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「純度を高める対話集」プロローグとして

取材業をしている栗林です。TRUNKの笹目さん、助川さんへの取材をきっかけに、お二人と定期的にお話をするようになりました。

お二人には「茨城において、本質に向き合う企業と出会い、その純度を高めていきたい」という思いがあり、今、その熱量によってTRUNKという会社自体の純度が上がる面白い時期にあります。

そして、そんなお二人が「“デザイン会社”とシンプルに言い表すこともできなくなった今、どうやったら出会うべき企業と出会っていけるだろう」と考えた方法の一つが、この対話企画です。
「純度とは」「経営とは」「デザインとは」「茨城とは」などのテーマを軸にお二人の考えを深堀りしたり、変化を記録したりするような場にしていけたらと、わくわくしています。

さあ、いざ第1回目の対話開始。
…と本題に入る前に、3人で何気なく話した部分がプロローグのようだったので、まとめてみました。


なぜ発信をするのか

栗林:この連載の方向性を改めて考えながら来たのですが、今まで定期的にお二人と対話してきたような延長線上で、お二人は今まで通り内省したり発見したりという時間で、私が少し読者を意識した聞き方をしていくようにしてみたくて。これまでと大きく変わりはない形なのですが、どうでしょうか?

笹目:いいんじゃないですかね。

助川:うん、気軽な方がね。

栗林:ライブ感がすごい大事だなと思ってるんです。一番の目的は、茨城の中小企業の経営者が、TRUNKの扉をノックしたくなること。だとすると、あまりカッチリした記事ではなくて、私がお二人とお話ししてきて感じた、等身大で安心できる空気感そのままを出すのがいいかな、と思うんです。

笹目:うん、それが良いと思います。そっちの方が望ましいと思います。

助川:そうですね。
私もここに来るまで色々考えながら来たんですけど、笹目さんってあんまり、文章では”おしゃべり”じゃないところが笹目さんなんだろうなって改めて思って。誰かと関わる立場としては、そういう主張しすぎない感じがすごく大事で。”裏方感”ってすごい大事だなって思うんです。主役は私たちじゃなくてお客様だから、そういうのが感じ取れるものがいいなと。
とは言え、発信しなければ「ここにいる」ってわかってもらえない。そういうジレンマからの、こういう企画だったりします。

笹目:ほんとに、仕方なくしゃべってるところもあるんです。(笑) 

栗林:仕方ないけど、この茨城にある中小企業の、出会うべき企業と出会いたいからしゃべる、という?

笹目:そうそうそう。これまでTRUNKがデザインした実績をwebサイトに並べるだけでは「作る」仕事の依頼だけが来ちゃう。そうなると、依頼内容によっては「これはTRUNKじゃなくてもいいんじゃない」ってお断りしなければいけないこともあるわけです。

でもそれって、webサイトにビジュアルデザインだけを「これを作りました」って載せてるから、お客様は「こういうの作ってくれるんだろうな」って思って連絡してきてくれているだけで。自分の姿を正しく発信できていなくて、世の中に伝わっていないから、ミスマッチが起きちゃうわけで。

だからもう仕方なく、自分たちがしゃべるしかない。
しゃべるのとか書くのが好きな人は、自己主張をどんどんして仕事に繋がるのが良いと思うけど、自分は自己主張したいとは思わない。でも必要だからしなくちゃ、と。

ただ、必要な自己主張をするのならば面白くあるべきだと思うし。「面白い」っていうのは要するに、他とは別な視点があるとか、そういうこと。そういうことであれば主張ができるというか、栗林さんに良い感じで質問してもらえれば、「主張」になっていくのかなと。

助川:そうだよね。だから今回の発信は、万遍なく色々な人に向けてということよりも、「ここだけ分かってもらえれば」という意味合いになるのかなって。つまり、私たちは表に出る人じゃないので、「私たちのここだけ分かっておいてもらえれば、あとは来てくれれば何とかします」みたいな。そういう感じになっていってくれたら、すごくいいと思います。

笹目:栗林さんがさっき言っていたような、今まで3人で話してきたことをさらに深めていくことに関しては、日々深化してると思うんですよ。お客様とやりとりをするなかで、自分たちがやりたいと思っていることが日々はっきりしてきている実感があります。だから「1回対話したらもう何も話すことない」って状態ではないとは思うんです。日々気づきがあって、今までやってきたことを改善していくとか、チューニングして精度を上げるとか、思ってたことをガラッと変える決断をしてみるとか、そういうことが日々あるので。

そういう意味で、少しでもTRUNKのコンセプト「純度を高める」に沿って、私たちが感じていることとか、成長みたいなものも含めて、なんか面白くまとめてもらえたらいいなと思っていて。

あとは、私たちの話だけではなくて、主役であるお客様も交えるとか。私たちのアプローチによるお客様の変化とか、私たちが関わることでお客様に起きたこととか、そういったことを主役のお客様と一緒に話したい。この3人だと、主役がいない状態で話すことになるので、そういうお客様が入ったコンテンツもあっていいんじゃないかなと。

 栗林:そうですよね、すごい興味あります。

 変化を受け止めて作りたい

栗林:私が以前ご一緒させていただいた取材で、お客様が「日々新しい情報が入ってきては、アップデートされちゃうんだ」と楽しそうにおっしゃっていたのが印象的で。本質的なところに向かう経営者の方は、みんなそうなんだろうなと感じました。TRUNKという会社もそうだと思うので、この対話では毎回なにかテーマを置きつつ、日々の気づきを記録するような場所になったらいいなぁと思っています。

 笹目:そうですね。最近、栗林さんとも話題にしているTAKRAM RADIO(ポッドキャスト番組)で、渡邊康太郎さんが言っていたんですけど、「プロジェクトのゴールって最初に設定されるけど、プロジェクトが進行するうちに発想が広がっていって、最初のゴールと全然違う提案をすることが楽しい」って。

まさに栗林さんとご一緒したお客様なんて、会うたびに更新されてるわけですよ。それなのに作り手が「最初にこう決まったんだから、決まった内容で作らないと困りますよ」って言うのって、なんか違う気がするんですよね。「モノづくり」が前提だと、それをマネタイズしないといけないから「変化には付き合ってはられないんです」っていう発想になっちゃうし、お客様は、「いま、このゴールは全然違うと思っちゃってるけど…」と思いながら、依頼したからには、作ったものにお金を払わないといけない状況になってしまう。それって変だなと思っていて。
というのは、ここ数年、いろんな企業のブランドコンセプトを作ってきて感じたこととして、お客様といっしょに試行錯誤を繰り返して、お互い刺激し合ったりしているうちに、少しずつ本質が見えてきて・・・。そんなトライアンドエラーを繰り返しをしていると、だんだんお客様自身の自社についての解像度が上がってくるんですよ。それこそすごい意識の変化が起きるわけです。

お客様もそうやって日々深まっていくのに「数か月前に打ち合わせで言ってたことを、そのまま形にしなきゃならない」って話がナンセンスになってくる。過去に決めたものを(すでに陳腐化しているのに)その通りに作って納品して、それでお金をもらうって、意味あるのかな?って思うんですよ。

最後の一滴のようなデザインを、生み出されるべきタイミングで出す

笹目:この間、お客様からいただいて嬉しかった言葉があって。
森島酒造株式会社というお客様で、2019年にプロジェクトチームを立ち上げてキャッチボール(ディスカッション)をしながらお酒のラベルやwebサイトをデザインしてきたんですけど、そのチームにいるお酒の販売店の社長さんが「デザインって、みんなであれやこれやと話し合って、みんなが『もうこれしかないよね』ってなって、それが雫が垂れるみたいに落ちてくるもんだと思うんだよ」って言ってたんです。ことの始まりを知らないようなデザイナーに『とりあえず10案作ってきたから、この中から何か良いの選んでください』みたいに言われても、そんなの選べない」って。

だけど、プロジェクトチームのみんなでずっと、「こうじゃない」「ああじゃない」って向き合い続けていけば、「もうこれしかないよね、そしたらこれだよ!」っていう雫が1個だけポトッて落ちてくる。それがデザインじゃないんですかね、って。

私もまさに、デザインは生み出されるべきタイミングで生み出されるのが理想だと思っていて。そこに至るまで、私たちが思考のキャッチボールに付き合っていく。作るものが決まっているところからお付き合いが始まったお客様も、「やっぱり考えを整理する方を優先にしてほしい」みたいにどんどん変わっていく。そんな風に日々変化していくお客様に対して、生み出すタイミングを待てずに、限られた時間でものを作ることは、全く役に立てないというか・・・。

だから、壁打ちの壁になったり思考のスパーリング相手になる期間を十分に持って、最終的にお客様が「ああ、これだ!」っていう純度の高い雫が落ちてきたタイミングで、私たちがデザインするのが理想だなと思っていて。その期間を含めてのクリエイティブという考え方が、私たちには合っているんだろうと。

渡邊康太郎さんもポッドキャストで言っていたんですけど、「プロジェクトが動くと、あれこれ発想が広がっちゃって、全然違うゴールの提案をしたくなっちゃって、みんなにちょっと困らせることもある」と。それってわかるなと思って。その方が自然な作り方だと思うんです。

(おわり)

 取材・編集・ライティング 栗林弥生
イラスト 佐野圭