【院試解説】令和元年度 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 9A (2)
こんにちは やまたくです。
今日は院試解説の第四弾として
令和元年度 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 9A (2)
を解いていこうと思います。
著作権上の都合から、問題は大学ホームページのリンクからダウンロードしてください。
① 重合触媒の性質に関する問題
Ziegler-Natta触媒は1953年にドイツ出身のカール・ツィーグラーにによって発見されたもので、その後、イタリア出身のジュリオ・ナッタが改良しプロピレンの重合に成功したことが知られています。その功績が認められ二人には1963年、ノーベル化学賞が贈られています。
通常、四塩化チタンor三塩化チタンとトリエチルアルミニウムのような有機アルミニウムと混合して調整されるため、不均一系触媒として知られています。
一方で、メタロセン触媒は1980年にドイツ出身のウェルター・カミンスキーによって開発されました。
二塩化ジルコノセンとメチルアルミノキサンを組み合わせた触媒で一般に、均一系メタロセン重合触媒 (カミンスキー触媒) と呼ばれています。名前からもわかるようにメタロセン触媒は均一系触媒で、高分子量かつ均一度 (タクティシティ) の高い構造のポリマーを作ることができます。
以上のことから
a:不均一系
b:均一系
よって正解はイです。
② ポリプロピレンの立体規則性に関する問題
置換基を持つようなビニルモノマーの重合では主鎖に不斉炭素が誘起されます。
・全ての不斉炭素が同じ配置のポリマーをイソタクチックポリマー
・不斉炭素が交互に同じ配置をとるポリマーをシンジオタクチックポリマー
・不斉炭素の配列に規則性がないポリマーをアタクチックポリマーと呼びます。
したがって正解は
c:イソタクチック
d:シンジオタクチック
③ポリオレフィンに関する正誤問題
カについて:
エチレンのラジカル重合は常温常圧の温和な条件では殆ど進行しないことが知られています。そのため、高温高圧条件 (300 ºC, 2000 気圧) での重合が必要となりますが、フリーラジカルの転移反応が原因で多くの分岐を有し、結晶性の低い低密度ポリエチレン (LDPE:low density polyethylene) が得られます。
キについて:
Ziegler-Natta触媒は立体特異性重合を実現しましたが、連鎖移動反応が生じないと言うわけではありません。実際にはポリプロピレン合成の場合、β-水素脱離やモノマーへの移動、触媒であるEt3Alへの移動等が生じます。
クについて:
Ziegler-Natta触媒の開発により常温常圧での高密度ポリエチレン (HDPE:high density polyethylene) の重合が可能となりました。高密度ということは分子が密に詰まっていることを意味するので光が散乱し乳白色になります。
逆にラジカル重合で合成されるポリエチレン は分岐が多く低密度となるため光を透過し透明性が高くなります。
ケについて:
メタロセン触媒はシングルサイト触媒であるという特徴を有しています。そのためエチレンとともに、1-ブテン、1-ヘキサン、4-メチルペンテン-1、1-オクテンのような α-オレフィンを数%共重合させることにより短鎖の枝分かれを導入し直鎖低密度ポリエチレン合成が可能となります。
直鎖状低密度ポリエチレンは、低密度ポリエチレンよりも強靭で、高密度ポリエチレンと異なり透明という性質を持っています。
以上のことから
カ:正
キ:誤
ク:誤
ケ:正
よって正解はカとケとなります。
終わりに
今回の問題はいわゆる知識問題が多かったように思います。ただ、いずれも超有名問題ばかりだったので苦労した人は少ないでしょう。
個人的には③のような正誤問題は苦手で、特に全て選べみたいなタイプの問題は消去法が使えないのが辛かったです。笑
質問やコメントがあれば残していってもらえれば嬉しいです。
(この記事は100%合っていることを保証する解答ではないので間違いがあるかもしれません。もし間違い等があればコメントで教えて頂ければ幸いです)