻滅していく状況をなんとかしたいと思っています。

そういうことを考え、2021年版の「MFクラウドとfreee」のスライドを作成しました。(ここからが本題です。前置きが長くてすいません・・・)

3.会計の効率化vs会計処理の消滅

MFクラウド会計は、クラウド上で動作するごく普通の会計ソフトです。豊富なアカウントアグリーゲーションの技術を背景に、とにかく記帳作業を「いかにラクにするか」に主眼を置いて構築されています。

初めてMFクラウド会計を使用した時、銀行口座やクレジットカード明細が連携されることによる記帳作業の簡素化に衝撃を受けました。私が会計事務所で働いていた頃は、受け取った通帳や明細のコピーに物差しを置いて、1行ずつ打ち込んでいましたが、その労力がこれでほぼ消滅したからです。

しかも、人間は数百行打ち込むと必ずいくつかミスをしますが、システム連携なのでミスがありません。本当に「すごい!」と思いました。これがIT革命かと。

それに対して、freeeを初めて触ったとき、使いにくくて仕方がありませんでした。仕訳プレビュー機能もなく、振替伝票入力もできない状態で、個人事業主ならいざ知らず、企業会計でとても使えるイメージは持てませんでした。

先日、東南アジアで活動されている税理士の方がXERO(ゼロ)を使った感想を「仕訳を入力させてくれない」とおっしゃってましたが、私の最初のfreeeに対する感想も同じようなものでした。そこから1年ほどfreeeとは疎遠になったままでした。

(ちなみに、ニュージーランド発のXEROをfreeeは大いに参考にしてプロダクトの初期構築をしたと言われています)

しかし、2016〜2017年頃に再びfreeeを触った際にはUXがずいぶんと改善されており、取引の概念と、それによる入金管理・支払管理の仕組みが非常に実務に即していることが理解できたため、一気にfreeeが好きになりました。

freeeの特徴については、こちらのスライドにまとめているので、よろしければご参照ください。

取引の概念、リアルタイムでの経営管理、これこそfreeeの真骨頂であり、MFクラウド会計をはじめとする他の会計ソフトにはないものです。会計ソフトではなく、経営管理のために活用するソフトを探しているのであれば、日本では他に選択肢はありません。

一方で、経理と経営管理を別物だと考えている中小企業にとっては、やや過剰な機能であり、既存の経理の仕組みをすべてバラして再構築する必要がある点は、導入の難易度が高いと言えるでしょう。

MFクラウドとfreeeのターゲットの違い

これから経理や経営管理の仕組みを構築していくスタートアップにとっては、freeeに合わせて仕組みを構築していくことは合理的ですが、経理を作業だと考えている中小企業の経営者にとっては先進的過ぎる考え方です。

少し前までは、私も「freeeが提唱する仕組みに合わせるべき」と思っていましたが、業態・業種によっては必ずしもそれがベストではない場合や、ドラスティックに変えることがかえって現場の機能不全を引き起こしてしまうケースにも遭遇し、あらためて、MFクラウドとfreeeはまったく違うターゲットを想定しているのだと思うに至りました。

既存の経理のやり方や、請求・支払管理を維持したまま、会計ソフトだけをfreeeにする、というのが最悪の意思決定です。freeeを導入すれば魔法のように近代的な経営管理ができるわけではなく、freeeの思想を理解し、最適化した業務プロセスに再構築できなければ無用の長物になりかねません。

決済情報は銀行口座やクレジットカード等との連携によって取り込めますが、これと対になる発生情報をいかにタイムリーに把握し取り込むかがカギです。売上にしても費用にしても、決済が行われる前には取引が発生しているはずであり、これらをタイムラグなく認識する仕組みや業務プロセスがあってこそ、freeeは経営管理に寄与します。

「経理は税理士先生にすべてお任せ」と言っている中小企業の経営者との相性は最悪ともいえる思想です。私自身はそういう企業と顧問契約を結ぼうとは思いませんが、まだまだこういう企業が多いのも事実です。

外部からそういう経営者の考え方を変えるのは難しいですし、税理士やコンサルタントができることは支援でしかないので、求められてもいないことを強制することもできません。そういう企業にfreeeを進めるのは無責任とも言えるでしょう。

一方で、経理知識がない個人事業主やスモール企業の経営者にとっては、freeeに経営管理情報を集約することでタイムリーに情報を把握でき、未入金等も素早く対応できる強い味方です。スタートアップのように将来のEXITを考える必要がないのであれば、多少の間違いがあっても自己責任で済む話ですし、実務の流れに即したUXは理解しやすいはずです。

MFクラウドとfreeeのアプローチ

従来の会計ソフトをクラウドに最適化したMFクラウド会計と、経営管理という観点から業務プロセスや会計処理のやり方も含めて再定義したfreee会計。思想、アプローチ、ターゲットを丁寧に整理すればするほど、まったく重なるところがないほどキレイに分かれています。

「会計ソフト」という風にくくってしまうと同じカテゴリーに入っているように感じますが、何のために利用するのか、自社にとってどちらが最適なのかを考えれば、自ずと答えは見えてくるのではないでしょうか。機能の星取表で比較することだけはやめて欲しいと思います。

4.自ら選択する

クラウド会計の代表格であるMFクラウドとfreee。事務所のWebサイトに両方の取り扱いができる旨を掲げるところは多いですが、顧客によってどちらが最適かを見極め、提案・支援ができているところは本当に一握りしかありません。

freeeのアドバイザーランク★4にもかかわらず、担当者がまったくfreeeを使いこなせていない事務所がある等のご相談もよくいただきます。そろそろアドバイザーランクの仕組みには、UberやAirbnbのようにクライアントからの評価も取り入れて欲しいものです。

今回のマジカチmeetupは税理士・会計士の人達向けのイベントだったため、「どちらの顧客と取引したいか、どちらを極めたいか、選択せよ」というのを最後のメッセージにしましたが、これは企業にとっても同じです。

freeeはすべての企業にとってのベストプラクティスではありません。先進的なイメージに期待を膨らませる前に、業務プロセスの再構築ができるのか、また取引先や商習慣も含めてfreeeに情報を集約することが可能なのかを熟考しなければなりません。

freeeの方が優れているわけではありません。freeeは思想を理解し、正しく使わなければ真価を発揮しないツールなのです。通常の会計ソフトには簿記や会計の原理原則を理解していれば、そこまで逸脱した使い方にはならないのですが、freeeはまったく違う考え方で作られていることを理解しなければいけません。

私はスタートアップ側の思考なので、freeeのオープンプラットフォームな考え方が好きです。しかし、これは優劣ではなく趣味嗜好の世界です。オープンプラットフォームよりも、クローズドな同一プロダクト間の連携の方が適したケースも多数あると思います。

MFクラウドとfreeeを機能の星取表で比較しないでください。なんとなくのイメージで決めないでください。ましてや、「税理士先生がこっちがいい(こっちしか対応できない)というので」という理由で、自社の経営管理の中枢に使うツールを安易に選択しないでください。

自社のことは経営者が一番理解しているはずです。freeeの思想に共感するなら、強い決意を持って業務プロセスを再構築し、経営管理のための体制を構築しましょう。一方で、freeeほど先進的でなくてもいい、もしくは、業界的に難しそうと思うなら、MFクラウドもしくは他の会計ソフトを選択しましょう。

顧問税理士がそれについてこれないならば、顧問税理士を変えればいいだけの話です。現在の顧問税理士が対応できるものの中から会計ソフトを選ぶというのは、順序が逆です。

税理士やコンサルタントはあくまでも支援者です。あなた自身のこと、自分たちの会社のことです。経営管理のために最適なのはどちらなのか、自ら徹底的に考え抜いて選択してください。

5.業務の棚卸しと運用のPDCA

最後に、宣伝です。現在、バックオフィスのための業務フロー作成・運用ツールを開発しております。

バックオフィスの業務フロー再構築やツールの導入支援をやってきた中で感じた最大の課題が、「自分たちがやっている業務を共有し、進捗管理していく最適なツールがない」ということでした。

Excelやタスク管理ツール、プロジェクト管理ツールなどを使って無理矢理やりくりしていますが、ほとんどはきちんと運用できていません。マネジメント側からも何がどうなっているかが見えないため、適切なマネジメントも行われていません。

結果として、どんな最新のツールを導入してもそれらの運用は属人化し、引き継ぎのリスクを抱えることになります。AIや自動化よりも遙かに以前の問題です。何がどうなっているかを定義出来ていない業務など、デジタル化できるわけがありません。

バックオフィスの本当の課題は、どの会計ソフトを選ぶか、人事労務ソフトや給与計算ソフトをどれにするか、以前のところにあると感じました。

自社にとって最適な業務フローは、自社でPDCAを回しながら見つけていくべきだ、という思想で構築したツールになります。どこかに最高に業務フロー(答え)があるということはありません。

細かい要素が積み重なり、法律や慣習の影響を強く受けるバックオフィスの業務は、「DX!」を叫ぶ前にまず自らの状況を可視化し、適切に改善していくべきです。


「MFクラウドかfreeeか」という神学論争の結論がでないのも、自社の業務フローが可視化されておらず、誰が何をどのようにやっているかの全体感をマネジメント側が把握していないからではないでしょうか。

その課題を解決するために、業務フローの可視化+進捗管理というアプローチで、かつ、業務フローをずっと改善し続けられるツールを開発しました。2022年1月中旬ぐらいからオープンβ版をお試しいただける予定ですので、業務フローの最適化や進捗管理・共有に課題を感じているバックオフィスの皆様はぜひお試しいただければと思います。

2022年は日本のバックオフィスが効率化するために、バックオフィス自らが業務設計ができる武器を、このBackyardを通じて提供していきます。何卒よろしくお願いいたします。


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