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“オープンイノベーション”が中小企業の生き残り策(その7)♬~音楽とテクノロジーの密接な関係~♬

コロナの影響は、一部の限られた業界を除けば、ほぼ全ての国や産業が大きな打撃を受けた。

顕著な例として、観光業界・飲食業界、交通産業・娯楽産業、これからは他の多くの業界に甚大な影響を及ぼすのは必至である。

音楽業界も例外ではなく、ライブイベントの開催できないという外部環境変化は、音楽業界全体に大打撃を与え復活の見通しは全く見えていない。

テクノロジーの発展の都度、変化を余儀なくされてきた音楽業界の考察は、あらゆる業界における今後のビジネスモデル展開のヒントになるはずだ。

『“音楽”はどうやって人に伝わっていったのか?』

『テクノロジー進化によって“音楽産業”にどんな変化を与えたのか?』

というポイントで論じてみる。


1.楽 譜


人に“音楽”を伝えていく方法は、人が演奏しているのを聴いて、真似して記憶し、口で人に伝えるということを繰り返していたはずだ。

伝言ゲームなので、聴いたことを正しく理解し、次の人に正しく伝えるというのはとても難しい。

単純な旋律ならばまだしも、規模が大きくなっていったり、旋律が複雑になっていったりする、正しく記憶することが難しくなってくる。

そこで、後から見返してもわかるように、文字や記号を使って書き記していったというのが“楽譜”の始まりだ。

ベートーヴェンの頭の中で描いた楽曲を“楽譜”に起こしたことによって、200年後の人が演奏しているのだから凄い。


<Viewpoint1>

『会社の経営ノウハウは経営者の頭の中に入っているだけで、その“ノウハウ”が後継者に伝わっていない』

というのが、中小企業において事業承継が上手くいかない理由の一つと言われている。

作業方法は文章や図でのマニュアルで伝えていくのは可能だろうが、“ノウハウ”は個人の感性・感覚・センスといった文章化が難しい。

この“ノウハウ”の伝承には、音の高低、早さ、ニュアンスが伝えられる“楽譜”のようなモノがあれば比較的簡単になるのかもしれない。

“楽譜”と言えば、“音符”や“記号”が組合わさって作られた『五線紙』が思い浮かぶが、音楽により様々な楽譜が存在する。ギターなどの『タブ譜』、打楽器などの『一線譜』などもある。

これからの時代は【動画】+【各社の楽譜】が“ノウハウ”を伝承していく方法だろう。

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2.記録媒体(レコード~CD~MD)


① 1877年: エジソンが初代蓄音機「フォノグラフ」を発明
② 1887年: 円盤式蓄音機「グラモフォン」が誕生

このテクノロジーが【レコード】という音楽メディアとして標準規格化。


③ 1920年頃~ ラジオの普及により【レコード】は絶滅寸前

ラジオの普及によって大衆の行動変容が起こり、“音楽”はラジオで聴くようになった。
(ラジオのメリット1) 無料で聴き放題
(ラジオのメリット2) 音質も【レコード】より良い


④ 1940年頃~ ジュークボックスの流行によってレコード復活

(レコード復活理由1) ジュークボックス自体の普及
(レコード復活理由2) 酒場のジュークボックスでかかった曲がヒット

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⑤ 1964年~ コンパクトカセットが標準規格に

オランダのフィリップス社が「コンパクトカセット」を発売。
フィリップス社は、各国のメーカーに対し「コンパクトカセットの仕様を変えないこと」を条件に、技術を無償で公開。
これにより、【カセットテープ】が標準規格になった。


⑥ 1979年7月1日:ソニーが【ウォークマン】を発売し爆発的ヒット


⑦ 1982年~ ソニーとフィリップス社が【CD】開発

当時は、ほとんどのレコード業界関係者は反対の立場を表明。

(反対理由1) 【CD】生産ラインは新たな設備投資に莫大な費用がかかる
(反対理由2) デジタル化によって同程度音質でのコピーが容易になる

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⑧ 1992年~ 【MD】誕生

⑨ 1996年頃~ 【CD-R】誕生

⑩ 【MP3】の登場


<Viewpoint2>

記録媒体の進化によって、簡単に誰でも“音楽”を録音できるようになったことで大衆の行動変容が起きた。

⑤⇒⑥ 
【カセットテープ】によって、『場所を選ばずに外界と遮断されて自分一人で好きな音楽を聴く』という【ウォークマン】に結び付いて “リスニングスタイル革命”となった。

⑦以降デジタル化によって
★ 1984年~ 【CD】の売上がレコードを追い抜く
★ 1980年代後半から1998年を頂点とした“CDバブル”到来。
ミリオンセラー【CD】が多く生まれ音楽産業は隆盛を極めた。

カセットテープ対応の【ウォークマン】も、【CDウォークマン】 【MDウォークマン】と進化していく。

【MP3】の登場は、音楽を聴くプレーヤーの変化だけでなく、 【インターネット×MP3】によって世界中の変革が起こった。

オリジナルと同音質のコピーが誰でも簡単にできることから、音楽や映画などのコンテンツの海賊版が出回るという社会問題をも生み出した。

1999年【Napster】(サーバーを介さずにクライアント同士でファイルの送受信が出来るシステム(P2P)を利用したファイル共有ソフト)誕生によって、海賊版の拡散を加速させ、音楽業界と【Napster】は裁判沙汰になり、【Napster】の敗訴~サービス終了になった。

【ウンチク】 世界初のCDアルバムは?

ビリー・ジョエル『ニューヨーク52番街』だという説がある。

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《 私 見 》

【Napster】のサービス終了は、既存の既得権益でこり固まっている社会を破壊する側のスタートアップ企業と、破壊される側の大企業が手を結んで何かを達成するのは至難の技と思わせる事案だ。

【CD】発売当初、レコード会社が反対したのも【老害】だろう。

『大企業なのだから優秀な社員だ。イノベーションを生み出すのは自分たちであり、自分たちがやらねばならなくて、自分たちだけできる』

という大企業の“驕り”“自惚れ”が、イノベーションを阻止している要因だ。


3.スティーブ・ジョブズ(Apple)音楽業界参入


① 2001年1月「iTunes」スタート。10月に「iPod」発表

② 2003年~ 【iTunes Store】楽曲のダウンロード販売開始

③ 2005年~ 日本でリリース~Windows機にも対応可

④ 2007年~ 【iPhone登場】~スマホで音楽を聴く時代へ

<Viewpoint3>

【iTunes Store】はMacでのみ展開開始。Macのシェアは3%。

スティーブ・ジョブズは、メジャーレーベルに

「Macのシェアは3%。失敗したとしても取り返しはきく」

という文句でメジャーレーベルを口説き落とした。


【iTunes Store】はアメリカでリリース後、たった1週間で100万曲ものダウンロードを記録。
それまでの全てのダウンロード販売の累計数を一気に超える。

スティーブ・ジョブズの“イノベーション”は、語るまでもない大偉業だ。

【ウォークマン】によって【iPod】が生まれことは

“イノベーション”の源泉の1つは“知”と“知”の組み合せ

ということを教えてくれた事案だ。

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4.ストリーミングサービス -定額制型音楽配信サービス時代へ


① 2008年~ 【Spotify】誕生~海賊版サイトが激減

② 2015年頃~ 大手IT企業が音楽ストリーミングサービス事業に参入

③ 2020年【CD】は、音楽業界で最も売上が少ないカテゴリに


<Viewpoint4>

【Spotify】というもスタートアップ企業が、大手企業の悩みである“海賊版サイト激減”を解決した“イノベーション”。

この“イノベーション”によって、大手IT企業(Google Play Music Amazon Prime Music AWA LINE MUSICなど)が、音楽ストリーミングサービス事業参入したことによって、現在の音楽業界売上の60%がストリーミングサービスとなった。

2020年9月10日の 全米レコード協会は

『米国内の“レコード”の売り上げが30年以上ぶりにCDを上回った』

と音楽業界売上データ中間報告をした。

コロナ禍によってレコード取扱店が【レコード】をネットショッピング市場に放出したことも大きな要因と思う。

【ウンチク】マイケル・ジャクソンのアルバムで1982年12月1日に発売された。レコード・CDとして歴史上最も多くの売り上げを記録した作品


5.総 括


人が創造した“音楽”は、テクノロジーの進化とともに【伝える方法】【聴き方】が変化していった。

そのマーケット変化によって、既存企業が潰れ、新しい企業が誕生するという新陳代謝に繋がっていく。


原点に帰って
「音楽は最初、どこで聞くのか?」
を考えてみた。

『テレビやラジオ、街中でのBGMで“無料”で音楽を聞き、“有料”の【レコード】【CD】を買い、“有料”ライブに行く』

というのが、音楽業界の基本的なモデルだった気がする。


しかし、コロナによる巣篭り生活のBGMは、音楽ストリーミングサービスを使っていた。

スマートスピーカーに向かって「お洒落なR&Bかけて」と言えば、誰の何という曲なのかも知らないが素敵な音楽を勝手に聴かせてくれる。

【CD】⇒【音楽配信】⇒【音楽ストリーミング】そして“スマートスピーカー”というテクノロジーの進化は、消費者の“使い勝手”という【消費者視点】に立っている。

従来型の「“音源”の販売ビジネス」への拘りは“衰退”を意味する。


音楽は「聞く」だけではなく、「体感する」という側面もあるので“ライブイベント”が活性化し、最大の収入源となっていき、ライブ会場で販売するアーティスト関連商品「物販」も、動員の増加に比例して大きくなっていった。

コロナによって“ライブイベント”ができなくなり、 “オンライン配信イベント” “リモート合同演奏”といった新しい表現方法へ舵を切ったが、“熱量”が伝わらないというデメリットは解決できない。


音楽産業も他業界と同じで、“オープンイノベーション”で新しい道筋を見つけるべきだ。


音楽は、“感動” “感激” そして “感謝”を伝えることができ、人と人の関わり合いがより豊かにできる本質は不変だ。

先の見えない時代だからこそ、音楽が持っている“エンパワーメント”を他業界は絶対に活用すべきと私は考えている。


The Rolling Stones perform "You Can't Always Get What You Want" | | One World: Together At Home


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