第5回 これまでのアカデミー作品賞は納得か!? 個人的な好みだけで検証してみた。【1979年〜1970年まで】
どうも、こんにちは。
アカデミー賞大好き芸人のトマトくんです。
では前回、前々回に引き続き、これまでにアカデミー賞(作品賞)を受賞した作品に「妥当性はあったのか」、「その判断は正しかったのか」について、個人的な見解のみで語っていきます。
何度も言いますが、これは「ぼくのかんがえたさいきょうのアカデミー賞」。トマデミー賞です。僅かながらネタバレに触れている可能性もあるので、未見の方は気をつけてください。
今回は1970年代。時代はアメリカン・ニューシネマ。ベトナム戦争はもちろんのこと、ウォーターゲート事件やオイルショックなど世界的に大きく歴史の動いた10年間です。
僕はまだ生まれてないので、ほとんどが「憶測」や「現代から見た作品の影響力」などで語ることになりますが、ご了承ください。
今回は1979年から1970年までの10年間を見ていきす。早速1979年から行ってみましょう。
第52回(1979年)
作品賞 ノミネート一覧
☆クレイマー、クレイマー
- オール・ザット・ジャズ
- 地獄の黙示録
- ヤング・ゼネレーション
- ノーマ・レイ
この年は、『地獄の黙示録』と『オール・ザット・ジャズ』がそれぞれカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、その2作品がノミネートされたことで話題となった年。個人的にも、この年のノミネート作は結構好きな作品が並んでいて最高の年ですね。
そんな中で作品賞を受賞した『クレイマー、クレイマー』は、離婚や養育権など現代にも通ずる「当時の社会問題」をテーマにして描かれたホームドラマ。これらの名作たちを打ち破って作品賞のみならず、監督賞や、脚色賞、そしてダスティン・ホフマンが主演男優賞、メリル・ストリープが助演女優賞を受賞した。
メリルの受賞は助演とはいえ、ほぼ主演のような立ち位置。これは事実上「主要5部門を制覇」したのと同じようなもの。つまり快挙だ。
しかも、息子役のジャスティン・ヘンリーは、史上最年少で助演男優賞にノミネート。受賞こそできなかったものの強烈な印象を与えた。この通り、『クレイマー、クレイマー』は当時の賞レースにおけるバケモノのような映画で、作品賞を受賞することには誰も驚かなかった。
対抗馬の『オール・ザット・ジャズ』は、1973年に『ゴッドファーザー』を押しのけて最多9部門受賞した『キャバレー』の監督 ボブ・フォッシーによる自伝映画。自らの死期を悟って死に物狂いで作り上げた作品で、彼の集大成でもある。
派手で独創的な演出とカメラワークが、ボブ・フォッシーという男の人生を狂気的に描く。「死」という概念をSHOWとして落とし込んで、それをエンターテインメントに組み替える能力がとにかくもうやばい。良くも悪くもかなりラリったような映画だけど、そのクオリティはほぼ完璧だった。
また皮肉にも、第三の対抗馬は『ゴッドファーザー』シリーズを手がけたフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』であった。今この瞬間も「映画史に残る戦争映画の傑作」としてよく名前のあがる本作だが、当時は数少ないベトナム戦争映画で、その先駆け的な存在でもあった。
もちろん素晴らしい作品ではあるのだが、とてつもなく恐ろしく、なおかつ衝撃的で、しかし美しい映像が2時間半ずっと続く。つまり芸術性が高すぎるゆえにエンタメ性が薄くなってるのが気になる。
それに過去に『ゴッドファーザー』と『ゴッドファーザー PERT II』で2度作品賞を受賞しているので、3度目ともなると流石にそのハードルは高い。
残りの『ヤング・ゼネレーション』は脚本賞を、『ノーマ・レイ』はサリー・フィールドが主演女優賞を受賞。然るべき部門をしっかり受賞できているので、作品賞まで与えなくても…という感じはある。
ここで惜しくもノミネートを逃した『チャイナ・シンドローム』を忘れてはいけない。本作は「原子力発電所の事故」をテーマに描いた作品で、なんと映画が公開されてからわずか12日後に、ペンシルバニア州スリーマイル島で本当に原子力発電所事故が起こってしまたいわく付きの作品。
それをきっかけに「予言だ」「陰謀だ」「模倣犯だ」と全米で大きな話題を呼び、それまであまり知られていなかった「シンドローム(症候群)」という言葉を流行語にさせた経緯がある。
まさに時代を象徴する素晴らしい映画であり、高い評価を得たにも関わらず、アカデミー賞では4部門のノミネートに留まり、作品賞にはノミネートされず物議を醸した。時には「真実を描きすぎた映画だ」とも言われた。
まあ正直僕は『チャイナ・シンドローム』はあんまりハマらなくて、ノミネート作には名作が並んでいるのでこの結果は納得。正直『クレイマー、クレイマー』がある以上、どのみち作品賞は獲れていなかったと思う。
この年なら個人的にはリドリー・スコットの『エイリアン』が一番好きなんだけどなあ。SFホラーというジャンルのせいで、まさかの視覚効果賞と美術賞のみのノミネート…。視覚効果賞では受賞できたけど、なんだかなあ。
というわけで、『クレイマー、クレイマー』の作品賞受賞は納得の結果となります。
第51回(1978年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ディア・ハンター
- 帰郷
- 天国から来たチャンピオン
- ミッドナイト・エクスプレス
- 結婚しない女
この年は、ベトナム戦争を題材にした映画『ディア・ハンター』と『帰郷』が、それぞれ9部門と7部門でノミネートされたことが話題になった年。
公開当時『ディア・ハンター』は、ベトナム戦争においてアメリカ人を被害者のように描き、ベトナム人に対する差別的な描写が多いとして、アメリカ復員兵およびベトナム人から批判された。あの有名なロシアン・ルーレットのシーンですらベトナム戦争の記録には存在せず、事実を歪めていると言われていた。
それもそのはず、元となった脚本は「ロシアン・ルーレットをするためにラスベガスに向かう」ただそれだけの物語であり、『ディア・ハンター』はプロデューサーの判断によって舞台をベトナム戦争に置き換えられて完成した映画なのである。
ただ反戦的な意味合いでは素晴らしいと思うし、映画としてもかなり面白くできている。しかもこの頃、アメリカではまだベトナム戦争を描くことはタブーとされており、これらの批判はその禁忌を侵したことへの反発に過ぎないと個人的には思う。
実際、公開されて様々な批判を受けながらも批評家の間では大絶賛。今でも「ベトナム戦争映画の最高傑作」とも言われているほど。長いし、暗いし、重いのも本来ならマイナスポイントであるが、時はアメリカン・ニューシネマの時代。むしろプラスだ。
一方の『帰郷』は、夫をベトナムへ送り出した女性と、戦争で下半身不随になった男性の不倫を客観的に描いた作品。本作は『ディア・ハンター』を押しのけて脚本賞を獲得し、また主演男優賞と主演女優賞も受賞。結果からもそのクオリティの高さが分かる。
主演のジェーン・フォンダは現実でも積極的に反戦活動を行っており、エキストラの中には本物のベトナム帰還兵も居たという。今見ても、画面いっぱいから当時の悲観的な空気が伝わってくるし、当時の社会問題を真正面から描いているのも良かった。
『ディア・ハンター』と『帰郷』、どちらもベトナム戦争以後の貴重な映画であり、素晴らしい映画だ。ただ同じような題材なら、やはり『ディア・ハンター』の方がスケール感があり、作品賞らしいと言える。
というわけで、『ディア・ハンター』の作品賞受賞は納得の結果となります。
第50回(1977年)
作品賞 ノミネート一覧
☆アニー・ホール
- グッバイガール
- ジュリア
- スター・ウォーズ
- 愛と喝采の日々
この年は、ウディ・アレンの最高傑作『アニー・ホール』と、世界中で社会現象を巻き起こした『スター・ウォーズ』が作品賞を争った年。どちらも後世の映画史に多大な影響を与えた作品なだけあって、めちゃくちゃ甲乙つけがたい。
『アニー・ホール』は、今もなお高い評価の作品を作り続けるウディ・アレンの唯一無二のスタイルを確立した映画。劇中では長回しを多用したり、画面分割を使用したり、アニメ映像を挿入したり、回想シーンに乱入してきたり、字幕で頭の中を説明したり、第四の壁を破壊したりなど、やりたい放題。
70年代の映画とは思えないほど、今見ても革新的な作品。こんなの『デッドプール』でしか観たことない。(前回の記事にもデッドプール出てきたし、デッドプールめちゃくちゃ好きな人みたいになりそう)。
一方の『スター・ウォーズ』は、当時『ジョーズ』を抜いて世界興行収入1位を記録、世界中でSFブームを巻き起こした映画として知られる。またこれまで子供向け・オタク向けであったSFというジャンルを誰もが楽しめるエンターテインメントとして知らしめた。
ハイクオリティな模型や、ミニチュアを使った特撮、独特な効果音や、特殊効果など技術的な評価が高く、この作品以降、特殊効果(SFX、VFX)が映画の重要な要素として扱われるようになる。その結果、この年の最多7部門を受賞した。作品賞を受賞していない映画としては『キャバレー』の8部門に次いで歴代2位の記録だった。
また製作の時代背景にベトナム戦争が関わっていることや、後述の『ロッキー』しかり、アメリカンドリームの復権を、そしてアメリカン・ニューシネマの終焉を告げた作品としても「作品賞は時代を映す鏡」になり得た。
ただこれはもう個人的な問題で仕方ないとはいえ、僕自身『スター・ウォーズ』の映像の古臭さが好きになれないというか、1周まわって子供だましな作品に見えてしまって苦手だ。未だに1作目(本作)しか見れていない。
この年、そんな技術革命を起こした『スター・ウォーズ』の10部門を押しのけて、11部門ノミネートとなったのが『ジュリア』と『愛と喝采の日々』。
『ジュリア』は助演女優賞と助演男優賞という演技部門を受賞できたものの、バレエ界を舞台にした『愛と喝采の日々』は、ほぼ全ての技術部門を『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』に奪われて無冠という結果に。
ちなみに11部門ノミネートされて無冠に終わったのは、現在でも『愛と喝采の日々』と『カラーパープル』のみ。これは無冠の最多ノミネート数として歴代1位の記録です…。なんと光栄なこと。ははは。はは…。はぁ。
というわけで、『アニー・ホール』の作品賞受賞は納得の結果となります。
第49回(1976年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ロッキー
- 大統領の陰謀
- ウディ・ガスリー/わが心のふるさと
- ネットワーク
- タクシードライバー
この年は、アメリカ建国200年を目前にし、ベトナム戦争が終結した記念すべき年。ノミネート作は今見ても伝説と思えるくらい豊作。そんな中、作品賞を受賞したのはボクシング映画の金字塔『ロッキー』。
暗くて重くて悲惨なアメリカン・ニューシネマが流行していた時期に、新星のように突如現れたこの映画が大ヒット。当時、無名だったシルヴェスター・スタローンが3日で脚本を書き上げて、自ら売り込んで低予算で完成したというエピソードがある。
まさに『ロッキー』という作品は、シルヴェスター・スタローンという男のサクセスストーリーそのものであり、それがアメリカの人々に希望を与え、まさにアメリカンドリームをそのまま体現した輝かしい作品になった。もはや記念碑的な位置にいる。
だがしかし、そういう面では評価できるが、僕はこの映画が個人的にあんまり得意じゃない。3日で作り上げた脚本はやっぱり拙いし、内容も地味で面白くない。『波止場』から影響を受けたということもあって、そこまでオリジナル性も感じられない。かなりオーソドックス。また無名の役者ということも納得なくらいスタローンの演技も酷くて、全体的に合わなかった。
アメリカ建国200年目ということや、ベトナム戦争が終結したこと。そしてアメリカン・ニューシネマの時代が終わりを迎え、明るい映画が受け入れられやすかったことなど、運良く様々な理由が重なっての作品賞。
クオリティの面だけで見れば『ネットワーク』や『タクシードライバー』『大統領の陰謀』の方が、遥かに上に思える。
中でも『ネットワーク』は、ニュース番組の司会者が視聴率低下でノイローゼとなり、番組の放送中に自殺予告をしたことで視聴率が急激に伸び始める話。SNSが誕生するはるか昔、まだテレビが派遣を握っていた時代に、現代でも通用する風刺のような社会派映画が作られていたことにまず衝撃を受ける。
70年代という暗黒の時代だからこそ生まれた作品だというのに、ストーリーやテーマには普遍性があって、それは何年経っても色褪せない。まさにアカデミー賞という最も権威のある賞に値する傑作。
主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、そして脚本賞を受賞したことからもクオリティの高さが見受けられるし、1作品から5人もの演技賞ノミネートが出たのも現代に至るまで未だに『トム・ジョーンズの華麗な冒険』と本作のみ。しかも前者は演技部門での受賞は無かったものの、作品賞を受賞している。『ネットワーク』なんて、作品賞と監督賞さえ『ロッキー』に奪われなければ主要5部門を制しているはずだった。
また主演男優賞を受賞したピーター・フィンチは、ノミネートが発表された直後に心臓麻痺で死去。アカデミー賞史上初めての故人の演技賞受賞となり 、皮肉にも『ネットワーク』本編との共通点が話題となった。
あとこれは個人的に、シドニー・ルメットに作品賞や監督賞をあげてほしかったという気持ちも強く、『十二人の怒れる男』や『セルピコ』『狼たちの午後』など数々の名作を生み出しているというのに、2005年に名誉賞を受賞するまでは無冠という…。めっちゃ胸が痛む。
そして、もうひとつ。個人的に全然好きではないが、一応『タクシードライバー』についても触れておく。
ベトナム帰還兵で不眠症の男が、夜のタクシー運転手となったことで、街に不信感を募らせる作品。マーティン・スコセッシの代表作のひとつであり、ロバート・デ・ニーロの出世作。またアメリカン・ニューシネマを象徴する作品としても知られる。カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞するも、アカデミー賞では4部門にノミネートされて無冠となった。
現代で言うところの「無敵の人」を描いた作品なのだが、主人公トラヴィスの過去について全く語られないので、自分は何も感情移入ができなかった。当時の若者たちは、自分とトラヴィスを照らし合わせて熱狂したようだが、今見たところで何も面白さがわからない。
70年代のアメリカの空気感を描いたという時代性だけで見れば、ノミネート作の中だと『タクシードライバー』が頭一つ抜けているように見えるが、あとはあまり作品賞に適した映画とは思えない。一部からのカルト的な人気を獲得してこそ、この作品には魅力が生まれるものだと思う。やはり『ネットワーク』こそが、真の作品賞なのだ。
というわけで、『ロッキー』の作品賞受賞は不服の結果となります。
第48回(1975年)
作品賞 ノミネート一覧
☆カッコーの巣の上で
- バリー・リンドン
- 狼たちの午後
- ジョーズ
- ナッシュビル
いやー!名作ばかり!この年もかなりの豊作!70年代は良い映画が多いね!もう多すぎるよ!ほんと!!
そんな中で、抜群のクオリティを発揮して作品賞を受賞したのは『カッコーの巣の上で』だった。精神病棟を舞台に、自由を求めるマクマーフィーと個性豊かな患者たちが、映画史に残る悪役とも呼ばれるラチェッド婦長の絶対的権力に立ち向かう話。
本作は、1935年の『或る夜の出来事』から41年振りに主要5部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞)を独占したことでも有名。また主演のジャック・ニコルソンは5度目のノミネートであり、ついに念願のオスカーを手にした作品でもある。
そんな『カッコーの巣の上で』は、言わずもがな名作中の名作。アメリカン・ニューシネマの流行に乗って、社会現象になるほどの大ヒットを記録。精神病棟という「体制側」と、自由を求める患者たちの「反体制側」の構図がとても上手く、今見ても当時のヒッピーたちがこの映画に感化された理由がよく分かる。まさに「時代を映す鏡」そのものだ。
一方の対抗馬は、ノミネートされた作品のすべて。そのどれもが作品賞を受賞してもおかしくないのハイクオリティ。ひとつひとつ書き記してたらキリがないくらいだ。
『バリー・リンドン』は、スタンリー・キューブリックの歴史ドラマ。これまで手がけてきた作品の中でも格段にわかりやすく、華やかで、美しい。彼がオスカーに最も近づいたであろう大作映画。
『狼たちの午後』は、実際に起きた銀行強盗事件を題材にストックホルム症候群、家庭問題、同棲愛、ベトナム戦争など、当時の社会問題をふんだんに詰め込んだ社会派サスペンス映画。
『ジョーズ』は、世界興行収入4億で、その年最大のヒット作。当時流行していたパニック映画の流れを汲んだ、サメ映画の先駆け的な作品。また人間ドラマとしても素晴らしく、エンタメ映画としての完成度も高い。
『ナッシュビル』は、ロバート・アルトマンの代表作で、総勢24人ものキャラクターから織り成す群像劇。また当時のアメリカに対する風刺を多く取り入れており、かなり社会派な作品。
『カッコーの巣の上で』が、少し、ほんの少し抜きん出ているくらいで、ノミネートされたどれもが作品賞を受賞しても文句のないポテンシャルを秘めている。まぁ僕が選ぶとしても、結局『カッコーの巣の上で』になると思うけど。
というわけで、『カッコーの巣の上で』の作品賞受賞は納得の結果となります。
第47回(1974年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ゴッドファーザー PERT II
- チャイナタウン
- ガンバセーション…盗聴…
- レニー・ブルース
- タワーリング・インフェルノ
この年は、フランシス・フォード・コッポラの手がけた『ゴッドファーザー PERT II』と『カンバセーション…盗聴…』の2作品が揃って作品賞にノミネートされた年。そして『ゴッドファーザー PERT II』は、作品賞を含む6部門を受賞した。
また『ゴッドファーザー PERT II』は、史上初めて作品賞を受賞した「続編映画」であり、さらに史上初の「シリーズ連続での作品賞」ともなった。スーパーウルトラスペシャル快挙だ。
内容は、父が亡くなったことで2代目ドンとなったマイケル・コルレオーネのその後と、父ヴィトー・コルレオーネがファミリー築くまでの前日譚を同時に描く。
ふたつの時代を交差することで、前作を上回る壮大な一大叙事詩となり、1と2で差別化も出来ている。圧巻の脚本力だ。実際、僕も1作目より2作目の方が好き。
そして対抗馬は『チャイナタウン』。フィルム・ノワール、そしてハードボイルドの金字塔。アメリカン・ニューシネマを代表する作品のひとつで、監督は『ローズマリーの赤ちゃん』や『戦場のピアニスト』を手がけた巨匠ロマン・ポランスキー。アカデミー賞では11部門にもノミネートされたものの、受賞したのはそのうちの脚本賞のみ…。正直この結果は納得がいかない。
当時、妊娠中だった妻で女優のシャロン・テートが殺害された「シャロン・テート事件」を乗り越えてのロマン・ポランスキー5年ぶりの新作。大御所俳優や、監督のカムバックが大好きなオスカーが、なぜこうも冷たいのか…。
ゴールデン・グローブ賞でも『ゴッドファーザー PERT II』を押しのけて、作品賞・監督賞・脚本賞・そして主演男優賞を受賞。GG賞はミーハー色が強いとはいえ、これほど高い評価を得た作品が脚本賞の1部門だけの受賞って…。
もちろん技術部門に『タワーリング・インフェルノ』や『大地震』といった大作パニック映画がぶつかったのが大凡の原因だとは思う。ただやはり過小評価がすぎるというか、『ゴッドファーザー PERT II』の作品賞は納得だけど、『チャイナタウン』の1部門受賞が全く納得いかない。そんな年ですね。
というわけで、『ゴッドファーザー PERT II』の作品賞受賞“は”納得の結果となります。
第46回(1973年)
作品賞 ノミネート一覧
☆スティング
- アメリカン・グラフィティ
- 叫びとささやき
- エクソシスト
- ウィークエンド・ラブ
70年代のオスカー作品賞は基本そうだけど、この年の作品賞に関しては特に批判的な意見を聞くことがない。もはや『スティング』は誰もが認める傑作というか、世間的にも非の打ち所がない作品のひとつなんじゃないかなと思う。
ただこの記事はあくまで「個人的な好みだけ」で作品賞を選ぶもの。僕の中では『スティング』より、さらに素晴らしいと感じた作品がある。まあ言わずもな、その作品とはオカルト映画の金字塔『エクソシスト』だ。
悪魔に取り憑かれた少女リーガン、そして娘が悪魔に取り憑かれた母親、自らの母の死を苦しむ神父、三者三葉の苦悩と葛藤が描かれる。意外と全編通して「親子愛」が描かれているというのが意外とアカデミー賞向きの作品だなと思う。
公開前から「衝撃の実話」「関係者が次々と死亡」「原因不明の火災でセットが焼失」「観客に失神者続出」などといったショッキングな報道がなされた本作。
そして公開後も「観客が気を失って顎を骨折し、ワーナーブラザーズが訴えられる」や「多くの街で公開が禁止されたため、旅行会社が映画を鑑賞するバスツアーを企画したり」など、世間における影響力が半端ではなかった。
結果、その年の興行収入第1位を記録。2017年に『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』に抜かれるまでは、ホラー映画史上最高の興行収入であった。
またゴールデン・グローブ賞では作品賞や監督賞、脚本賞、助演女優賞など4部門を受賞。後に発生するオカルト映画ブームの先駆け的な作品となり、映画史に多大な影響を与えた。
良くも悪くも『エクソシスト』の話題性は抜群で、その1年を代表する映画であることは間違いないと思う。それに個人的にはこの作品、悪魔に取り憑かれた少女を通して若者のヒッピー化やカウンターカルチャーを描いていると思っていて、れっきとしたアメリカン・ニューシネマだと考えている。
ただまあ『エクソシスト』の監督 ウィリアム・フリードキンは、前年に『フレンチ・コネクション』で作品賞や監督賞を受賞しているのもかなり厳しい状況でもあった。
一方の『スティング』は、テンポが良く、秀逸な脚本、そしてお洒落なファッションと街並み。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの華やかさもあり、映画として、作品として素晴らしい。(僕は全然好きではないし、なんなら1ミリも面白さが分からないけど)。
さて、オスカー作品賞としての好みを取るか、自分の映画の好みを取るか…。ただここで『スティング』を選ばないと、なんかセンスがないやつと思われそうなので、やっぱり『スティング』が一番良い(急になんやねん)。
というわけで、『スティング』の作品賞受賞は納得の結果となります。でも『エクソシスト』の方が断然好きです。
第45回(1972年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ゴッドファーザー
- キャバレー
- 脱出
- 移民者たち
- サウンダー
この年は、世界中の興行記録を多く塗り替えて社会現象となった『ゴッドファーザー』が作品賞を含む3部門を受賞した年。知らぬ者などいない程の名作。
一方で、ボブ・フォッシーが手がける『キャバレー』が8部門を受賞する大健闘を見せる。これは「作品賞を受賞していない作品」としては史上最多の受賞数であり、この記録は現在まで破られていない。
もちろんこの年の作品賞において語るべきは「ゴッドファーザーか、キャバレーか」の二択ではあるのだけれど、正直もう語るまでもないというか、どう考えても『ゴッドファーザー』以外にありえないだろ!というのが答え。
あまりにも簡単で当たり前すぎる結果にもはや口出し不要。『ゴッドファーザー』こそ、アカデミー賞の存在価値を大きく引き上げた作品であることは間違いない。ただ単に面白いだけでなく、イタリア人移民とその子孫であるイタリア系アメリカ人一族の物語というのも如何にもオスカーらしい。
『キャバレー』は、『ウエスト・サイド物語』以降から増えてきた物語の骨格が太い、そして複雑なテーマや社会性を兼ね備えたミュージカル映画のそれであり、その最高傑作である。本命がビッグネームすぎるだけで、こちらが作品賞を受賞しても何も違和感がない。ただ「作品賞を受賞できなかった作品の史上最多受賞数」という記録にもそれなりの価値がある。
というわけで、『ゴッドファーザー』の作品賞受賞は納得の結果となります。(短すぎる)
第44回(1971年)
作品賞 ノミネート一覧
☆フレンチ・コネクション
- 時計じかけのオレンジ
- 屋根の上のバイオリン弾き
- ラスト・ショー
- ニコライとアレクサンドラ
この年に作品賞を受賞した『フレンチ・コネクション』は、これまで反体制側の視点で描くことが一般的だったアメリカン・ニューシネマにおいて、あえて体制側である警察を主人公にして描かれた作品。
またアクション映画ながらも、70年代のニューヨークの風景や、当時の世相を色濃く反映しており、時代性も抜群。ウィリアム・フリードキンらしい緊張感・躍動感・迫力のあるシーンの連続で終始圧倒される。
中でも電車と車のカーチェイスシーンは、映画史に残ると言っても過言ではないほど凄まじい気迫。『フレンチ・コネクション』の作品賞は「当然の結果」だと思う。
ただこれだけでは終わらない。ここで僕が対抗馬として挙げる作品は、『時計じかけのオレンジ』だ。こちらも少し特殊なスタイルをしたアメリカン・ニューシネマ作品で、我らがスタンリー・キューブリックの代表作のひとつとして知られている。
近未来を舞台にしたSF作品であり、内容もかなり過激で暴力的。その上、強烈な社会風刺や皮肉も含まれており、画面の隅々にまでキューブリックの芸術性が爆発していたりもする。
1971年に製作されたとは思えないほど今見ても衝撃的な内容だし、唯一無二という言葉が似合うくらいこれ以上ないほどの存在感を放つ。
どう考えても「アカデミー賞の好みから外れた作品」なのは間違いないのだが、そのあまりの評価の高さからか、しっかりと作品賞にノミネートされているのが何とも素晴らしい。
そんな『時計じかけのオレンジ』であるが、受賞数は…なんと0個。時代も時代だし、賛否の別れる作品であることは間違いないのだが、流石にこのクオリティで1部門も受賞できないのは信じられない。
作品賞は無理だったとしても、せめてスタンリー・キューブリックに監督賞くらいはあげられなかったのか!と思う。むしろ監督賞を受賞できてないのがおかしいくらいには、キューブリックの魅力が最も詰まった映画だと思う。
純粋な面白さでは『フレンチ・コネクション』の圧勝かもしれないが、映画史的な視点をすると『時計じかけのオレンジ』の作品賞の方が価値があったんじゃないか…と。まあ個人的に『フレンチ・コネクション』がそんなに好きじゃないのもあるけどね…(本音)。
というわけで、『フレンチ・コネクション』の作品賞受賞はギリギリ納得の結果となります。
第43回(1970年)
作品賞 ノミネート一覧
☆パットン大戦車軍団
- 大空港
- ファイブ・イージー・ピーセス
- ある愛の詩
- M★A★S★H マッシュ
この年のノミネート作は、5本中4本(『ファイブ・イージー・ピーセス』以外の4作品)が世界興行収入トップ4を独占している状態から始まった。
そして作品賞は、第二次世界大戦で活躍したジョージ・パットン将軍の半生を描いた伝記映画『パットン大戦車軍団』。主演のジョージ・C・スコットが、オスカーを強烈に批判して主演男優賞の受賞を辞退したことでも知られる作品。
伝記映画としての完成度は極めて高いものの、ベトナム戦争に向けた戦争プロパガンダとしての役割も担っており、時代性こそあるが日本人としてはあまり好感が持てない作風になっている。あとめちゃくちゃ長い。
一方で対抗馬と言われていたのが、こちらも同じく第二次世界大戦を題材にした戦争映画の『M★A★S★H マッシュ』。ロバート・アルトマン監督作で、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞した。
こちらは『パットン大戦車軍団』とは正反対の作品で、戦争映画なのに戦争シーンが全くなく、舞台は野戦病院。なんなら戦争をブラック・コメディで風刺するという革新性が魅力になっている。
アメリカン・ニューシネマらしく反体制的な作品ではあるものの、白人至上主義、女性蔑視は当たり前。同性愛を病気のように扱ったり、自殺者を笑いものにしたりなど、不快感を覚えるほど悪質なギャグを連発するので、現代の価値観から観ると手放しで褒められる作品ではないのも事実。つまり、個人的にはどちらも好きになれない作品ということである。
そしてもうひとつ取り上げるべき作品は、当時フランシス・レイのテーマ曲とともに世界的に大ヒットした恋愛映画『ある愛の詩』。劇中に登場する「愛とは決して後悔しないこと」という台詞は流行語にもなった。
本作はメディアミックスで成功した先駆的な作品としても有名で、エリック・シーガルによる原作小説と同時進行で映画が製作されて、映画の方が先に完成してしまったというエピソードがある。
また身分差の結婚や、白血病による悲恋など、当時としては珍しいテーマを扱ったことも個人的にはプラスポイント。それが理由もあって、ゴールデン・グローブ賞では作品賞を受賞し、世界興行収入では年間1位を獲得。
そんな『ある愛の詩』が大人気となった主な理由として、ベトナム戦争の泥沼化、若者のヒッピー化、そしてアメリカン・ニューシネマの流行によって疲弊した人々の心を純愛によって癒したと言われている。
まさに「この年に最も必要とされ、最も愛された映画」と言っても過言ではない。この作品は、ある世代にとっての『風と共に去りぬ』であり、『ローマの休日』であり、『タイタニック』であり、『ラ・ラ・ランド』なのである。
結果的に『パットン大戦車軍団』のスケール感や、伝記映画としてのクオリティ高さから、『ある愛の詩』は作曲賞のみの受賞となってしまったが、正直「等身大のLove Story」としてもっと評価されてもいいと思っている。問答無用で泣ける素晴らしい恋愛映画だ。
というわけで、『パットン大戦車軍団』の作品賞受賞は(日本人の視点から見ると)不服の結果となります。
1970年代はここまでとなります。
何かしら理由はつけたものの、正直『ロッキー』以外はほぼ納得の作品賞だと思いました。やはり激闘の時代ゆえに、70年代の作品には魂が込められてますし、今見ても鮮明にその時代の空気を感じることができます。
以下、1979年から1970年までの僕の理想の作品賞を、一覧として載せておきます。
最後までご愛読ありがとうございました。
1979:クレイマー、クレイマー
1978:ディア・ハンター
1977:アニー・ホール
1976:ネットワーク
1975:カッコーの巣の上で
1974:ゴッドファーザー PERTII
1973:エクソシスト
1972:キャバレー
1971:時計じかけのオレンジ
1970:ある愛の詩
次回
未定