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十八話「ツチノコの話」

「当時、全国的にブームだったもんですから・・・」


 Uさんが小学生の頃、友達にAという男の子がいた。

 明るく、無邪気で無鉄砲で、他の同級生を取りまとめる典型的なガキ大将だった。


 当時のブームに乗っかり、近所の山で『ツチノコがでた』という噂を根拠に、みんなでツチノコ狩りに出かけることになった。


「みんなガキだったこともあって、バカばっかりでしたよ」


 日曜日の昼間。

 待ち合わせの公園に集まると、Aくんの姿がなかった。

 彼を待っている間に、それぞれの装備を確認したところ

 ・虫あみ
 ・双眼鏡
 ・護身用バッドとグローブにボール
 ・撒き餌にしてもツチノコが食いつかなそうなお菓子

 などなど、そんなものばかり。

 そして肝心の『捕まえたツチノコを保管するもの』が一つもなかった。みんなが虫かごでも取りに帰ろうか考えていると、Aくんが遅れてやってきた。


「頭がいいのか悪いのか分からないけど、家が八百屋だったAはダンボールを抱えながらやってきたんですよ。おそらく盗みだすのに時間が掛かってたんですね」

 Uさんは、鼻で笑いながらも、どこか懐かしそうに、そういった。


 装備もメンバーもそろったので、さっそく目と鼻の先にある小山へと一行は向かっていった。


 しかし、残念ながらそう簡単にツチノコが見つかるわけではない。

 時間だけが無意味に過ぎていき、最初はやる気マンマンだった彼らも、次第に飽きてしまい、他の遊びをしだす者や、撒き餌に使うはずだったお菓子を食べ始める者など出てきた。

 そんななかでも、UさんとAくんだけは一心不乱にツチノコ探しに精を出していた。

 どんなに服が汚れようが、腹が減ろうが、お構いなしだった。


 そして、日も暮れ始め、そろそろ帰ろうと他のメンバーがぐずりだし、Uさんも(今日はここまでか)と諦めた・・・そんなときだった。


 草むらからAくんが

「おった!おった!おった!」と歓声を上げながら飛び出し、そのまま手に抱えていたものを、空のダンボールに放り込んだ。

 いままで帰ろうムードだった全員が、「なんだなんだ」とダンボールの中を覗き込む。




 次の瞬間には、みんなが山のふもとの、集合場所にした公園にいた。

 状況を飲み込めず、みんながパニックになっていると、誰かが言った。

「おい、Aはどこにいった?」

 奇妙なことに、あのナニカを抱えてきたAだけがいなくなっていた。

 それから公園を探し回り、小山を探し回ったが、ダンボールもAも見つからない。

 日が完全に暮れて、大人たちに「Aがいなくなった」と話をすると大騒ぎになった。


 それから大人たちが捜索にあたったが、結局Aくんが見つかることはなかった。

 そうして、ツチノコブームは去り、Aくんも見つからないまま時がたち、いつの間にかAくんの家族は店を閉めてどこかに行ってしまった。

 Uさんら他のメンバーも上京したり、引っ越したりで、いまでは、Aくんをはじめ子供が時々いなくなる小山だけが、地元に残った。


 以下は大きくなったUさんが、当時、捜索にあたった大人から聞いた話である。


 Aくんが行方不明になってから数日後。山のふもとのあの公園で、彼が持っていたと思われるダンボール箱が見つかった。それはガムテープを何重にも貼って密封したものを、鋭利な刃物で切り開いた空の状態で発見された。


「あのとき、いったいAはなにを捕まえたんでしょうか」

 Uさんはそう話を締めくくった。