第2回 これまでのアカデミー作品賞は納得か!? 個人的な好みだけで検証してみた。【2009年〜2000年まで】
どうも、こんにちは。
アカデミー賞大好き芸人のトマトくんです。
前回に引き続き、これまでにアカデミー賞(作品賞)を受賞した作品に「妥当性はあったのか」、「その判断は正しかったのか」について、個人的な見解のみで語っていきます。
今回は2000年代。2001年にアメリカ同時多発テロ(9.11)が起き、2003年にはイラク戦争が勃発。2008年のリーマン・ショックなど、ブッシュ政権によってアメリカが大きく揺らいだ。またFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアが普及したこおや、2009年には初のアフリカ系アメリカ人大統領が誕生したりと明るい話題も度々あった。
そしてもう一度言いますが、これは「ぼくのかんがえたさいきょうのアカデミー賞」。トマデミー賞です。僅かながらネタバレに触れている可能性もあるので、未見の方は気をつけてください。
今回は2009年から2000年までの10年間で見ていきます。早速2009年から行きましょう。
第82回(2009年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ハート・ロッカー
- アバター
- しあわせの隠れ場所
- 第9地区
- 17歳の肖像
- イングロリアス・バスターズ
- プレシャス
- シリアスマン
- カールじいさんの空飛ぶ家
- マイレージ、マイライフ
この年は『アバター』のジェームズ・キャメロンと、『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグローという元夫婦対決が話題になった年。そして、作品賞の候補作が5本から10本に変更された年でもある。
と言ってもノミネート作が10本に増えたところで、作品賞を争うのは主に監督賞にノミネートされた『ハート・ロッカー』『アバター』『イングロリアス・バスターズ』『マイレージ、マイライフ』『プレシャス』の5本に絞られる。
本命『アバター』は最高度な撮影技術を用いた3D映画の先駆けであり、知的生命体ナヴィと人類の戦い、そして交流を描く。異民族との争いは、まるで西部劇(西部開拓時代のネイティブ・アメリカンと白人)を彷彿とさせるような内容で、特にアメリカ人には刺さったのか歴代最高の興行収入を叩き出した。
対抗馬だった『ハート・ロッカー』は、イラクを舞台としたアメリカ軍爆弾処理班を主人公に、とてつもない緊張感を張り巡らせながらリアリズムな作風(ほぼドキュメンタリー・タッチ)で物語が展開されるジャーナリズム映画。
第二次世界大戦でもベトナム戦争でもない戦争映画で、初めてイラク戦争を真っ正面から描いた挑戦的な作品と言ってもいい。そういった意味でも批評家からの評価は高かったものの、エンタメ要素なんて皆無であり、そのアクの強いリアリズムな作風も相まって興行的に苦戦していた。
どちらも深い部分にはアメリカの辿った歴史を批判するようなテーマ性を持っているが、表向きは「正反対の映画」が作品賞を争いあっていたと言ってもいい。
当時、大衆性もなく興行的にも失敗だった『ハート・ロッカー』が前哨戦を総ナメし、アカデミー賞も総なめ、出来の良い作品が真っ当に評価された!と祝福の声も多く、初のイラク戦争映画の受賞には様々な意図が読み取れたのだが、一方で『アバター』が大ヒットしたことによる妬みで、キャスリン・ビグローに票が流れたとも言われていた。
実際『ハート・ロッカー』は、映画としてはよく出来ているが、特別面白いかと言われたらそうでもない(個人的見解)。尤も『ノマドランド』が現れるまでは、オスカー史上最も興行収入の低い作品賞だった。
もうひとつの対抗馬だった『イングロリアス・バスターズ』は、当時としてはタランティーノ最大のヒット作となり、ハリウッド内での評価がすこぶる高かった。ただコメディな上に、直接的なバイオレンス描写が多く、歴史改変というタランティーノらしい暴挙。
タランティーノがナチスの問題に触れた作品を作ったという意外性こそあれど、これを作品賞として選ぶのは少し気が引ける。それに戦争映画なら『ハート・ロッカー』の方が高評価だし、クリストフ・ヴァルツの助演男優賞さえ獲れたら満足!みたいなところがあった。(まぁ完全にタイミングの問題ではあるけど、タランティーノはこの作品で作品賞を受賞しておくべきだったな…とは思う所がある)。
その次に着けていた『マイレージ、マイライフ』は、リストラ宣告を請け負う仕事をしている男が、アメリカ中を飛び回るコメディ映画。秀逸な脚本と人間ドラマで、ネット社会まで切り込む。ノミネート作の中で最も時代性があったが、あくまでフィールグッドムービーのひとつに過ぎず、佳作の域を抜け出せていなかった。
上記の通り『ハート・ロッカー』の受賞は、他にこれといって良いものがなく、消去法で選ばれたような感じがしなくもない。この年なら、僕は『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』や『第9地区』の方が断然好きだ。
『ハングオーバー!』はサマーシーズンにクチコミで話題を呼び、サプライズ・ヒット。低予算ながらも世界興行収入は約4億6700万ドルと、R指定のコメディ映画として史上最高額を記録。
その勢いのままゴールデン・グローブ賞(コメディ部門)作品賞を受賞したが、アカデミー賞には全くノミネートされなかった。まぁ、もしされてたとしても流石に作品賞としては不適切か…。
一方『第9地区』はSFモキュメンタリーという異色作ながらも、その独創性の高さから大ヒットを記録。アパルトヘイト(白人による非白人の人種隔離政策)や、難民、紛争などをテーマとしており、社会的なメッセージも十分あった。
しかし、SFとしては『アバター』に、戦争映画としては『ハート・ロッカー』や『イングロリアス・バスターズ』に話題を完全に奪われてしまった感があるのは否めない。
というわけで、『ハート・ロッカー』の作品賞受賞は納得っちゃ納得の結果となります。でもタランティーノには『イングロリアス・バスターズ』で作品賞を受賞してほしかったです。
第81回(2008年)
作品賞 ノミネート一覧
☆スラムドッグ$ミリオネア
- ベンジャミン・バトン 数奇な人生
- フロスト×ニクソン
- ミルク
- 愛を読むひと
はい出ました。この年は『ダークナイト』と『ウォーリー』という世界的に高い評価を受けた映画が作品賞にノミネートされなかったことで、世界中で物議を醸した年。この騒動をきっかけにアカデミー賞は翌年から作品賞のノミネート数を増やすこととなります。
まず僕の激推し映画『ウォーリー』は、アニメ映画でありながら、SF映画、恋愛映画、アクション映画の要素を兼ね備えているハイスペックな作品。さらに環境問題や社会問題をストレートに描いたことで、これまでのピクサーにはなかった「社会派」という新たなスタイルを確立した。
一方の『ダークナイト』は全米歴代2位の興行収入を記録し、故ヒース・レジャー演じるジョーカーの演技は絶賛の嵐。これまでのアメコミ映画とは比にならないほど、観客・批評家ともに高い評価を獲得した。
また演技部門でその年の最多4人がノミネートされたものの、作品賞ではスルーされた『ダウト 〜あるカトリック学校で〜』も見逃すわけにはいかない。
脚本家ジョン・パトリック・シャンレイが、劇作家として戯曲『ダウト 疑いをめぐる寓話』を執筆。そのまま自身で舞台化し、トニー賞とピュリッツァー賞のW受賞という快挙を果たし、今度は自ら映画化した意欲的な作品。
練り込まれた脚本と、豪華キャストによる演技合戦によって、キャラクターたちの心情を紐解きながら、サスペンスとヒューマンドラマが見事に絡み合う素晴らしい映画。「疑惑」をテーマにしているように、9.11によってテロが身近となり、疑心暗鬼になった現代を風刺しているという時代性もある。地味な作品ではあるものの、その完成度は凄まじかった。
そんな作品群を無視するアカデミー賞の神経に虫唾が走る。この瞬間に、アカデミー賞の権威は完全に崩れ落ち、世間からの注目は薄れたと思う。
別に作品賞を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』が悪い映画とは思わない。『トレインスポッティング』で一世を風靡したダニー・ボイルのカムバック作で、トロント国際映画祭を皮切りに、世界中の映画祭・批評家賞で絶賛されて話題となった。
まあまあ予定調和なストーリーに、有り得なさすぎる展開。これといって目新しさはないものの、1人の青年の人生を巡る奇妙さと壮大さには不思議な魅力があったし、2008年はリーマン・ショック真っ只中で、世界規模の金融危機が発生したこの時代に、希望溢れる映画は必要不可欠であった。
対抗馬だった『ベンジャミン・バトン』も同じく1人の青年の奇妙で壮大な人生を巡る物語。この年の最多13部門でノミネートされ、21世紀の『フォレスト・ガンプ』とも称された。が、流石に『スラムドッグ$ミリオネア』ほどの華やかさやクオリティはなかった。
もし『ダークナイト』や『ウォーリー』『ダウト』がノミネートされていても、結局は『スラムドッグ$ミリオネア』が作品賞を受賞していたと思う。でも本当に評価されるべきものが、その権利すら与えられないというのは結構つらい。
やっぱり『ウォーリー』にアニメ映画初の、『ダークナイト』にアメコミ映画初の作品賞を獲ってほしかった気持ちがある。せめてチャンスだけでも与えるべきだ。なぜなら彼らには一発逆転のチャンスがあったからだ。
というわけで、『スラムドッグ$ミリオネア』の作品賞受賞は納得。でもノミネートが不服…です。
第80回(2007年)
作品賞 ノミネート一番
☆ノーカントリー
- つぐない
- JUNO/ジュノ
- フィクサー
- ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
『ノーカントリー』VS『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』という傑作同士がぶつかったバケモノのような年。しかもノミネート作の中には低予算ながらも大ヒットした『JUNO/ジュノ』もある。
そんな傑作対決を勝ち取ったのはコーエン兄弟の『ノーカントリー』だった。正直、『ノーカントリー』の受賞は、名作『ファーゴ』が過去に作品賞を逃したことへの同情票もあると思う。
でも、映画史に残る殺し屋アントン・シガーを生み出した功績は大きいし、潔いまでにハラハラドキドキも味わえて、その「映画らしさ」が良い。『ノーカントリー』のことを知れば知るほど、もしかしてこの映画ってアカデミー賞向きの映画だったんじゃないか…?とさえ思わされる。
一方の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は、石油がテーマのポール・トーマス・アンダーソン節全開クセつよ映画。かなり好き嫌いが別れる作風だが、好きな人はめっぽう好き。さらにはアメリカンドリームを体現し、その奥で腐敗を描く様が「アメリカそのもの」と評価され、その内容とスケール感ともに作品賞向きだった。
そして三つ巴の3枠目にいたのが『JUNO/ジュノ』。エレン・ペイジ演じる16歳の女子高生が予期せぬ妊娠をしてしまい、養子縁組を望む夫婦と出会ったことで人生が変わるという大傑作。
未成年の妊娠、養子縁組など社会的なテーマを扱いながら、映画の内容はポップなコメディになっている。僅か7館の上映から始まり、クチコミで「ジュノ旋風」と呼ばれるほどに社会現象をもたらした、この年一番の話題作だ。
どの映画が作品賞を受賞してもおかしくない。それくらい高レベルで接戦の対決。『ノーカントリー』でも『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でも『JUNO/ジュノ』でも、どちらが作品賞でも一切の文句なし。それくらいハイレベルな闘い。
というわけで、『ノーカントリー』の作品賞受賞は納得の結果ということになります。
第79回(2006年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ディパーテッド
- バベル
- 硫黄島からの手紙
- リトル・ミス・サンシャイン
- クィーン
無冠の帝王 マーティン・スコセッシが『ディパーテッド』で、ついに念願の作品賞の受賞した年。
個人的に『ディパーテッド』の作品賞は納得だけど、スコセッシに作品賞をあげるならもっと前にやれただろ!ってめちゃくちゃ思う。
『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』『グッドフェローズ』『アビエイター』…過去に面白い映画はいっぱいあるし、そもそも『ディパーテッド』は韓国映画『インファナル・アフェア』のリメイクだし…。
実質「今年のアメリカは良い映画がありませんでした!」と大っぴらに言っているような感覚に陥る(実際はかなり豊作の年だったのに)。
この年の批評家賞は『ユナイテッド93』と『ドリームガールズ』の一騎打ち。しかし、2作品とも作品賞にはノミネートされず…。
特に『ドリームガールズ』は、最多8部門のノミネートであったにもかかわらず、作品賞はおろか監督賞までもスルーだった。その年の最多候補が作品賞にノミネートされなかったのはオスカーの歴史上唯一のことである。
いやほんと、なんで『ドリームガールズ』が作品賞にノミネートされなかったのか不思議で仕方ない。当時は「ビヨンセの露骨なオスカーアピール」や「会社の派手なキャンペーン」が裏目に出たってことにされてたけど、本当は「メインキャストのほとんどが黒人の映画だから」って言われていて、はい出ましたオスカーそういうところだぞって感じ。
興行収入も大ヒットを記録して、オスカーらしい華やかさも兼ね備えているミュージカル映画なのにね。もしこの映画が受賞していれば、今以上にもっと黒人映画やミュージカル映画への道が開かれていたに違いない。
また個人的に一番好きなのは、『リトル・ミス・サンシャイン』。インディペンデント映画ながらも巧みな脚本でユーモア溢れる作風で人々を魅力した。今年の『コーダ あいのうた』や、2018年の『グリーンブック』、2010年の『英国王のスピーチ』のような嫌われる要素が少ない優しい世界観のフィールグッドムービーだった。
またアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの『バベル』は、ノミネート作の中で最もオスカーらしい作品とも言える。一発の銃弾によって交差するモロッコ、アメリカ、メキシコ、日本の4ヶ国から織り成す群像劇。人種も言語も文化も宗教も違う。生死に関わる問題に直面しているにも関わらず、お互いの偏見によってコミュニケーションがままならない様を描く。
芸術性も娯楽性も共に高く、国際色豊かなオスカーを象徴している。海外貿易のためにオープンした世界貿易センタービルは、旧約聖書におけるいわば「バベルの塔」であり、9.11に対する風刺という時代性・社会性まで兼ね備えている。
ゴールデングラブ賞でもドラマ部門を受賞しており、当時の下馬評も本作が1位であった。前年に同じ群像劇の『クラッシュ』が受賞していなければ、もしかしたら、もしかすると作品賞を獲っていた可能性がある。
あとは外国語映画賞にノミネートされたギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』も、作品賞にノミネートこそされなかったものの、独特の世界観を作り上げたことで2006年最大の評価を獲得した。
そんな中、無冠の帝王マーティン・スコセッシのリメイク映画『ディパーテッド』が作品賞を受賞したのはなぜか?
それはノミネート作の中で最もヒットしたから(唯一の国内興行収入1億超え)であり、今まで無冠だったことに対するお詫びの票が流れたおかげであり、マーティン・スコセッシに作品賞を与える絶好の機会だったことが理由。
運良く全てが重なった結果、『ディパーテッド』の受賞に漕ぎ着けた。スコセッシがオスカーを受賞したのは嬉しいけど、やっぱり作品外の要素を兼ね備えて受賞するのはちょっと複雑すぎる。
というわけで、『ディパーテッド』の作品賞受賞は納得の結果だけど、複雑…です。
第78回(2005年)
作品賞 ノミネート一覧
☆クラッシュ
- ブロークバック・マウンテン
- カポーティ
- グッドナイト&グッドラック
- ミュンヘン
はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜(深いため息)。問題の年ですよ。大本命『ブロークバック・マウンテン』を『クラッシュ』が破り、未だに史上最悪のアカデミー賞(ワーストオスカー)と卑下される年。
『ブロークバック・マウンテン』は、これまでハリウッドではタブーとされていた「同性愛」を真正面から描いた挑戦的な作品で、台湾出身の監督 アン・リーだからこそ映画化できた意欲作。
それくらい当時は攻めた内容だったにも関わらず、本質はド直球でオーソドックスなラブストーリーを描く。その普遍性が、批評家賞・興行収入ともに大成功し、映画史を塗り替えると言われたほど2005年最も高い評価を得た作品となった。
そんな『ブロークバック・マウンテン』を打ち破って作品賞を受賞した『クラッシュ』は、交通事故をテーマに差別や偏見の衝突を扱った群像劇。また貧富の差による資本主義社会への問題提起や、銃社会への批判にもなっている。それでも『ブロークバック・マウンテン』に比べたら、比較的エンタメ性はあったかもしれない。
それでも公開当初はノミネート作の中で最も評価が低く、歴代作品賞で最低の興行収入を記録した。前哨戦では全く見向きもされず、ゴールデン・グローブ賞にはノミネートすらされなかった。中では「人種差別を肯定するような映画」だと批判まで集まった。当たり前だ。
長々と時間をかけて「白人は人種差別をするが、実はそれにはこういう意図があって、ああでこうで仕方ないでしょ」と開き直ってるような内容だからだ。あたかもハッピーエンドのように描かれているが、冷静に最後まで見ればアフリカ系やアラブ系、アジア系の人種は損しかしていない。白人が気持ちよくなるための映画にも見えてくる。
どう考えても『ブロークバック・マウンテン』との間には差があった…にも関わらず、作品賞は『クラッシュ』だった。つまりアンチ同性愛(保守派)の会員が、似たようなテーマながら表面的でしかない『クラッシュ』に票を流したからだ。それほどハリウッドにはゲイを嫌う会員が多かった。
また世間が「オスカーがついに同性愛を認めるのか!?」や「ブロークバック・マウンテンは保守的なオスカーが変わったことを証明するのに最適な一本だ」みたいに必要以上に煽ったことによる反動も結構あったと思う。
別に『クラッシュ』が悪い映画というわけではないけれど、『クラッシュ』の作品賞受賞はどちらも損をする形となってしまった感がある。『クラッシュ』の監督であるポール・ハギスは、本作が監督デビュー作なのだが、その前年に『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本を手かげてアカデミー賞を受賞しているので、もうそれで十分じゃん!とか思ったり。やっぱり『ブロークバック・マウンテン』の方が、興行収入や批評家からの評価は桁違いだし、ブロークバックが良かったなあ。
というわけで、『クラッシュ』の作品賞受賞は不服の結果ということになります。
第77回(2004年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ミリオンダラー・ベイビー
- アビエイター
- ネバーランド
- Ray/レイ
- サイドウェイ
マーティン・スコセッシの『アビエイター』と、クリント・イーストウッドの『ミリオンダラー・ベイビー』という巨匠対決が話題となった年。
正直、僕は暗くて重くて地味な『ミリオンダラー・ベイビー』より、対抗馬だった『アビエイター』や『サイドウェイ』の方が好きだった。
『アビエイター』は大富豪でありながら、映画監督としても知られるハワード・ヒューズの半生を描いた作品。マーティン・スコセッシ初の1億ドル超えという大ヒットで、興行収入もノミネート作の中で最も高い。(まあ『ミリオンダラー・ベイビー』とどんぐりの背比べ状態だが…)。
CGをふんだんに使用したVFXや、当時のハリウッドを再現した華やかな衣装や美術。当時のカラー映像を再現した淡い色調に、レオナルド・ディカプリオやキャサリン・ヘプバーンによる忠実な再現演技。
とてつもないテンポの良さでアメリカン・ドリームを魅せていく前半と、強迫性障害となって追い込まれるヒューズを丁寧に描いた後半。娯楽映画としても、伝記映画としても、神話としても、作品賞らしい圧倒的スケール感、華やかさが備わっていた。
そして『サイドウェイ』は低予算の小規模な映画ながらも大ヒットを記録し、批評家賞を総ナメ。映画としてのネームバリューこそ負けているが、脚本の質やエンタメ性では十分張り合えていた。
もちろん『ミリオンダラー・ベイビー』も当時扱いづらかった安楽死・尊厳死をテーマにしたことは素晴らしいと思う。しかし、宗教的観念や政治思想の面で強い反発を受け、キリスト教団体や障害者団体によってボイコット運動が起こる。
またボクシング映画にも関わらず、ボクシング関係者から、ボクシングシーンが不正確とバッシングを受け、非常に多くの問題があった。これで作品賞はいくらなんでも過大評価がすぎると思う。イーストウッドなら前年の『ミスティック・リバー』の方がクオリティが高く、よく出来ていた。
そもそも『ミリオンダラー・ベイビー』が作品賞を受賞できたのは、オスカーのノミネートが発表される1か月前に映画が公開されて、人気のピークが集計時に来たからだ。もちろん作品自体の評価は高かったが、概ね戦略(?)による作品賞であり、至極真っ当に評価されたわけではない。
それに『アビエイター』のスケール感に比べてかなりの小品だ。この時代のアカデミー賞にしては、こんな地味で暗い映画が作品賞とは珍しいことである。
そう考えると『ミリオンダラー・ベイビー』も『アビエイター』も『サイドウェイ』も僅かながら欠点を持ち備えている(この中からひとつ選ぶとしたら、僕は断トツで『アビエイター』)。
この年、本当に評価されるべきだった作品はなんなのか。それは「21世紀の最も優れた脚本101選」で2位にも選ばれた『エターナル・サンシャイン』だと考えている。
これまで『マルコヴィッチの穴』や『アダプテーション』の脚本を手がけたチャーリー・カウフマンの最高傑作。「記憶除去手術」というユニークな題材に、高度な映像技術で画面いっぱいに不思議な世界が広がる。
アカデミー賞では脚本賞こそ受賞したが、作品賞にはノミネートすらされなかった…。こんな素晴らしい映画がなぜだ。まぁこちらもそこそこの小品なので。オスカーらしくはないと言えばないけどね。
というわけで、『ミリオンダラー・ベイビー』の作品賞受賞は不服の結果となります。
第76回(2003年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
- ロスト・イン・トランスレーション
- マスター・アンド・コマンドー
- ミスティック・リバー
- シービスケット
この年の作品賞は、映像化不可能とまで言われていたファンタジー小説『指輪物語』の映画化にして、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の最終章に当たる作品『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』。3年連続の作品賞ノミネートを経て、アカデミー賞史上最多の11部門を受賞。世界興行収入歴代2位とかいう驚異的な記録を叩き出した。
ファンタジーという子供向けだったジャンルを、大人向けのエンターテインメント作品として見事に成立させる偉業。3DやCGのクオリティも当時としては破格で、圧倒的な映像美は何年経っても色褪せない。間違いなく映画史を塗り替えた。
文句なし。過去最高の作品賞。そのキラキラと輝く数多の功績は、何十年後、いや何百年後と永遠に語り継がれる。まさに伝説の映画となった。
対抗馬だった『ミスティック・リバー』や『ロスト・イン・トランスレーション』も完成度の高い作品だったのにも関わらず、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』を前に打つ手なし。もうここまで来ると可哀想としか言いようがない。それくらいロード・オブ・ザ・リングの圧勝だった。
というわけで、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の作品賞受賞は納得の結果となります。
第75回(2002年)
作品賞 ノミネート一覧
☆シカゴ
- ギャング・オブ・ニューヨーク
- めぐりあう時間たち
- ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔
- 戦場のピアニスト
この年はミラマックスの露骨なオスカーキャンペーンが激しいバッシングを浴びた年。『シカゴ』と『ギャング・オブ・ニューヨーク』の2作品をゴリ押しして、結果的に無関係だった『戦場のピアニスト』が監督賞・脚色賞・主演男優賞を受賞。民主主義者の多いハリウッドに特に刺さるような内容だったことや、派手な宣伝をしなかったことが功を奏する形となった。
個人的にこの中で一番好きなのも『戦場のピアニスト』で、『ローズマリーの赤ちゃん』などを手がけた巨匠 ロマン・ポランスキーの復帰作としても知られる。カンヌ国際映画祭ではパルムドールを受賞した。
第二次世界大戦のホロコーストに巻き込まれた実在のピアニストを基に、ドキュメンタリーを観てるかのようなリアルな緊張感と悲壮感を演出。これまでの戦争映画にはなかった新しいスタイルを生み出した。ただ、ポランスキーは未成年への性的暴行騒動が原因でフランスに逃亡しているので、受賞はまずないだろうとされていた(なお、監督賞は受賞)。
それに世間的な評価で行けば、断トツで『シカゴ』が一番高かった。映画としての華やかさや、低迷していたミュージカル映画の人気を復活させたという点でも強みがある。しかも9.11の影響が大きく関わってきた年なので、シンプルに明るい映画の方が作品賞には好ましかった。
『シカゴ』は、本編の半分以上がミュージカルシーンで構成されており、音楽・キャスト・ダンス・カメラワーク・舞台セット、そのどれもが印象深く素晴らしい。世界観というか、あえて作り物のような(舞台っぽい)見た目にしているのも良すぎる。
またミュージカル映画は突然歌い出すものだったのに、本作は現実世界とミュージカルシーンが繋がっておらず、全て「頭の中で繰り広げられるSHOW」として描かれているのが、幅広い層から厚い支持を得た理由になったのかなと思う。この設定のおかげで、ミュージカル映画嫌いの人たちも飲み込みやすかったはず。
そして後にも先にもこの手法を使ったミュージカル映画で、『シカゴ』以上のクオリティを持ったモノは現れていない。もはや『シカゴ』という作品は、一種のミュージカル映画の原点であり、ミュージカル映画としてのスタイルを完成させてしまったひとつの究極系でもある。専売特許(近いものとして『ダンサー・イン・ザ・ダーク』があるけれど、あれはミュージカルではあるがSHOWという形式はとっていないため、似て異なる)。
ミュージカル映画史だけには留まらず、映画史においても、この映画はある種のターニングポイントとなっているし、良くも悪くもその後のミュージカル映画は全て『シカゴ』と比較されてしまっているように感じる。
事実この『シカゴ』以降、アカデミー賞においてミュージカル映画がノミネートされたは『レ・ミゼラブル』『ラ・ラ・ランド』『アリー/スター誕生』『ウエスト・サイド・ストーリー』と4作品のみ。最も古いものでも『レ・ミゼラブル』(2012年)まで待たなければならず、『シカゴ』から約10年後のノミネートとなった。
まぁもしこの年の前哨戦で大健闘した『エデンより彼方に』や、脚本賞を受賞したスペイン映画『トーク・トゥ・ハー』が作品賞にノミネートされていたら、もしかしたら、もしかすれば少しは結果が変わっていたかもしれない。
『エデンより彼方に』は、主演のジュリアン・ムーアが、『めぐりあう時間たち』の助演女優賞と共にWノミネートを受けたことが話題となった。またカラフルな独特の映像演出と、ノスタルジックな世界観が高い評価を得た。
そして『トーク・トゥ・ハー』は、愛する女性が昏睡状態になった二人の男たちを切り取った異色作。あまりも内容が変態(褒め言葉)すぎるあまり、アカデミー賞向きでは無いように感じるが、監督賞と脚本賞にはノミネートされた。
結果として脚本賞を受賞したものの、外国語映画賞のスペイン代表に選出されなかったことが波紋を呼んだ。どちらも作品賞を獲ってもおかしくないほどの評価であったが、やはり小品すぎると言われたらそれまで…。
また、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』は三部作の2作目だし、『ギャング・オブ・ニューヨーク』はスコセッシのベストとは言えない。やっぱり『シカゴ』と『戦場のピアニスト』のどちらかしか考えられない。んー、まぁどっちが作品賞を獲っても文句なし…。いや、『シカゴ』が妥当か。
というわけで、『シカゴ』の作品賞受賞は納得の結果ということになります。
第74回(2001年)
作品賞 ノミネート一覧
☆ビューティフル・マインド
- ゴスフォード・パーク
- イン・ザ・ベッドルーム
- ロード・オブ・ザ・リング
- ムーラン・ルージュ
とにかく作品賞候補が弱い年。作品賞を受賞した『ビューティフル・マインド』は、少しホラー映画っぽいところや、伝記映画にどんでん返しを取り入れる手法は好きだけど、クオリティで言えば割と平均的な作品だと思う。なんとなく「手堅い映画」というイメージ。
映画史的な意味なら「21世紀最高の映画100本」に選ばれたデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』(のノミネート)や、『ロード・オブ・ザ・リング』の受賞が理想だけど、前者は玄人向けすぎるし、後者は三部作の1作目だしで、どれもこれも決め手に欠ける(正直『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに関しては、1作目で受賞させておいても良かったんじゃ?とは思うことはある)。
個人的には、作品賞らしい華やかさを持っているのは『ムーラン・ルージュ』な気もするけど、逆に言えば作品賞らしい重厚感は全くないのが気がかり。その他、『ゴスフォード・パーク』や『イン・ザ・ベッドルーム』は批評家賞で評価されるタイプの小品であり、オスカー作品の風格はほとんどないように思う。
まぁ『ビューティフル・マインド』はよくできた伝記映画だし、前作『アポロ13』が作品賞を取れなかったことや、これまで幾度となくハリウッドに貢献してきたロン・ハワードに対する功労賞のような意味合いの作品賞でもあると思うから仕方なし。
実際当時も『ビューティフル・マインド』が大本命だったことで、映画の元となったジョン・ナッシュへの誹謗中傷や、史実との相違点など、様々なネガティブ・キャンペーンが展開された。つまり誰もが作品賞を受賞できると認めていたということになる。
また興行収入もノミネート作の中で一番高かったので、地味な作品とはいえど「観客」「批評家」「業界人」の全てから支持を得ていた結構すごい作品でもある。
個人的にはこの年は『ブラックホーク・ダウン』が一番好きなのだが、前年にリドリー・スコットが『グラディエーター』で作品賞を獲っているのが勿体ない…。監督賞や編集賞など、作品を評価する重要とされる部門にはノミネートされていたので、そのまま作品賞もノミネートされていたらもしかしたらもしかしたかもしれない。
というわけで、『ビューティフル・マインド』の作品賞受賞は運良く納得の結果となります。
第73回(2000年)
作品賞 ノミネート一覧
☆グラディエーター
- ショコラ
- グリーン・デスティニー
- エリン・ブロコビッチ
- トラフィック
この年は、スティーブン・ソダーバーグの『トラフィック』と『エリン・ブロコビッチ』の2作が大ヒットして話題になった年。どちらも作品賞と監督賞を含め、それぞれ10部門と5部門にノミネートされた。
また台湾映画『グリーン・デスティニー』が、外国語映画であるにも関わらず作品賞を含む10部門にノミネートされて、初めて「武俠映画」が作品賞候補になったことでも話題となった。
しかしそんな3作品よりヒットし、話題となったのが歴史スペクタクル巨編『グラディエーター』。後のソード&サンダル映画ブームの先駆けとなった作品で、その成功から「グラディエーター効果(Gladiator Effect)」と名付けられるほど映画史に一役かっている。
監督は『エイリアン』や『ブレードランナー』を手がけたリドリー・スコット。そんな彼は未だに無冠だし、アカデミー賞らしい歴史物の作品賞というのもやけに風格がある。(正直『グラディエーター』自体はそんなに面白い作品ではないと思う)。
その年の世界興行収入でも『MI:2』に継いで2位を記録。賞の権威を保つためにも大御所監督の大作映画の大ヒット作は甘めに評価した方がいい。
個人的には『あの頃ペニー・レインと』や『リトル・ダンサー』が推しだけど、どちらもノミネートはされず…。特に『あの頃ペニー・レインと』は、前哨戦で『トラフィック』と並ぶトップの戦績を残し、アカデミー賞でも脚本賞を受賞するなど高い評価を得た。キャメロン・クロウ監督の実体験を元にして作られた作品でもあり、そこら辺の青春映画とはリアリティもクオリティも一線を画していた。
まぁ『あの頃ペニー・レインと』は興行的にも微妙な結果だったので、もしノミネートされてても『グラディエーター』の人気や映画的クオリティには勝ち目はなかったのかな…とか思ったり。個人的にはリドリー・スコットに監督賞を、ホアキン・フェニックスに助演男優賞を与えたくれてたらもう完璧だった。(ペニー・レイン役のケイト・ハドソンに助演女優賞もほしかった…むむぅ)。
というわけで、『グラディエーター』の作品賞受賞はギリ納得の結果となります。
2000年代はここまでとなります。
2010年代と見比べてみると、2000年代は割と納得の多い10年間だったような気がします。
以下、2009年から2000年までの僕の理想の作品賞を、一覧として載せておきます。
最後までご愛読ありがとうございました。
2009年:イングロリアス・バスターズ
2008年:ウォーリー
2007年:ノーカントリー
2006年:バベル
2005年:ブロークバック・マウンテン
2004年:アビエイター
2003年:ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
2002年:戦場のピアニスト
2001年:ビューティフル・マインド
2000年:あの頃ペニー・レインと
次回
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