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六十八話「奇譚-その12-」

その1

Uさんが連れ合いと一緒に、ある心霊スポットに忍び込んだときのこと。

ある一室の扉を開いたところ「ギィィィーーーーッ!」と大きな音が出た。明かり一つない暗闇が露になると、
そのまま天井の方から「ぺった!ぺった!ぺった!ぺった!」と音が近づいてきたので、Uさんら一行は声をあげて逃げ出したという。

「だってその『ギィィィーーーーッ!』も、『ぺった!ぺった!ぺった!ぺった!』ってのも、全部その部屋のなかから聞こえた人の『声』だったんだわ」

いまでもUさんは、あのときソレが明かりのもとまでやって来ていたら自分たちはどうなっていたのか、ときどき考えてはゾッとするそうだ。



その2

深夜、Hさんが近所のコンビニにふらっと買い物しにいったときのこと。

自動ドアが開き、暗闇から明かりに溢れる店内に一歩足を踏み入れると

「いらっしゃいませ~」

・・・と、若い女性の声がレジカウンターの方からした。

レジをみても店員は一人もいない。
商品棚のまえで品出しをしている店員は、皆どこからどうみても男だった。

なんの変哲もない「いらっしゃいませ」の一言だったが、Hさんは声をかけられてから鳥肌と寒気が止まらなかった。
気味が悪くなり、なにも買わずに帰ったという。





その3

Sさんが電車に乗っていたときのこと。

なんとか座席を勝ち取り、肩をすぼませつつ鞄からある怪談本を取り出した。

パラッと本を開くと、その本のなかでも「たいしたことのない話」のページが広がった。

それをかいつまんで紹介すると
「妖怪じみたものに出会う、発狂する・・・というのを体験者の知り合いから又聞きした、どこか作り話めいた怪談」であった。


すでに読んでいた話だったので、自分に聞こえるか否かの小さな声で「もう読んだ」・・・と倦怠感のこもったぼやきをSさんは漏らした。


「まだ、うとらんよ」

自分の耳元、後方から嬉しそうな声でそう囁かれたという。



※画像はお絵描きばりぐっどくんより
「闇のなかで囁く暗闇」


奇譚-『声』-
 各原題『オノマトペ』『いらっしゃいませ』『いる』