「これでいいのか?」から「これでいいのだ」へ経営者の想いを純度100%に
「これでいいのだ」
経営者は誰もが、迷いながらも自分を信じて突き進んでいます。でも時に、その道が正しかったのか深く悩むことがある。そんなとき、この言葉が心に響きます。
赤塚不二夫の『天才バカボン』に登場するこの言葉は、決して開き直りでも、諦めでもありません。
それは、社会に貢献できていることを実感できたとき、経営者が自分自身に贈る深い自己肯定の言葉。
「自分の選んだ道が間違っていなかった」という、魂からの安堵の声なんです。
私たちTRUNKは、経営者の方々がこの「これでいいのだ」という境地に至るお手伝いをするデザイン会社です。お手伝いするのは、その人や企業の「純度を高める」こと。
「純度を高める」とは、その経営者が、企業が、本当にやりたいことはなんなのか。無駄なものを削ぎ落として、みつけていくアプローチです。
なぜ、そんなアプローチを選んだのか。きっかけは、私自身の切実な体験にありました。それが、1~7話でお伝えした物語です。
本当に「聞く」ということ
初年度の利益10万円という惨憺たる結果から、値上げで業績を回復させても、大切な顧客を失っていく……。経営者として私は、そんな深い挫折と何度も向き合ってきました。
そして、試行錯誤の中で気づいたのです。まず、本当にお客様の話を「聞く」ことから始めよう。デザインを考えることを一旦脇に置いて、ただひたすらに相手の声に耳を傾ける。すると、経営者の創業の思いや、企業理念に基づく本質が見えてくるのだと。
ある国の商材を扱う貿易商社では、社長は、並々ならぬその国への想い入れを持っていました。しかし社員の新陳代謝が繰り返されることで、現在在籍している社員の方たちには、その想いが十分に伝わっていませんでした。
つまり、社員の皆さんにとっては、たまたま勤めた先が、「外国の商材を扱う会社」だったのです。
もちろんみなさん、自分にすべき仕事を真面目に一生懸命取り組んでらっしゃいましたが、「そもそもなぜその国なのか?」「その国の商材の本質的な価値とは何か?」などについて立ち止まって考える機会がそれまでありませんでした。
そこで私たちは毎月のように足を運び、社長の思いを引き出し、社員さん達と対話を重ねました。
すると、少しずつ変化が生まれ始めました。社員さん達は、その国の文化や暮らしを学び、イメージすることでその土地で育まれた商品の魅力や価値を、自分の言葉で語れるようになっていったのです。
社員全員が、行ったことのない遠くの国の人々の暮らしや、厳しい環境の中で育まれた食材の素晴らしさを、具体的に伝えられるようになっていきました。それはもう、驚くような変化でした。
余分なものを削ぎ落として、本質を鮮明に
森島酒造の森嶋さんと初めて向き合ったときも同様でした。
謙虚な森嶋さんの内面には、「酒造りに有利とは言えない立地でも、うまい酒が作れることを証明したい」という、熱い想いを秘めた挑戦者が宿っていました。
でも、その想いは当初、控えめな態度の背後に隠れていました。じっくりと時間をかけて話を聴いていくうちに、少しずつ本音が溢れ出し、言葉の端々から、森嶋さんが向かうべき方向が見えてきたのです。
「一石投じる一杯を」
このタグラインには、森嶋さんの反骨精神と情熱のすべてが込められています。その想いを形にするために選んだのが、ラベルの中央に大きく配置された「石」です。一見、酒のラベルとしては型破りな選択です。でも、それは森嶋さんの「常識を覆す」という生き方そのものの表現でした。
「こんなラベルの日本酒は売れない」発売直前、そんな声も上がりました。でも、私たちは確信していました。この「型破り」なデザインこそが、森嶋さんの酒と想いを世の中に届ける最高の方法だと。結果は、私たちの予想を遥かに超えました。
「森嶋」は瞬く間に茨城で最も売れる日本酒となり、全国的な評価も得ることができました。何より嬉しかったのは、森嶋さんが「初めて仕事が楽しいと思えた」と目を輝かせて語ってくれたこと。
そこに私は、「これでいいのだ」という深い確信を見たのです。
今橋製作所との「hikiZAN」プロジェクトでは、若手社員の情熱と町工場の精緻な技術力を融合させ、世界に通用するプロダクトが生まれました。
葵建設工業では、建築を心から愛する社員さんたちの想いを知ったことから、彼らと建物をメインビジュアルに据えました。これらは決して私たちが、何かを付け加えたわけではありません。
むしろ、余分なものを削ぎ落としていく作業でした。その人や企業が本来持っているものの純度を高め、より鮮明に表現していく。そうすることで説得力が生まれ、自然と顧客の心を掴み、結果として、売り上げの向上や評価の獲得につながっていったのです。
時には道半ばでも
しかしもちろん、すべての物語が華々しい成功で終わるわけではありません。時には、経営状況の変化など、外部要因によって純度を高める過程が中断を余儀なくされることもある……。どんなに対話を重ねても、答えが見つからないこともあります。
それでも、その過程で生まれた気づきや変化は、決して無駄にはなりません。だから、答えを急がなくてもいいんです。時に経営の答えは一つではないし、そう簡単に見つかるものではないからです。
ただ対話を重ねることで、答えへの理解の溝が少しずつ埋まる効果があります。そしていつかまた、新しい形で花開く日が来ると信じています。私たちは、幾度となくそんな経験してきました。
自分らしい「ロックな生き方」の答え
私たちTRUNKがやっていることは、最初はデザインを離れてまずお客様の話に耳を傾け、その本質をつかんでからデザインに落とし込み、社会に届くカタチに変換する行為です。
それは、私自身が経営者として挫折と向き合い、苦しんできたからこそたどり着いたことなのかもしれません。だからこそ、経営者の悩みや不安、そして情熱が、痛いほど分かる。そして、デザイナーとしての試行錯誤の中で、「形にする」ということの本質も学んできました。
ただ見た目を整えるのではなく、経営者の想いや価値観を、世の中に響くカタチに変換していく。それは、経営者の方々への深い共感があってこそ、できることだと思います。
私たちが関わることで経営者の純度が高まり、「これでいいのだ」という境地に至る。そのクリエイティブな流れを提供することが、私たちTRUNKの存在意義であり、私たち自身の「これでいいのだ」にもつながっていくのです。
若い頃、私はポール・ウェラーのような生き方に憧れ、それをロックだと信じていました。でも楽器は弾けず、その夢は叶いませんでした。そして経営という道を選び、苦悩の中で「聞く力」と「形にする力」を身につけていきました。
ですが、経営者の方々の想いに耳を傾け、その本質を引き出し、より輝かしい形で世の中に送り出すこと。それは私にとっての最も「ロックな」生き方かもしれないと気がついたのです。
なぜなら、経営者の方々に寄り添い、その純度を高め、「これでいいのだ」という境地へと導く行程は、音楽プロデューサーが、アーティストの持つ才能を見出し、最高の音楽として届けることに似ているからです。一緒に、長く歌い継がれるヒット曲を作るのです。
気づいたら私は、私らしくロックを奏でていたんだーー。1話目で語った、あの迷える青年の物語はこうして、自分らしい答えにたどり着きました。
私たちが経営者に寄り添い、「純度を高める」ブランディングプロジェクトの名は、「BANSO」です。
茨城の地で、中小企業の経営者の方々と共に、その人らしい物語を紡いでいく。私たちTRUNKは、そんな伴走者であり伴奏者でありたい。自分らしさを忘れず、「自らのロック」を奏でて生きている経営者が、たくさん生まれるといいなと願っています。
もしあなたが今、「これでいいのか?」と思っていたら。私たちと一緒に、あなたにしかない「これでいいのだ!」を見つけていきませんか。
編集協力/コルクラボギルド(文・笹間聖子、編集・頼母木俊輔、イラスト・いずいず)